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Laos, from Dawn till Sunset

寄り添う写真

昼、リトスタへ。写真展「Thailand 6 P.M.」に合わせて販売してもらうため、「ラダックの風息[新装版]」と「ラダック ザンスカール スピティ[増補改訂版]」を箱詰めして、家から両手で抱えて搬入。ちょうどランチの時間が始まったので、いわしの南蛮漬け定食とコーヒーをいただいて、本を読みつつ、しばし在廊。

地元の人や、この界隈でお勤めの人らしいお客さんが、30人弱ほどご来店。そこはかとなく耳をそばだてていると、「あら、写真が変わったわね! どこかしら?」「タイだって」「そういえば前にベトナムでさあ……」「誰それさんとカンボジアに行った時はね……」といった会話が、あちこちから聞こえてきた。何だか嬉しかった。今回の写真展は、ごはんを食べながらゆったりした気分で写真を眺めて、それぞれの旅の思い出話とかを楽しんでもらえたらなあ……というイメージで考えた企画だったからだ。

見る者を圧倒するのではなく、何気なく、寄り添うような写真。そういう写真も、あっていいと思う。

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アントニオ・タブッキ著、須賀敦子訳「島とクジラと女をめぐる断片」読了。小さくて悲しくて美しい「断片集」。個人的には「インド夜想曲」よりもこっちの方が好きだ。最後のクジラのひとことが、くっと胸に刺さった。僕もアラスカで、クジラにああ思われていたのかもしれない。

どうということのなさ

今週から始まった写真展「Thailand 6 P.M.」。水曜のオープニングの時にも、来場者の方々からいろんな感想をいただいたのだが、中でも「これ、いいですね」と言ってくれる方が多かったのは、この写真だった。

これは、去年チェンマイで撮ったもの。特に有名な場所にある石像とかではなく、つぶれて閉店してしまったらしいスパかエステか何か、その系統のお洒落系の店だった場所の軒先に、ぽいっと打ち棄てられていたものだ。たまたまその場所を通りがかった時、暮れていく太陽の柔らかな光がスポットのように石像の横顔に当たっていたのを、カメラで何枚か撮った。今はもう、あの場所にこの石像はないかもしれない。

どうということのない写真といえば、その通りだと思う。でも僕は、その「どうということのなさ」に、なぜか惹かれる。ささやかな、どうということのなさに感じる、いとおしさ。いとおしいものは、僕たちの身の回りに、たくさんある。

なごり雪

昨日の昼は、リトスタで今週から始まったタイ写真展のオープニングパーティー。そろそろ会場に向かうか、と支度していた時、ふと窓の外を見ると、景色が真っ白に。雪、というか、吹雪? びっくりするくらい降っている。

よりによってこのタイミングで、なんてこった……と頭を抱えながら、ともかく傘をさして出かける。歩いてくうちに、傘がどんどん、雪でずっしり重くなる。春分の日なのに。タイ写真展のオープニングなのに。雪かよと。

どうにかこうにか会場入りして、今日はもう誰も来ないかも……と鬱な気分になっていたのだが、みなさんとても良い方々ばかりで(感涙)、遠くからはるばると集まってきてくださった。こんな雪の日にこういう写真見ると、なおさら南国に行きたくなるよね! みたいなノリで。ごはんもたらふく召し上がっていただけて、ほんと、ありがたやである。

しかしまあ、なごり雪にしてもさあ……。おかげで、たぶん一生忘れられない写真展のオープニングになった。

長生きする本を

午前中に打ち合わせを一件こなした後、八丁堀の出版社へ。用事のついでに、印刷所から届いたばかりの「ラダック ザンスカール スピティ 北インドのリトル・チベット[増補改訂版]」の見本誌を受け取る。印刷の具合、なかなかいい感じ。今夜はこれから、パタゴニアのロングルートエールとワイルドピンクサーモンで一杯やろうと思う。自分で書いた本の、届きたての見本誌を眺めながら飲む酒ほど、この世で旨い酒はない(笑)。

僕はなぜ、本を作る仕事が好きなのだろう、と以前考えてみたことがある。それはたぶん、きちんと丁寧に作った本は、僕よりもちょっとだけ長生きしてくれるから。僕という人間はどうあがいても、あと2、30年後にはこの世からいなくなる。でもおそらく、僕の作った本たちは、どこかの家の本棚や、図書館の片隅や、あるいは誰かの記憶の中で、僕よりも少しだけ生き延びてくれる。今回作った本も、何十年も経ってしまえばさすがにガイドブックとしての機能は果たせなくなるだろうけど、それでも一冊の本として、長い時を経ても読むに耐えるものを作ったつもりだ。

まあ、そうはいっても本もしょせん印刷された紙の束でしかないから、いつかは朽ちて土に還るだろう。宇宙的なスケールで考えれば、一人の人間がその人生を通じて世界に残せる痕跡なんて、取るに足らない芥子粒みたいなものでしかない。それでもやっぱり、僕は本を作るのが好きだ。自分の作った一冊の本が、誰かの心をほんのちょっと動かしたり、誰かの背中をほんのちょっと押したりすることを、願っている。今までも、これからも。