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本は旅を

冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』の読者の方々や、周囲の友人・知人たちから、読後の感想を寄せていただけるようになった。

ちょっと意外だったのは、かなり多くの人が異口同音に「少しずつゆっくり読もうと思ってたけど、読みはじめたら、一気に読んでしまった」と言ってくれていること。そんな風に読者を引き込む種類の本だとは全然思ってなかったので、びっくりしたし、でも嬉しかった。自分が子供の頃、読みはじめた冒険小説が面白くて、止まらなくなって、寝床でこっそり、ほとんど徹夜して読んでしまった時のことを思い出した。

自分が書いた本を読んでいた時間を、「楽しい時間だった」「幸せな時間だった」と言ってもらえることほど、書き手にとって嬉しい感想はない。僕の方こそ、読んでくださって、ありがとうございました、と、一人ひとりに伝えたい。

本は旅を、連れてきてくれるのだなあ、と思う。

旅の夢を見た

昨日の夜、旅の夢を見た。

場所は、アジアのどこかの国。台湾だったような、ラオスか、あるいはタイだったような。僕はその国の首都に着いて、ターミナル駅の近くにある安宿に泊まっている。バストイレは共用で、部屋の3分の2をベッドが占めている、かなり狭い部屋だ。

僕はそのベッドの白いシーツに足を伸ばして座り、太腿の上でノートパソコンを開いて、翌日からの行動の計画を練っている。この街から列車を乗り継ぎ、少し山奥に入ったところに、九頭の竜のように枝分かれした、ものすごく長くて美しい石の階段を持つ、珍しい寺院がある。僕はそこに、撮影取材をしに行こうとしている。

窓の外を見ると、もう宵の口だ。今夜は何を晩飯に食べよう。安食堂か、それとも屋台か。明日の朝は早いから、宿の部屋で食べられるパンと飲み物も帰りに買おう。さて、そろそろ、カメラを持って、ぶらっと出かけるか……というようなところで、ぼんやりと霧が晴れるように、目が覚めた。

意外に思われるかもしれないが、僕は普段、旅の夢は、そんなに見ない。いつもの年なら、一年のうち数カ月は旅の空の下にいるので、むしろ日本で過ごしている夢をよく見る。でも、たぶん今年は、少なくとも夏頃までは、どこかへ旅に出られるような状況にはならないだろう。

僕が次に旅に出るのは、いつになるのかな。

旅の終わり、旅の始まり

冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』、本日校了。デザイナーさんと編集者さん、印刷会社の担当者さんが、最後の最後までこだわって、データ一式を仕上げてくれた。この後、印刷、製本、配送を経て、4月末には、書店の店頭やネット書店で発売されることになる。

長い旅だったなあ、と思う。去年の1月上旬に渡印して、約4週間、真冬のザンスカールを旅して。3月に帰国して、国内の仕事に復帰してからも、ずっと心ここにあらずという感じで、あの冬の旅についてどんな風にして言葉を刻んでいくか、そのことばかりを考えていた。原稿を書き続けていた日々も、編集作業に没頭していた日々も、僕にとってはずっと、あの冬の旅の続きだった。

その旅も、ようやく、終わった。これからは、完成した一冊々々の本が、一人ひとりの読者の元に届いて、それぞれの旅を始める。どんな風に受け取られるのか、緊張するし、怖くもあるけれど、でもやっぱり、楽しみで仕方がない。

緊急事態宣言なるものが発令され、各地の書店でも短縮営業や臨時休業が相次いでいる現状は、本の売上にもマイナスに作用するだろう。ただ、実のところ、僕はあまり悲観も心配もしていない。『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』は、これから20年、30年経ってからでもしっかり読んでもらえるような、持続性と耐久力のある内容にしている。たぶん、僕の残りの寿命よりも、ずっと長生きするだろう。だから、届くべき人の元には、いつか必ず届いて、それぞれの旅を紐解いてくれる。そう信じている。

『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』

冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ
文・写真:山本高樹
価格:本体1800円+税
発行:雷鳥社
A5変形判288ページ(カラー77ページ)
ISBN978-4-8441-3765-8
配本:2020年4月下旬

書き下ろしの旅行記としては約11年ぶりに、新刊を上梓します。インド北部、ヒマラヤの西外れに位置するチベット文化圏、ザンスカール地方を、真冬に旅した時の記録です。

凍結した川の上に現れる幻の道チャダルを辿り、雪崩の頻発する豪雪地帯ルンナク渓谷を抜け、最深部にある僧院、プクタル・ゴンパで真冬に催されるグストル祭を取材しました。約4週間に及ぶ旅の中で、起こった出来事、出会った人々、一つひとつのエピソードを克明に綴っています。

この本に書き記した内容は、もしかすると、あと10年もしないうちに、ザンスカールからすっかり失われてしまうかもしれません。それでも、いや、だからこそ、この本を作っておきたい、と僕は強く思いました。この本が、一人でも多くの読者の方のもとに届くことを願っています。

十年分の素材

午後、玉川学園前で取材。ひさしぶりに、今季初の大学案件。

コロナウイルス禍に世界が翻弄されている昨今、同業者でも特に旅を主戦場にするライターやカメラマンの方々は、取材などの仕事が吹っ飛んだりして、大変そうだ。僕も少なからず影響は受けているが、それでも今日みたいに普通に国内での仕事の依頼をもらえる境遇にあるのは、まだ恵まれている方だろうなと思う。まあ、国内は国内でどこの企業もいろいろ大変なので、例年よりは仕事の本数も目減りするとは思うが。

そんな状況なのだが、実は思いの外、次の目標はすんなりと定まりつつある。

来月刊行される予定の本の原稿を書き上げた時、うまく言えないが、自分の中で何かがすとんと腑に落ちたような、とてもすっきりした気分になった。それと同時に、2009年に書いた最初の本「ラダックの風息」と、今回の本との間に流れた十年間の歳月の中で、自分があの土地でやってきたことをすっかり振り返って、整理し直し、今までやってこなかった別の形でまとめることができそうな感覚が、掴めてきたのだ。それもこれも、今回の本を書く過程で、自分の中で腑に落ちたものがあったからこそだと思うが。

いったん思いつくと、構成のアイデアは、次から次へと出てくる。各年の取材ノートも残っている。写真ももちろん残っている。十年分の素材が手元にある。家にいながらにして取り組めることが、文字通り、山のようにある。

まずは来月出す本をきっちり仕上げて、その後は、それらのアイデアに取り組もうと思う。がんばろ。