南インド映画祭で公開された12本の作品のうち、唯一のカンナダ語映画「ルシア」。カルナータカ州で主に話されている言語の作品だ。クラウドファンディングで調達した資金で作られた低予算作品なのだが、いい意味で、今年観た中で一番の「してやられた感」を感じた映画だった。
大都会バンガロールの片隅で、客の入りの悪いカンナダ語映画にこだわって上映を続けている古い映画館。田舎者で学のないニッキは、その映画館で客の案内係をして暮らしている。同居人の男たちのいびきで眠れない夜を過ごしていた彼は、胡散臭い売人たちから「ルシア」という睡眠薬を買う。それはただの睡眠薬ではなく、自分の思い通りの楽しい夢を見ることができて、薬を飲むたびにその夢の続きを見られるという薬だった……。
何をやってもうまくいかない、どん詰まりの現実から逃れるように、彼は夢を見る。夢の中での彼は、誰もが羨む華々しい立場の人間で、仕事も、恋人も、思うがまま。のはずだった。夢は微妙にぎくしゃくしはじめ、現実は予想外の方向に転がりはじめる。そして……これは夢なのか。それとも現実なのか。この映画そのものが夢なのか。
観る者を翻弄するこの「ルシア」の中で、常にまっすぐに届いてくるのは、映画への愛情だ。現実のつらさをつかの間忘れさせ、小さくても生きる希望を心に灯してくれる映画というものの存在と役割を、この作品の作り手たちは本当に大切に考えているのだと思う。
誰かにとっての小さな夢は、別の誰かにとっては大きな夢かもしれない。一人ひとりが現実の中で、それぞれの夢を抱えて生きることの意味。観終わった後の不思議な余韻の中で、そんなことを考えさせられた映画だった。