「私たちが光と想うすべて」


2024年のカンヌ国際映画祭で、パルム・ドールに次ぐ賞であるグランプリを受賞したインド映画「私たちが光と想うすべて」。パヤル・カパーリヤー監督は、初めて手がけたこの長編劇映画での受賞を機に、世界各国、そしてもちろん、インド国内でも注目されるようになった。

雨に濡れ濡ったムンバイの街で暮らす人々。海外に働きに出たまま音信不通となっている夫を持つ、看護師のプラバ。年下の同僚でルームメイトのアヌは、イスラーム教徒のシアーズと秘密の交際を続けている。病院の食堂で働くパルヴァティは、高層マンション建設のために住処からの立ち退きを迫られている。ヒンディー語をうまく話せない医師のマノージは、不在の夫を持つプラバに密かな思いを寄せている。そんなある日、故郷に帰るというパルヴァティに付き添って、プラバとアヌは海辺の村を訪れる……。

貧富の差。男尊女卑。異なる宗教。異なる母語。さまざまな格差やしがらみ、あるいは断絶に、ままならない人生を過ごす人々。ものすごく劇的な出来事が起きるわけではなく、わかりやすい答えが用意されているわけでもない。にもかかわらず、電飾で彩られた海辺の食堂を遠くから捉えた最後のシーンに、胸の裡がほんのりと温かくなったのは、なぜだろう。

この映画でとりわけ印象に残ったのは、夜のアパートの窓辺で、プラバがスマートフォンのライトで手元を照らしながら、マノージから贈られた手帳に書き留められた詩を読む場面だ。背後の窓の外にはムンバイの夜景が広がり、列車が高架線路をガタンゴトンと走っていく。本当に美しい映像で、あの場面を見れただけでも、映画館に足を運んだ甲斐があったと思えた。

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