インディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで観た2本目の映画は、「ムンナー・マイケル」。これも昨年の上映時に見逃していた作品だ。主演はタイガー・シュロフ。脇を固める重要な役どころに、ナワーズッディーン・シッディーキー。
ムンバイの雨降る街角で、しがないバックダンサーに拾われて育てられたムンナー。義父の影響でマイケル・ジャクソンを敬愛する彼は、ダンスで彼のようなスターになる日を夢見ながらも、クラブでの賭けダンスで日銭を稼ぐ日々を過ごしていた。ムンバイのクラブというクラブを荒らして出禁にされてしまったムンナーは、稼ぎ場所をデリーに移すが、その一帯を仕切るギャングのボス、マヘンドラに目をつけられてしまう。しかし、マヘンドラがムンナーに要求したのは、30日間で自分にダンスをマスターさせてほしい、という依頼だった……。
この作品、今のボリウッドでは随一の身体能力を誇るタイガー・シュロフを主役として当て書きしたのに間違いない。今風のボリウッド映画の(良くも悪くも)ベタでダンサブルな楽曲が随所に散りばめられていて、ダンスシーンの映像も華やか。冒頭の導入部の長回し的なくだりも素直に気分がアガる感じ。ただ、物語の組み立ては予想よりかなりあっさりしていて、もうひと工夫、ふた工夫はできたんじゃないかと思う(ムンナーとマヘンドラの仇敵になるような真の悪役一味を用意するとか)。ダンスはともかくバトルでも、最初から最後までムンナーが(お約束とはいえ)チートすぎたのも、少々スリルに欠けた。ヒロインのニッディ・アゲルワールは今作がデビュー作だったらしいのだが、さすがに演技もダンスも固い印象だった。
そんな中でこの作品のバランスを保っていたのは、マヘンドラを演じたナワーズ兄貴の力の抜けたコミカルな演技だったと思う。この人は、どんな役をやらせても上手い。マヘンドラが特訓の成果を見せるダンスシーンは、顔の映らないカットを多用して(バレバレだけど)ごまかしてたけど(笑)。
本当の意味での悪人はほぼ誰もいない、平和なボリウッド・ミュージカル映画をのほほんと楽しみたいなら、悪くない作品じゃないかと思う。