Tag: Work

航路を決める

来年出すことになった新しい本の制作に、本格的に取りかかっている。とはいえ、原稿はまだ1文字も書いていない。

今取り組んでいるのは、本の各部分のプロット作り。全体のおおよその構成を決めてから、各部分で書こうとしている内容やアイデア、キーワードを、箇条書きのメモのような形で書き出していく。細部を詰めていきつつ、全体的なバランスも都度見直して、より良い形になるように調整していく。地味だけど、妥協の許されない、とても大事な作業だ。

一冊の本を書くのは、小さな船で大海原に漕ぎ出すようなものだ。何も考えずに漕ぎ続けても、目的地には辿り着けない。思わぬ潮に流されて、そのうち力尽きてしまう。漕ぎ出す前に必要なのは、海図を広げて、航路を決めること。何を目印に進むか。期間内に辿り着けるか。そのために何が必要になるか。今取り組んでいるのは、その段階だ。

本というものは、企画と内容を固めた段階で4割、プロットを固めた段階で6割、出来上がっていると思う。実際に書く作業は(それはそれでしんどいが)残り4割のうち2割で、最後の2割が編集と校正。なので、はやる気持ちを抑えつつ、まずはプロットという航路をしっかり見定めようと思う。

ヨーイドン

午後、千石で打ち合わせ。来年出すことが決まった、新しい本について。

オンラインとかでなく、対面で仕事の打ち合わせをするのは、たぶん半年ぶりくらいだ。今回の打ち合わせも、「いつもなら小さめのミーティングスペースでやるんですが」と担当編集さんに案内されたのは、14、5人での会議もできるくらいの大きな会議室。ドアも開けて換気にも気を遣っていただいていて、ありがたいことだなと思う。

打ち合わせ自体は、とてもスムーズかつなごやかに進み、諸条件も特に問題なく合意し、つつがなく終えることができた。春先に企画を提案して以来、だいぶ時間がかかってしまったが、これで本格的に執筆に取りかかることができる。ヨーイドン、と自分で自分に声をかけたくなる気分だ。

……ぶっちゃけ、先方で検討してもらっている発売時期を考えると、そんなに悠長に構えてもいられなくなったので、実はちと焦っている(苦笑)。

新しい種類の仕事

来月頃から、新しい取引先と、新しい種類の仕事をさせてもらえることになった。

執筆でも、撮影でも、編集でもない、今までに請け負ったことのない種類の仕事なのだが、執筆と撮影と編集と、それに付随して経験してきた今までの蓄積があるからこそ、請け負うことのできる仕事でもある。何て言えばいいのかな。つまり、右も左もまったくわからない分野ではなく、むしろ今までの経験をフル活用できる分野の仕事、というわけだ。ますますわかりにくいか(笑)。

ともあれ、コロナ禍で先の見えない不況にあえぐ今の世の中で、今回の新しい種類の仕事とか、来年出すことが決まった本の執筆とか、そういう仕事に携わることができるというのは、フリーランスの身空としては有難いことだなとしみじみ思う。

ともあれ、やるからには、がんばります。

次の本へ

四月下旬に『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』を雷鳥社から刊行したばかりだが、来年、別の出版社から、ラダックとその周辺についての新しい本を出すことが決まった。

本の企画を提出したのは四月、サンプル原稿を提出したのは五月だったから、決まるまでちょっと時間がかかったのだが、どうにか。具体的な刊行時期は、来年のうちに、という程度のおぼろげな状態。昨今のコロナ禍の影響で、どこの出版社も刊行スケジュールがいろいろ変更になっていて、てんやわんやなのだそうだ。それでもまあ、このご時世に、出版社から書き下ろしの新刊を出せることになったというだけでも、ありがたいことではある。

この本のために必要な材料はほぼ手元に揃っているので、これから半年くらいの間は、ひたすら家に籠もって原稿を書くことになる。考えてみると、去年の後半とほぼ同じ図式である。ただ、去年は十月に恒例のタイ取材が入ったことで執筆スケジュールが相当厳しかったのだが、今の状況だと、海外取材の仕事は来年春くらいまで入ってこないだろう。直近の収入源が減るのは確かに痛いが、その分、新刊の執筆に集中できると割り切って、ポジティブシンキングで取り組んでいこうと思う。

ああでも、楽しみだなあ。また一冊、本を作ることができる。今度もせいいっぱい頑張って、良い本にしよう。

———

川内有緒著・中川彰撮影『バウルを探して〈完全版〉』読了。ベンガルの吟遊詩人バウルを追ってバングラデシュを旅した紀行で、七年前に刊行されたものが約100ページの写真とともに生まれ変わった。武田百合子の『犬が星見た ロシア旅行』をほんのり思い起こさせる軽やかな(でも時々ドライな)文体で、自分自身の内面を手探りしながらの旅の様子が誠実に描かれている。初版の刊行直前に亡くなった中川さんがフィルムで遺した旅の写真と、その中川さんに宛てて書かれた川内さんの「手紙」が、刊行から月日を経たこの本を、文字通りの「完全版」にしている。作られるべくして作られた一冊だったのだな、と思う。

「会う」取材

午後、錦糸町で取材。相手の方の知人の方が経営するカフェの定休日に少しお邪魔して、店内で収録させていただく。無論のこと、マスク着用のまま。

こうして人に直接会う形で取材をさせてもらうのは、ものすごくひさしぶりだ。4カ月ぶりくらい。Zoomを使ったリモート取材はこの間やったけれど、対面取材は、リモートとは段違いにやりやすい。相手の表情や会話の間に応じて、場の空気をある程度把握して、コントロールできる。今回は相手の方のお話の面白さにも恵まれて、とても良い感じで取材できたように思う。

インタビュー取材はやっぱり、直接お会いするのが一番だなあ。こういう「会う」取材が、再び当たり前にできるようになりますように。

———

テッド・チャン「息吹」読了。ありえたかもしれない人生、変えることのできない過去、それでも選ばなければならない道。深い探究心と奔放な想像力によって生み出された物語が、精緻で美しい文章で綴られている。すごい。本当に素晴らしい。圧巻だった。