Category: Diary

ラッシュアワー

今日は朝イチと午後イチに取材が一本ずつ入っていたので、早々と出かける。ラッシュアワーの中央線は怖かったので(苦笑)、新宿までだからと、三鷹始発の総武線に乗ることにした。プラットフォームでは、二本先の列車を待つ人たちが整然と列をなし、列車が来ると、ザッ、ザッ、ザザザッ、と、まるで軍隊仕込みのようなポシショニングからの整列乗車。一糸乱れぬ挙動とはこのことか。

新宿に着いたら着いたで、構内を行き交う人たちの歩くスピードが、昼間の倍くらい速い。なんでみんな、あんなにものすごいスピードで歩くのか。わずか数分のうちに、後ろから来た人にスニーカーのかかとを三回も踏まれ、靴ひもまで踏まれてほどけてしまった。あな恐ろしや。

ニッポンのラッシュアワー。毎日はこれを味わわなくてすむ生活を送れている自分に、少しホッとしている。

積み重ねたもの

うららかな日射しだなあ、と薄着で出かけようとしたら、思いのほか風が冷たかった。春はまだか。

午後、中野近辺で取材。新しいクライアントから依頼された仕事なので、要領がつかめていない不安はあったが、まずまず無難にやり遂げた。明日も、午前と午後に同じ案件の取材があるのだが。

今日取材したのは、十数年前に僕がちょこっと関わっていた雑誌のアートディレクターをされていた方。当時の僕はまだペーペーで、ご本人とはそれほど密にお仕事をさせていただいていたわけではない。なので、最初からそう名乗るのは図々しいと思って黙っていたのだが、取材が終わった後におそるおそる、「実は‥‥」と言いかけると、「そうだよね? どこかで会ったと思ってたんだ‥‥」と。それだけのことだったのだが、何だか嬉しかった。

その雑誌に関わっていた頃は、出版社内でまあいろいろあって、僕自身、いい仕事ができていたとはあまり思えない。でも、無駄に感じても、回り道に思えても、積み重ねたものは、いつかどこかで、何かに繋がる。今の僕があるのは、十数年前のあの頃、何者にもなりきれずにあがいていた時間があったからなのかもしれない。

無関心との戦い

昼、渋谷で開催されるチベット・ピースマーチへ。家を出る時はまだ雨が降っていたが、ピースマーチが始まる頃には止むだろうと思っていた。こういうチベット絡みのイベントがある時は、不思議なくらい天気が持ちこたえるのだ。案の定、一行が宮下公園を出発する頃には、雨はぴたっと止んた。

宮下公園から、渋谷駅前、宮益坂、国連大学、表参道、そして再び宮下公園まで。一時間半ほどのピースマーチ。参加人数は、多めに見積もっても、200人くらいだろうか。2008年の時は、六本木に2000人も集まったのだが‥‥。残りの1800人は、たぶん、チベットのことはもう忘れてしまったのだろう。沿道からも「何やってんの? この人たち」という冷ややかな目線を浴びることの方が多かった気がする。

200人が一時間半ほど渋谷の街を練り歩いたところで、何も変えられないのかもしれない。でも、誰も、何もしなければ、本当に何も変わらない。

昨年からチベットで続いている焼身抗議という行為が、賢明なやり方だとは僕も思わない。でも、日々の生活から言論や信仰まで徹底的に弾圧され続けているチベットの人々の思いを考えると、無責任に「よせばいいのに」などと軽く流すことなんてできない。彼らの戦いは、理不尽な弾圧を続ける中国当局との戦いであると同時に、世界中の人々の無関心との戦いでもあるのだ。

あなたが、チベットの人々のことをほんの欠片でも気にかけているのなら、もっと彼らの現状について知ってほしい。そして、チベットについて周囲の人々と話をしてほしい。無関心という敵に勝てなければ、チベットの人々は本当に、文字通り、見殺しにされてしまうのだから。

閉店フェア

昼、外苑前のオフィスで、ラダックのガイドブックの打ち合わせ。僕が書き上げた原稿や写真などのデータ一式をデザイナーさんに渡し、編集者さんや印刷担当の方を交えて、今後の段取りなどを決める。いよいよ佳境に突入といったところ。とにかく、校了まで全力で突っ走るだけだ。

帰りに新宿に寄り道して、今月いっぱいで閉店することになったジュンク堂書店新宿店に行く。店内のあちこちで展開されている「閉店フェア」。書店員さんたちの手書きのポップには、本への思い入れと愛情と、この店を離れなければならない悔しさがにじんでいた。ジュンク堂自体の売上云々ではなく、三越が撤退してビックカメラにビルを一括賃貸するというツマラナイ判断をしたせいなのだから、なおさらだろう。

今、僕が携わっている本づくりという仕事は、本を売ってくれる書店がなければ成り立たないものだ。作り手と、売り手と、そして読み手。すべてが揃って初めて、本という存在が生命を持つ。自分一人の力で生きてるわけじゃないんだということを、忘れないようにしなければいけないな、と思う。

慣れっこになって

午前中に、三鷹駅ビル内の喫茶店で人と会う。相手はテレビ番組の制作会社の方。ラダックについていくつか聞きたいことがあるというので、お会いすることになったのだ。

相手の方は以前ロケハンでラダックに行ったことがあるそうなのだが、「へー、そうなんだ」と思ったのは、その方が「ラダックのあの剥き出しの岩山と青い空のコントラストは、視聴者にとって間違いなく鮮烈なインパクトを与えると思うんです!」と言っていたこと。そう言われてみれば、確かにそうだ。あまりにも慣れっこになってしまって、そういう新鮮味を味わう感覚をすっかり忘れかけていた(苦笑)。

あの岩山。あの空。日本には、あれを知らない人がまだまだ本当にたくさんいる。あれを見たら、どう思うのかな。