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ナロとの再会

午後、自転車に乗って、小金井方面へ。たかしまてつをさんと中村文さんのお宅に伺う。

こっちに引っ越されてからお宅にお邪魔するのは初めて。一軒家の二階はアトリエになっていて、何というかもう、夢のような空間。壁から窓辺から襖に至るまで、たかしまさんの絵でぎっしり埋め尽くされている。個展の会場かと思うほど。いいなあ。

中村さんとの仕事の打ち合わせの後、一階の縁側にいたナロにご挨拶。会うのは二年半ぶり、三度目くらいかな。前の時はほんの子猫の頃だったが、今はすらりとした妙齢のお嬢さんに成長していた。そして相変わらず、筋金入りのビビリ(笑)。僕のことも訝しそうな目で見ていたが、そんなにダメでもなかったらしく、用心深く、くんかくんかしてきた。緊張してうずくまってこっちを見てるうちに、寝落ちしそうになったりして(笑)。めんこいのう。

何だかすっかりいい気分で、僕はペダルを踏んで家路についたのだった。

栄光と凋落

午後、東京国立近代美術館で開催中の、ジャクソン・ポロック展を観に行く。噂に違わぬ、すごい迫力の作品群。全体の構成や、随所に添えられた解説もわかりやすくて、とてもいい展覧会だった。

ポロックといえば、流れる塗料を画面に流し込むように描く「ポーリング」という技法を使ったダイナミックな作風で有名だが、彼がその技法を使っていたのが1947年から50年頃までのごくわずかな間だったことは、今回の展覧会で初めて知った。ピカソをはじめとする同時代の画家たちの巨大な壁を乗り越えようと悪戦苦闘を繰り返し、ついに辿り着いた、彼ならではの作風。そのまま同じ技法を使い続けていれば、もっと長い間、世間からの喝采を浴び続けられていたのではないかと思う。

でも彼は、その作風をあっさり捨て、さらに新しい技法への挑戦を始める。その挑戦は世間では受け入れられず、失意と苦悩の中で酒に溺れたポロックは、飲酒運転中に起こした交通事故によって、44歳の若さでこの世を去った。

全盛期を築いた作風を捨てたポロックの選択は、愚かなことだったのか? 彼はただ、一人の画家として、表現者として、自分自身に正直なだけだったのではないだろうか? 世間の評価など関係なく、自分が描きたいものを描く。彼の生涯は悲しい結末を迎えてしまったけれど、栄光からの凋落を怖れないその勇気は、素晴らしいな、と僕は思う。

感動の再会

一昨日の夜にとりあえず本の草稿が書き上がったので、昨日は気分転換に、一日外に出かけてきた。

まず向かったのは、蔵前のアノニマ・スタジオで開催されていたブックマーケット。良心的ないい本を作り続けている小さな出版社が一堂に会して、それぞれの本を販売するというイベント。思っていたよりもこぢんまりとした展開だったけど、こうして紙の本を作ることに熱意を持って取り組んでる版元さんもまだまだあるんだなあ、とちょっと嬉しくなった。

その次に行ったのは、六本木ヒルズで開催中の歌川国芳展。平日だからゆっくり見られるだろうと思いきや、すごい人出。「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」みたいな絵の前に、現実世界の人間たちがわちゃーっと群がっている様は、ある意味シュールだった(苦笑)。展示内容は素晴らしかったけど、さすがに疲れた‥‥。

そんなこんなの夕方、携帯に着信。この間の飲み会でなくして行方不明になったマフラーが、ジュレーラダックの事務所で発見されたらしい。スカルマさんのカバンの中にマフラーが入っていたのだとか(苦笑)。いったい何でそんなことになったのかさっぱりわからないけど、とにかく受け取りに行こう、と茗荷谷にある彼らの事務所へ。もう二度と会えないと思ってたお気に入りのマフラーと、感動の再会。よかったー。うるうる。

で、その後は、スカルマさんたちと近所で晩ごはんを食べることになり、軽く晩ごはんのつもりが、気がつけば終電一歩手前まで飲むはめになり‥‥。でも、今度はしっかりと、マフラーを持って帰った。もう離さないぜ(笑)。

慌ただしい日

昼、赤坂でラダック関連企画の本の担当編集者さんと打ち合わせ。今後の進め方やお互いの認識が再確認できて、有意義だった。現時点での自分にとって最優先すべき仕事だから、頑張りたいと思う。

午後は神保町で、別の出版社の編集者さんと打ち合わせ。明日の午後に僕が担当するインタビュー取材についてだったのだが、それとは別に、僕自身も取材されることになってしまった。だ、大丈夫だろうか‥‥(汗)。

打ち合わせの後、同じ神保町で「うきわねこ」原画展を見る。絵本も素晴らしかったけど、やっぱり原画は、感じられる「気配」が違う。牧野さん入魂の作品の数々、堪能させてもらった。

夜は新宿のブルックリンパーラーで、文化人類学者の宮坂清さんにひさびさに会う。ノルブリンカ・ゲストハウスの人たちから預かってきたプレゼントを渡した後、ラダックやその他いろんなことに話を咲かせた。こうして何の気兼ねもなく話ができる人がいてくれるというのは、ありがたいことだなあと思う。

ともあれ、今日は慌ただしい日だった。そして、明日の取材の準備はまだ終わっていない(汗)。

作り手は作り手に嫉妬する

以前、西村佳哲さんにインタビューをさせていただいた時、次のような話を聞いたことがある。

「たとえば、出来のいい映画を観て“くやしい”と感じる人は、モノ作りに携わっている人ですね。そういう人は、作る側に視点が回っていくものなんですよ」

確かに、それは当たっていると思う。自分を例に挙げるのはおこがましいけど、面白い本を読み終わった後は、無性に原稿を書きたい気分になったりする。先日、たかしまてつをさんの個展にお邪魔した時は、「こんな空間で、壁一面にバーンとラダックの写真を展示したら、気持いいだろうなあ‥‥」と妄想したりもした(笑)。あと、逆の立場では、ある飲み会の席で、同業者の人から「ヤマタカさん、ぼかぁ、あんたに嫉妬してるんですよ!」と、面と向かれて言われたこともある。別に、僕はそこまでの人物じゃないんだけど‥‥(苦笑)。

作り手は作り手に嫉妬する。それはとても健全な反応だし、互いにそれを糧にして新しいものを作り上げていければ、素晴らしいことだ。ただ、他の人の作品に刺激を受けて、「よーし、自分も!」と決意しても、相手の後追いで似たようなものを作るだけでは、単に模倣をしているにすぎず、オリジナルはけっして越えられない。作るなら、自分自身のアイデアと力で勝負しなければ、意味がない。

単なる後追いで終わるか、自分の道を見出すか。本物の作り手になれるかどうかは、そこが分かれ目だと思う。