Category: Review

「リトル・ミス・サンシャイン」

昨日のエントリーでも紹介したApple TVで、初めて映画をレンタルしてみた。選んだのは、「リトル・ミス・サンシャイン」。三年ほど前に映画館で観たことがあるのだが、その時も面白い映画だったという記憶があったので、iTunes Storeに字幕版がラインナップされているのを見つけて「これだ!」と思った次第。

アリゾナの田舎町に住む、ぽっこりおなかの女の子のオリーブが、ひょんなことからカリフォルニアで開催される全米美少女コンテストに出場することになった。お金のない一家の面々は、黄色いワーゲンのワゴンに乗り、1000キロ離れた美少女コンテスト会場を目指す。成功するための怪しげなメソッドを出版してひと儲けをたくらむ父親。料理も作らず家族にフライドチキンばかり食べさせる母親。ニーチェに心酔して誰とも口をきかない兄。ゲイの恋人にふられて自殺未遂を起こしたプルースト研究家の叔父。ヘロイン吸引がやめられないワルでエロいじいさん。揃いも揃って(世間的には)負け犬で、お互いバラバラでいがみあってばかりの人たちが、旅の途中で起こるいくつかの小さな、そして大きな事件をきっかけに、少しずつ変わっていく。

クラッチが壊れたオンボロワゴンを、家族みんなで押しがけしながら、一人、また一人と走りながら車に飛び乗っていくシーンが、本当にすばらしくて、何度観てもじーんとする。「リトル・ミス・サンシャイン」に携わった人たちは、このシーンを撮りたいがためにこの映画を作ったのではないかと勘ぐってしまいたくなる(笑)。三年ぶりに観ても、やっぱり、しみじみいい映画だった。Apple TVを買ってはみたものの、さて何をレンタルしようかと迷っている方には、この「リトル・ミス・サンシャイン」をおすすめしたい。

ちなみに僕は、Apple TV自体からレンタルできるHD画質版を選んだのだが、画質や音質は申し分ないクオリティで、快適に観ることができた。パソコンのiTunesからは100円ほど安いSD画質版もレンタルできる。それほど大きくないテレビなら、そちらでも十分だと思う。

Apple TV

先週末、Apple TVを手に入れた。まだそれほど本格的に使い込んでいるわけではないけれど、これは相当楽しめるガジェットだと思う。

Apple TVとは何なのか、一言で言うと、パソコンのiTunesに蓄積している音楽や写真、動画などのコンテンツを、リビングルームのテレビで気軽に楽しめるようにするための製品だ。本体は非常にコンパクトで、テレビの横にちょこんと置いておいても邪魔にならない。セッティングは、別売のHDMIケーブルをテレビ本体に、電源ケーブルをコンセントにつなぐだけ。ただし自宅にワイヤレス環境がない場合は何かと面倒なので、あらかじめ導入しておいた方がいいと思う。付属のリモコンはイマイチ使い勝手が悪いのだが、iPhone用のアプリのRemoteを使うと、かなり扱いやすくなる。

Apple TVの一番のウリは、iTunes Storeで販売とレンタルが始まった映画コンテンツを楽しめるという点だが、まだまだラインナップは貧弱(特に僕が観たいミニシアター系の映画が少ない)。ただ、今後ラインナップが充実して、テレビドラマの配信などが始まれば、ぐっと面白くなるだろう。iPhotoライブラリに蓄積しているラダックの膨大な写真をテレビで楽しめるのは、個人的に嬉しいポイント。あと、今ちょっとハマっているのはYouTube。あらかじめパソコンで探して適当に登録しておいた動画をテレビの大画面でだらだら観ていると、あっという間に時が過ぎる。Apple TV廃人になりそうだ‥‥(笑)。

この間テレビを買い替えた時は、せっかくだから映画を見るためのBDプレーヤも導入しようかと思っていたのだが、今はApple TVがあれば、もう他のものは必要ないなという気がしている。これだけいろいろ楽しめるガジェットが、8800円で手に入るとは、すごい時代になったものだ‥‥。さて、今週末は何の映画をレンタルしようかな(笑)。

フェアーグラウンド・アトラクション「Kawasaki Live in Japan」

冬になると、フェアーグラウンド・アトラクションが無性に聴きたくなる。

彼らが活動していたのは、もう二十年以上も前だ。最初のシングルとアルバムがともに全英チャートで一位を獲得し、とてつもないバンドが出てきたと思ったら、二年後には解散してしまった。エリオット・アーウィットが撮影した有名な写真をジャケットにあしらった「The First of a Million Kisses」は、僕も学生の頃によく聴いていた。当時、学生寮で一緒だった先輩や友達や後輩たちが、入れ替わり立ち替わりやってきては、「これ、ダビングしたいから借りていい?」と言ってたっけ。

2003年になって突如発売されたこの「Kawasaki Live in Japan」は、1989年にクラブチッタ川崎で行われたライブを収録したものだ。このアルバムは本当に奇跡のような出来で、エディ・リーダーの歌声も、ギターやギタロン、ドラムの演奏も、何もかもが神がかっている。こんな凄いバンドがたった二年で解散してしまったなんて、本当に惜しいと今でも思わずにいられない。

寒い日の午後、彼らの「Allelujah」を聴くと、自分もふと、遠い昔のあの頃に引き戻されるような気がする。

上阪徹「書いて生きていく プロ文章論」

このブログでも何度か書いたが、僕は最近、ある地方自治体から依頼された、文章術の講師のような仕事を担当している。その地方自治体のプログラムに参加している一般の方々が地元のNPOや市民団体を取材して書いたレポートを添削し、どこをどう直せばよりよい文章になるか、ミーティングの場で相談に乗るというものだ。

文章の書き方なんて、誰かに教わったこともなければ、教えたこともない。依頼を引き受けた時は、正直どうしたものやらと途方に暮れていたのだが、ミーティングで自分なりの取材の仕方、文章の書き方について話をすると、参加者の方々は「へぇ〜」「ほぉ〜」といった感じで、かなり興味を示してくれた。自分では日頃からごく当たり前にやっていることなのだが、ライターがどんな風に仕事をしているのかということは、世間ではあまり知られていないようだ。

そんな経験もあって、これを機に自分自身の仕事を振り返ってみようと思って手にしたのが、この「書いて生きていく プロ文章論」という本だった。

この本は「文章論」と銘打たれてはいるが、著者の上阪徹さんが冒頭で言及しているように、文章の「技術論」ではなく、「文章を書く上での心得」について書かれている。上阪さんは、経営や金融、ベンチャーなどの分野で活躍されている辣腕のライターで、知名度や実績では僕は足元にも及ばないが(笑)、ほぼ同年代で、同じようにインタビューの仕事を中心に手がけてきたこともあって、共感できる「心得」もずいぶん多かった。読者をしっかりとイメージすること、何を伝えたいのかを突き詰めていくこと、文章術と同じかそれ以上にインタビュー術が重要だということ‥‥。僕にとっては、新たな「発見」というより、自分の仕事の仕方を「再確認」させてもらった一冊。自分に足りない部分があるとすれば、それはこうした「心得」の一つひとつを、ちゃんと徹底しきれていない時があることだろう。同業者の方々も、読み進めていくうちに「うっ!」と思わされるくだりが少なからずあるのではないだろうか。

この本のあとがきで上阪さんは「考えてみれば、本書は〝自分の考え〟を〝自分の言葉〟で構成した初めての本です。もしかすると、初めての本当の自分の本、といえるのかもしれません」と書いている。すでにベストセラーを含めて何十冊もの本を出している方だけど、そんな風に「初めての本当の自分の本」と思える一冊を書けたというのは、喜びもひとしおだったのではないかと思う。自分が心の底から大切にしていることを伝えるために、ありったけの思いをこめて、文章を書く。それはこの仕事で一番、愉しくて、難しくて、やりがいのあることだから。

中村文・たかしまてつを「あすナロにっき」

‥‥とにかくかわいい。問答無用にかわいい。萌え死にしそうなほどかわいい。いやほんと、恐るべき破壊力だ‥‥(笑)。

あすナロにっき」は、イラストレーターのたかしまてつをさんと、元編集者で今はフリーでDTPの仕事をしている中村文さんが飼っているナロという子猫の物語。一年ほど前、まだほんの小さな頃に知り合いが拾った子猫を、二人がひとめぼれして引き取ったのだ。家と塀の狭い隙間で拾われたので、「ナロー(narrow)」→「ナロ」という名前にしたのだという。二人はナロを飼いはじめた頃から写真やイラストをふんだんに使ったブログを更新していたのだけれど、このたび、それがめでたく一冊の本にまとめられることになった。

僕と中村さんは、昔、九段下にあった出版社の同じフロアで働いていて、以来ずっと仲良くさせていただいているのだが、去年の今頃、二人の家に遊びに行って、ちょうどこの「あすナロにっき」の頃のナロと遊ばせてもらったことがある(自慢)。両手のひらの中にすっぽり収まってしまうほどちっちゃなナロが、膝の上でくるっと身体を丸めていた時のほんわりしたぬくもりは、今でもよく憶えている。こ、この冷酷非情な男の心を溶かすとは‥‥。

この「あすナロにっき」、どのページをめくっても萌え死に要素テンコ盛りで、僕はもうすっかり全面降伏なわけだが(笑)、個人的に気に入っているのは、たかしまさんが左手でナロを抱きながら絵を描いている写真かな。あと、「後ろ足強化」の写真の踏ん張った両足にはツボった‥‥。あすナロまんがでは、断然「ニャバター」(笑)。