サルマン・カーンとカトリーナ・カイフが凄腕スパイ夫妻を演じる「タイガー」シリーズの第三作。第二作は日本では劇場公開されていないのだが(僕はエアインディア機内で観た)、前二作をすっ飛ばして、いきなりこの作品だけ観ても、特に支障はない。前二作に加えて「パターン」を観ているとフフッとくる仕掛けも、もちろん随所にあるが。
元RAWのエージェント、タイガーと、元ISIのエージェント、ゾヤの夫婦は、オーストリアの湖畔の街で息子とともに暮らしていた。アフガニスタン潜入中に拘束されていたRAWのエージェント、ゴービーを救出するため派遣されたタイガーは、ゴービーが息を引き取る寸前に、ゾヤが二重スパイであると告げられる。半信半疑のまま、次の任務でサンクトペテルブルクに向かったタイガーは、思いもよらない窮地に追い詰められることになる……。
今回の敵役は、パキスタン国内で軍と結託して民主派の首相(ちなみに女性)を暗殺してクーデターを起こそうと企てている人物。その策謀を阻止するため、インドの元スパイであるタイガーが仲間たちとともに立ち向かうという筋立ては、ここしばらくナショナリズムに染まった作品の多いインド映画界においても、少し異彩を放っているように感じた。安易にインド中心主義でパキスタンを敵役にするのではなく、かの国にも善き人々はいるのだ、という……。ともすると、公開前からものすごいバッシングを受けかねない最近のインド映画界なので、ぎりぎりのバランスを探った結果のような印象を受けた。
物語の組み立ては、「パターン」に似ている部分もある。あるものを厳重な金庫から奪取するために潜入し、拘束されてから助っ人(笑)と協力して脱出し、最終決戦に臨む……という感じで。このシリーズは、基本的にタイガーとゾヤの強さがチートなので、今作でもそこまでピンチに陥ったりはしなかったのだが、今後、YRFスパイ・ユニバースの制作が進むにつれ、さらなる強敵と渡り合うようになる……のかもしれない。パターン対タイガーとか。そんな気がする(笑)。