リスクについて

十数年前、約半年をかけてアジアを横断する旅の途中、パキスタンのペシャワールに何日か滞在していたことがある。当時のパキスタンは今と比べるとまったく平穏な状態だったが、隣国のアフガニスタンは、タリバンの台頭に伴う内乱によって混迷を極めていた時期だった。

ペシャワールの安宿のドミトリーには、僕以外にも結構大勢の日本人旅行者が泊まっていた。彼らの間では、どうやったらペシャワールからアフガニスタンに入って戻ってこられるか、という話題でもちきりだった。カメラなどをいっさい持たない状態で入れば、途中でタリバンに捕まっても大丈夫らしい、とか何とか。彼らがアフガニスタンに行きたい理由は、単に怖いもの見たさの好奇心と、危ない国に行ってきたと周囲に自慢したい功名心でしかなかった。僕はそんな彼らの話を聞きながら、心底くだらない、と思っていた。

異国を旅したり、あるいは暮らしたりしていると、常にある程度のリスクがつきまとう。時にはどうにも避けようがない事態も起こりうる。ただ、常に用心深く行動して、冒さなくてもいいリスクを冒さないようにすれば、そうした確率をぐっと減らせることは間違いない。あの時、ペシャワールから物見遊山な気分でアフガンに行こうと話していた日本人たちは、まったく冒す必要のないリスクをわざわざ抱え込もうとしていた。

世界各地の紛争地帯で活動するジャーナリストたちは、その地で起こっていることの真実を伝えるという目的のため、リスクを冒してまでも危険な場所に赴く。ジャーナリストにも正直ピンからキリまでいろんな人がいるが、彼らは危険な状況下でも、彼らなりに最大限のリスクマネジメントをして、身の安全を図ろうとしている。それでも時には判断ミスをしたり、万全を期していたのにどうにもならない事態に巻き込まれたりすることはありうる。

心あるジャーナリストであれば、自分がリスクを冒して危険な地域に入った結果、危機的な状況に陥ってしまったら、それを非難されても仕方ないと思うだろうし、逆に聖人君主のように祀り上げられたら違和感を感じるだろう。常にそういう覚悟を持って取材に臨んでいる人は少なくないと思う。

ただ、さしたる覚悟も切実な目的も持たない人が、異国の地で、単なる油断と不注意によるリスクを冒し続けるのは、愚の骨頂だ。自分自身、あらためてそのことを肝に命じたいと思う。

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