不穏な雰囲気の世の中ではあるが、マスクと消毒液持参で、混む列車と繁華街を避けまくり、アップリンク渋谷へ。インド大映画祭の「ヴィクラムとヴェーダー」を観に行った。これはどうしても、日本語字幕付きのスクリーンで、見届けておきたかったのだ。平日の初回だったこともあって、場内は空いていて、ちょっとほっとした。
殉職した警官の父を持つヴィクラムは、自身も警官として、相手が悪党であれば射殺も厭わない非情さで、ギャング組織の黒幕であるヴェーダーを追っていた。ギャング同士の抗争に見せかけて、次々とヴェーダーの手下を始末していく、ヴィクラム率いる警察の偽装襲撃チーム。そんな中、突如、ヴェーダー本人が警察署に出頭してくる。他の誰に対しても固く口を閉ざしていたヴェーダーだったが、ヴィクラムが取調室に現れると、饒舌に自身の過去を語りはじめる……。
いや、これ、すごい。すごい作品だ。他の人のレビューに「あまりにも人が死に過ぎる」という意見があって、まあ確かにそうなのだが、ギャング同士の抗争とか、酷過ぎる警察とか、そもそも死人が出やすい物語設定だし、そのあたりがマイルドだと、この作品の「善と悪の境界線」というテーマが、重みを失ってしまうように思う。善とは何か、悪とは何か、誰が、何を基準にそれを決めるのか。ヴェーダーの問いかけに、ヴィクラムの信じていたものが、不確かに揺らいでいく。
R・マーダヴァンとヴィジャイ・セードゥパティの二人は、どちらも渋くて凄味があって、ずしりと重い(そしてほんの時々カルい)演技が、とてもよかった。なかなか先を見通せないストーリー、伏線の巧みさ、まさか!の展開、そこで終わるのかよ!のラスト。ほんと、いろいろ衝撃だった。観ておいてよかった……。