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南の国のマッサージ

毎度のことながら、タイでの取材は、身体的にかなりきつい。

約四週間の間、休みはほぼない。移動のない日でも朝7時、移動日は朝5時半か6時には起きなければならない。日中、移動時間以外はほぼずっと取材で、歩き回ってるか、レンタサイクルに乗ってるか。2万5000歩も歩いた日もあった。乾季とはいえ、南の方では、昼の気温は35℃に達する。

そんな毎日だったので、疲労もどんどん蓄積する。朝起きると、背中に鉄板が入ってるような重だるさを感じたし、両足の付け根はごりごりに凝って、あぐらをかいても突っ張るくらい。休んで回復させようにも休めない(苦笑)。本当に、日々体力勝負だった。

でも、帰国した今は、思いのほか元気だ。これはひとえに、帰国直前に時間を見つけて受けた、タイ古式マッサージのおかげといっていい。

僕がマッサージを受けたのは、バンコクの中心部からちょっと東の方にある、オンヌットというBTSの駅の近くにある、バーン・サバーイ・マッサージという店。その一帯には良心的な料金のマッサージ店が何軒も集まっていて、僕が受けたタイ古式マッサージも1時間で250バーツ(加えてチップが50バーツくらい)と格安だった。

今回は特に、マッサージをしてくれたお兄さんの技術が抜群だった。こちらが痛みを感じるかもしれないラインの1ミリ手前で止めてくれているかのような、絶妙の力加減。両脚の内転筋や大臀筋、腰から背中、両肩にかけて、老廃物を押し流しつつ筋肉を綺麗にほぐしてくれて、素晴らしい爽快感だった。店を出た後、背中に羽が生えて、ふわふわ宙に浮かんでるかのように身体が軽かった。

あのお店というか、あのマッサージ師のお兄さんが東京にいたら、毎週でも通うのに……。バンコクでタイ古式マッサージを体験してみたい人、おすすめです。

南の国から

昨日、タイ取材を終えて、約四週間ぶりに、バンコクから東京に戻ってきた。

ひさしぶりに訪れたタイでは、やはりコロナ禍の爪痕があちこちで目についた。チェンマイなど観光業への依存度が強い街では、たくさんのホテルやゲストハウス、お洒落ショップ、レストランなどが閉業していた。シャッターを締め切っている店、もぬけの殻になった店、廃墟のように荒れ果てていた店。顔馴染みの人と再会して健在ぶりを確認できた時もあったが、会おうにも店自体がなくなっていて、あの人にはもう二度と会えないのかも、と寂しくなった時もあった。COVID-19は、本当にどんな国や人に対しても、容赦がない。大勢の人々の人生が、パンデミックによって決定的に変わってしまったのだな、とあらためて思う。

取材自体はあいかわらずハードで、五十過ぎのおっさんには結構な試練だったが、それでも日々あちこち歩き回りながら撮ったり調べたりする仕事は、やっぱり性に合っているのだと思う。家に籠りっぱなしでWebを頼りながらコタツ記事を量産するような仕事より、よっぽどいい。旨いタイ料理もいろいろ食べられたし(笑)。

とはいえ、帰国早々、すでにいろいろ忙しい。2023年は、このままあっという間に過ぎ去ってしまいそうだ。一つひとつ、やるしかないな。

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呉明益『自転車泥棒』読了。失踪した父親とともに行方不明になっていた幸福印の自転車を巡って、さまざまな人々、あるいは動物たちの数奇な物語が綴られていく。史実と幻想がないまぜになったそれらの物語は、無数に枝分かれして繁茂する巨木の梢にそれぞれぶらさがっている存在なのだと、読み手は最後に気付かされる。途方もない想像力と緻密なディテールを存分に堪能できる作品だった。

南の国へ

明日から四週間弱ほど、日本を離れる。行き先はタイ。『地球の歩き方タイ』改訂版制作のための取材だ。およそ三年三カ月ぶりの取材になる。

去年の夏のインドで、ある程度は海外取材のリハビリはできていた気もするのだが、今回あらためて、荷造りをしたり、あれやこれやの書類を準備したりしていると、選択に迷ったり、うっかりしそうになったりすることが結構多くて、やっぱりコロナ禍のブランクは大きいなあ、と思う。今年は夏にも再びインドに行く予定なので、悠長なことを言ってるわけにはいかないのだが。

一時よりはいくぶんましになったものの、以前に比べると円安で両替のレートはよくないし、現地の物価もかなり上がっていると聞いているから、取材費をできるだけ節約しながらのつましい旅になりそう。まあ、もともとタイでは贅沢はまったくしないたちで、食堂や屋台のタイごはんですっかり満足できる人間なので、そんなにストレスはたまらないとは思う。

帰国は2月11日(土祝)朝の予定。流行り病にうっかりやられないように気をつけながら、いってきます。

正解はどこにもない

冬晴れの気持ちのいい日。今日は仕事をオフにして、一人で出かける。

祖師ヶ谷大蔵に移転したスリマンガラムで、ランチのノンベジミールス。本物のバナナの葉に供されるポンニライスとカレーの数々を、たらふくいただく。ぱんぱんに膨れた腹をさすりながら、日の当たる道をぶらぶら南下。30分ほどかけて砧公園まで歩き、公園のベンチで少し本を読んで、世田谷美術館へ。

美術館では、「祈り・藤原新也」展を観た。想像以上に大規模な回顧展で、藤原さんの代表作から、こんなテーマにも取り組んでいたのかという驚きの作品まで、見応えのある内容だった。この地上に存在する、生きとし生けるもののありようを、愚直なまでにずっと追い続けてきた人なのだなあ、と。

今時のフォトグラファーが撮る「映え」重視の写真に比べると、藤原さんの写真には、セオリーもテクニックも気にせず、ただその場で感じたまま撮って、そのまま差し出したような作品が多い。文章もそうで、セオリーを飛び越えた天衣無縫なところがある。そうした写真と文章を、ためつすがめつ眺めながら……写真って、文章って、そもそも何なんだろう、何をどうすればいいんだろう、正解なんてどこにもないんじゃないか?……と、自分自身のこれまでを省みつつ、あれこれ思い巡らせたりしていた。

よく見ること。相手だけでなく、自分自身の内側も。結局は、それなのかもしれないな。

仕事の軸足を移す

気がつけば、もう11月だ。夏の終わり頃の時点では、11月はタイ取材に行っている予定だったのだが、まだ日本にいる。依頼元の都合で、取材時期が年明け以降にずれてしまったので、年内は東京に留まることになった。

今年に入ってからの異様な円安と燃油高の影響で、海外取材はかなりハードルが上がってしまっている。自分で企画を立てて自腹で行く取材はもちろん大変だけど、出版社などから依頼を受けて行く海外取材も、取材費の捻出が相当きつくなっていて、採算が合わなくなってきていると聞く。ずっとこの状況が続くかどうかはわからないが、海外取材が絡む仕事の依頼は、減少傾向が続きそうだ。

僕自身、ここ十数年ほどの間は、旅行分野の仕事に軸足を置いていたが、このままでいいかどうか、ちょっと立ち止まって検討した方がいいような気がしている。自分の中で一番大事にしている取材テーマ……ラダックだったり、その他の地域だったりを変えるつもりはないけれど、それ以外のいわゆるライスワーク、継続的に収入を得るための仕事の種類に関しては、海外の動向にあまり振り回されないような分野を組み込んでいくことも考えている。

それは何かと聞かれると、すぐには思い浮かばないのだが……まあ、何かあるだろう。がんばります。