僕が日本を留守にしている間に、奥華子の新しいアルバム「うたかた」が発売されていた。インディーズ時代の作品を除くと、彼女の五枚目のフルアルバムということになる。
帰国した翌日に新宿のタワレコで買ってきて、最初に聴いた時の正直な印象は、「あれっ? こんなもん?」という感じ。今年の春にスマッシュヒットを記録した「初恋」も収録されているものの、キャッチーでインパクトのある曲はあまり多くなく、どちらかというと控えめで、後ろ向きな印象の曲が中心になっている。アレンジもそれに合わせて抑制を効かせている感じで、それがちょっと拍子抜けするような第一印象に繋がったのだろう。
でも、二度目を聴き、三度目を聴き、iPhoneに曲を入れて電車での移動中に聴き‥‥と、くりかえし聴いているうちに、次第にこの「うたかた」の魅力がじんわりと伝わってくるようになった。何度くりかえしても聴き飽きることのないメロディ。それまで何気なく聴き流していたのに、ふいに心にするっと入り込んでくる歌詞。たとえは悪いかもしれないが、噛めば噛むほど旨味が出てくる、スルメのようなアルバム。特に、終盤に収録されている「元気でいてね」は、自身のライブに足を運んでくれるお客さんのことを思って作った曲だと思うのだが、作り手の素直な気持がこもっていて、いい曲だなと思う。
とはいえ、この「うたかた」は、彼女にとっては相当な難産だったようで、発売も予定よりかなり遅れたそうだ。音楽ニュースサイトのナタリーに掲載されたロングインタビューで、彼女は次のように話している。
一年に一枚出すっていうのは前から決めていたので、できると思ってたんですけど‥‥なかなかできなかったんですよ、曲が。今回は一番苦しかったですね。
──どうしてなんでしょうね?
前回のアルバムの時は、自分の気持ちがすごく前向きだったんですよ。でも今回は素の奥華子の状態が出ちゃった。私、素はほんとに後ろ向きなんですよ(笑)。そこが前面に出ちゃったから、そこに打ち勝つまでに時間がかかった感じなんです。曲を書くこと自体、なんのためにやるんだっけ、みたいなところまで行っちゃってたんで。
──どうやってその状態を抜け出したんですか?
曲ができないっていうのは、自分が納得できるものができないっていう意味なんですけど、よくよく考えると「自分ってどんだけすごいの?」みたいな話になるじゃないですか。そこで、何言ってんだよ、たかが奥華子じゃん、ちっぽけなことじゃんって思うことで気持ちを戻していったんですよね、だんだんと。
──「たかが奥華子」って、すごいですね(笑)。
でもほんとそうだと思うんですよ。もちろん、ちっぽけなこととはいえ、そこに対してどれだけ真剣になれるかっていうのは大事なことなんですけど、たかがって思うことでできたアルバムかなって(笑)。
苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いて、「たかが奥華子」と開き直ったことで、生まれたアルバム。こうして作品を生み出す時の苦しみは、とても他人事とは思えない(苦笑)。もう何度目になるか忘れてしまったけれど、またじっくりとこの「うたかた」を聴いてみようと思う。