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ルーティンを守る

タイ関連の作業がとりあえずいったん手離れしたので、再び、本の原稿を書く作業に戻っている。

朝起きて、トーストを食べ、出勤する相方を見送りつつ、眠気覚ましのコーヒーをいれる。それを飲みながらメールのチェックと返信をして、その日書く部分のプロットを見返して確認。昼少し前にいったん机を離れ、スーパーで食材の買い出し。昼飯を簡単にすませ、机の前に座り直して、執筆開始。4、5時間ほど集中して書く。その日のノルマが達成できたら執筆終了。体操で身体をほぐし、自重筋トレをして、晩飯の支度。相方の帰宅時間に合わせて1、2時間で仕込み終え、晩飯を食べ、風呂に入り、2日に一度ビールを飲み、寝る。

こういう判で押したような生活を、タイに行く前の9月も、今も、ずっと続けている。1日のうちに執筆以外でやらなければいけないことは、できるだけルーティン化しておきたい。そうすると、余計なことに気を取られることなく、書くべき文章に集中できる。

今回の本の場合、1日のうちに書き進められる文字数は、だいたい1500字から2000字の間。よほど調子が良い時でも3000字くらいまでが限界。それ以上は集中力がもたない。焦ってむやみに書き進めるより、前後とのつながりや細かいバランス調整などを丁寧に整えながら、後から破綻したりしないように確実にパーツを積み上げていく方が、少なくとも僕の性分には合っている。

正直、悩みもプレッシャーもあるけれど、それも含めて、やっぱり愉しい。書くことは、自分の本分なのだなあと思う。

「使いやすさ」の理由

最近あらためて気が付いたのだが、家の台所で使っている道具の中で、柳宗理さんがデザインした製品の割合が、かなり多い。やかん、片手鍋、包丁、レードル、ボウル、パンチングストレーナーなどなど。カトラリーを含めると、もっとある。

柳宗理さんデザインの台所道具は、見た目の不思議な美しさだけでなく、実際に使ってみた時に感じる「使いやすさ」が、他と比べても群を抜いているように思う(もちろん、プロの料理人の方から見れば、日々の現場での酷使に耐えるプロ仕様の調理器具の方が良いのだろうとは思うが)。調理の場面々々での扱いやすさ、頑丈さ、洗いやすさ、などなど……。たぶん、デザイナーのアイデアや持って生まれたセンスだけでは、そうした「使いやすさ」を実現することはできない。膨大な量の試行錯誤に裏打ちされた経験と知識がなければ、辿り着けない境地なのだろうと思う。

本や文章の「読みやすさ」にも、ある意味、似たようなところがあるかもしれない。パッと見で読みやすそうに思える文章は、ともすると、読み飛ばされてしまいやすい文章でもある。内容がぎゅっと詰まっていながらも、圧迫感を与えず、すっと読めて、伝えるべきことを伝えた上で、心に何かを残す。それが本当の意味での「読みやすさ」なのだと思うし、その境地に達するには、やはり、膨大な試行錯誤の末の経験が必要なのだろうとも思う。

そういう、本当の意味での良い文章を、書けたらいいなあ、と思うのだけれど……。難しいなあ(苦笑)

語り部として

毎日、本の原稿を書き続けていると、いろんな発見がある。

フリーランスでライターの仕事を始めて、かれこれ20年にもなるけれど、未だにこれだけ気付かされることがあるのかと、自分でも驚いている。普段の書き仕事では、長くても数千字程度の原稿を書くことがほとんどだが、今取り組んでいるのは、10万字を超える長さの原稿。それも、事実に則したノンフィクションではあるけれど、ある種の「物語」でもある原稿。その違いは大きい。

それは簡単には説明しづらいのだが、「流れ」とか、「間」とか、「緩急」といった、文章術のセオリーには収まりきらないようなことだ。わかりやすく読みやすい文章を書く「物書き」としての技術というより、物語をよどみなく語る「語り部」としての、阿吽の呼吸のようなものだろうか。1行どころか、ほんの1文字で、がらりと変わる。改行や句読点の打ちどころでも変わる。一見無駄に見える何気ないひとことが作り出す流れもあれば、あえてばっさり省くことで生まれるリズムもある。

20年も物書きをやってきたのに、自分は何にもわかっていなかったのだなあ、と、今さらながら、思い知らされている。だから今、書いていて、すごく愉しい。苦しいけれど、最高に、面白い。そうして少しでも、「語り部」に近づいていけたら、と思う。

「PEAKS」2019年10月号

9月14日(土)発売のアウトドア雑誌「PEAKS」2019年10月号の巻頭特集「ニッポンのロングトレイル」で、海外のロングトレイルを紹介するコーナーに、4分の1ページ程度の扱いですが写真と情報を寄稿しています。僕が紹介したのは、スピティとラダックの間を結ぶパラン・ラ・トレックについて。少なくとも、マニアック度では群を抜いていると思います(笑)。

書店で見かける機会がありましたら、お手にとってご一読いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

道半ばにて

書いている。毎日、本の原稿を書き続けている。

今の時点で、全五章のうちの第二章の終盤まで来ていて、ボリューム的には全体の4割に届くかどうか、というところ。ただ、最初にプロットを作った時の想定より、全体の文字数が増え気味な傾向がある。このテンションで、予定のスケジュールに間に合うように書き進めていくのは、かなり大変だ。

1500メートルや5000メートルの中長距離走で、スタートしてトップスピードに乗った後、苦しくなってきてもペースを緩めるに緩められず、限界を超えるまで耐えに耐えて突っ走っていく、あの感じに似ている。まだまだ、執筆は道半ばだ。きついけど、弱音を吐いてペースを緩めるわけにはいかない。やるしかない。