Category: Diary

まだらな街並

中央線沿線の街の中でも、西荻窪は、個性的で元気な街だ、という風な形容をよくされている気がする。

駅を中心とした比較的狭い範囲に、個性的な個人経営のお店が、老舗から新店まで集まっているのは確かだ。雑誌で紹介されたり、自ら本を出してたりする飲食店や雑貨店もある。駅の西側のガード下も再開発されて、新しいスーパーや飲食店がオープンしている。

でも、その一方で、シャッターを下ろしたままの古い空き店舗の数も、実はかなり多い。建物が古すぎて、取り壊すにもリノベするにも費用がかかるから放置されているような物件もかなり目につく。駅近にもあるし、少し離れるとさらに増える。駅の東側のガード下の古い商店街も、今や大半がシャッターを閉じた空き物件だ。

そうした空き物件がまだらに街に存在しているのは、単純に、景気が悪いからだろう。新しく商売を始められる状況にある人や会社が、それだけ減っているのだ。今ある個人経営のお店も、どこもけっして楽な経営ではないのではないかと思う。

この街に引っ越してきて、七年。あと三年で十年か。その頃には、どうなっているのかな。

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橋本倫史『観光地ぶらり』読了。道後温泉、竹富島、羅臼、しまなみ街道、五島列島、そして著者の故郷である広島など、日本各地の「観光地」について書かれた本。土地の歴史を調べる、現地に足を運ぶ、自分の目で確認する、現地の人々に話を聞く。紀行文でもあり、「観光」を糸口に日本の近現代史を地方の視点から辿ったルポルタージュでもある。変に斜に構えたようなところのまったくない、その土地の人々に敬意を持ってまっすぐに向き合う著者の姿勢に、とても共感できた。

函館への旅


ひさしぶりに、相方との二人旅。二泊三日で、函館に行ってきた。相方はずいぶん遠い昔に訪れたことがあるもののあまり記憶にないそうで、僕は初訪問。完全なる観光客気分で、北の港町を満喫してきた。

東京から函館までの移動は、飛行機で。早朝に家を出発し、羽田から午前中の便に乗り、函館まで約一時間。函館空港からバスで函館駅まで出て、予約してあった駅近のホテルに到着したのは、昼を少し過ぎた頃だった。あっという間だ。

そして本が増えた

四月下旬の『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』の発売に合わせて、連休前から今日までの間、都内を中心にいくつかの書店にご挨拶回りをしていた。

書店員の方々と話をしていて感じたのは、『雪豹の大地』の現物を目にして、おお、これは、とただならぬ気配を察してくださっていた方が多かったということ。やっぱり、完成度をとことん突き詰めて作り上げた一冊の本が醸し出す存在感は、書店員や読者の方々にも伝わるものなのだな、と。チームで作り上げた本をそんな風に受け止めてもらえていて、個人的にも嬉しかった。

それにしても、行く先々、素敵な書店が多かった。自分の好みドンピシャな品揃えだったりすると、ついつい見惚れて、気がつくと一冊手に取っていたりする。そうして買った本が日を追うごとに増えていき……また本棚のスペースがなくなってきた……。

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J.D.サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』読了。グラース家の物語でもコールフィールド家の物語でもない、サリンジャーの初期の短編集。明らかに軽めに書かれた作品もあるが、彼ならではの先見性と繊細な感性、そして語り口の巧みさを堪能できる一冊になっている。特に、彼自身の実体験が反映されているとも言われている表題作には、心を打たれた。

無になれる時

昨日の丹沢表尾根縦走のような山歩きは、思い返せばずいぶん昔から、断続的にではあるがやっている。

高い山に登るのが好きというわけではない。日本で行くのも、東京近郊の日帰りで歩ける場所ばかり。新規開拓もあまりせず、割とお決まりのルートを歩くことが多い。体力の限界に挑戦するようなしんどい山行より、自然の中を自分のペースでゆったり歩く方が好みだ。

土を踏みしめ、岩を掴み、時に木の幹に触れる。歩いていくうちに、両脚、両手、身体全体の動きとバランスに、神経がくまなく行き届いていく。集中力がほどよく増していく一方で、余計なことを何も考えなくなって、頭の中が、清々しいくらい、ぽっかりと無になる。

たぶん僕は、あの、無になれる感覚が好きなのだ。だから、何だかんだで日帰り山歩きを続けているのかもしれない。

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星野道夫『ゴンベの森へ アフリカ旅日記』読了。チンパンジーの研究と保護に取り組むジェーン・グドール博士とともに、星野さんがタンザニアのゴンベ動物保護区を訪れた、十日間の短い旅の記録。星野さんが撮る写真は、チンパンジーも、現地の人々も、そしてジェーン・グドール博士に対しても、さりげなく、穏やかなまなざしで捉えられている。

〝私たちはある風景に魅かれ、特別な想いを持ち、時にはその一生すら賭けてしまう〟

星野さんにとってアラスカが、ジェーン・グドール博士にとってゴンベの森がそうであったように、僕にとってのラダックも、そういう場所だったのだと思う。

丹沢、春から夏へ


今日は平日休みにして、丹沢表尾根を縦走してきた。何年ぶりだろう?……と思ってこのブログを検索してみたら、2019年以来、6年ぶりだった。コロナ禍の前は、年に一度くらいの頻度で来てたのだが。

すし詰めのバスでヤビツ峠まで移動し、登山口からえっちらおっちら、二ノ塔まで登る。三ノ塔の上から、烏尾山や行者岳、そして塔ノ岳にまで連なる尾根筋を眺めた時、これだー、この風景が見たかったんだ、と何だかすっかり嬉しくなってしまった。


お地蔵さんもお元気そうで。今年のウェアはかなりキマってる感じ。あと、酒のお供物が多すぎ(笑)。

天候は、薄日が時折射す薄曇りといった感じ。直射日光がさほどきつくなかったので助かったが、それでもまあ、暑かった。水を1リットル余分に持って行ったが、それでぎりぎり足りたくらいだった。梅雨に入ったら湿度も上がるし、ここいらを歩くのはさらにしんどくなりそう。秋まで待つか……。


輝くばかりの新緑に覆われた、丹沢の山々。今の季節ならではの風景。驚くほどすぐそばで、ウグイスが高らかに鳴く。

何しろひさしぶりだったので、最後までもつかなと半信半疑だったのだが、割と順調に歩くことができた。今年に入って、一月、二月、四月と山歩きをしていたので、それで足慣らしができていたようだ。大倉尾根の下りで、太腿の筋肉がピリつく寸前くらいまで追い込めたので、今回もいい運動になったと思う。

丹沢表尾根縦走をこれからしてみようかな、と思っている初心者の方へ。三ノ塔から塔ノ岳までの尾根筋では、こまめに休憩を取るようにした方がいいです。急勾配のアップダウンが頻繁にある上、風雨に浸食されて際どくなってる道や鎖場などもあるので、短時間のうちに結構消耗します。名前のついてる場所に来たら、5分か10分座って休んで、心身ともに常に余力を残しておくようにするといいと思います。ご参考までに。