アン・サリー「fo:rest」

去年の暮れ、アン・サリーが三年ぶりに新譜「fo:rest」をリリースしたことを知った。今のところ、コンサート会場とレーベルのWebサイトだけでの限定販売だという。さっそく注文して取り寄せてみた。

歌い手であると同時に、医師であり、二児の母でもあるアン・サリー。彼女の歌声には、その時々の彼女の人生が色濃く反映されている。クリスタルのように透き通る歌声が鮮烈だった初期の作品群。ニューオリンズでの三年間の体験から作られた「Brand-New Orieans」。母性愛が惜しみなく注ぎ込まれた「こころうた」。今回の「fo:rest」でのアン・サリーの歌声は、以前よりもさらにしっとりと深みを増した印象を受ける。さまざまな「命」と向き合う彼女の日々の生活が、そうした深化に繋がっているのかもしれない。

自身の作詞・作曲によるオリジナル曲をはじめ、ジョニ・ミッチェルやキャロル・キング、リンダ・ルイス、果ては松田聖子(!)の曲までカバー。ボサノヴァの定番が二曲収録されているのも個人的にはうれしい。わかりやすい華々しさは微塵もないけれど、何度でも、いつまでも聴き続けられるような、愛すべき小品に仕上がっていると思う。

このアルバムを聴いていると、冬の安曇野の森の中を一人で歩いていた時のことを思い出した。誰もいない、残雪が白く残る木立の間を、吹き抜けていった風。「fo:rest」というタイトルが意味するものは、「森」であると同時に「安らぎ」でもあるのだろう。

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