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書店回り

ここ数日、「撮り・旅!」の件で、都心の書店回りを続けている。新宿、池袋、渋谷、丸の内、神保町、吉祥寺‥‥。炎天下の中、汗を拭いつつ、ふうふう言いながら歩き回っている。

著者や編集者による書店営業は、出版社によってはあまり快く受け取られないふしがある。本を売ることについては版元に任せてほしい、という考えなのだろう。今度の本の出版社では別に悪く思われてはいないようだが、営業担当の方に同行して書店を回るという申し出は、やんわり断られた。まあ、邪魔だよね(苦笑)。他に山ほど担当の刊行物があるわけだし。なので、僕は一人で回っている。

今回の本では、販促用のポップを印刷して、それを各書店に配って回るという戦略を僕の方から提案した。たとえば、ある書店に5冊ほど配本されていたとして、それらが最初から棚差しにされているか、それとも面陳や平積みにされてポップが添えられているかでは、お客さんを惹き付ける力に、天と地ほどの差がある。そしてそれは、著者や編集者が直接書店に挨拶に伺って、本の内容をきちんと説明し、ポップを手渡すことで、ひっくり返すことができるはずの差なのだ。

広大な水田に、苗を一本々々、手で植え付けていくような、地味で気の遠くなる作業かもしれない。立ち枯れてしまう苗も多いかもしれない。でも、いくつかの苗は、きっと実りをもたらしてくれるはずだ。

さて、明日もがんばろ。

幸せな時間

昨日の夜は、代官山蔦屋書店で「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」刊行記念のトークイベントだった。前日の朝までは定員の半分くらいの予約状況だったのに、そこから急に申し込みが殺到して、結局、本番ではぎっしり満席。大勢の人の前に出るのはひさしぶりだったので緊張したが、一緒に出演してくださった写真家の三井昌志さんと中田浩資さんのおかげで、会場もかなり盛り上がっていたように思う。自分自身のトークに関しては、いつものごとく、頭の中がまっしろになっていたので、あまりよく憶えてないのだが(苦笑)。

イベントの最中は周囲を見回す余裕も全然なかったけれど、終了後、お客さんたちが買ったばかりの本を両手で胸に抱えて、頬を紅潮させて目を輝かせながら会場を後にするのを見ていると、何というか、ぐっとくるものがあった。何もないまったくのゼロの状態から企画を立ち上げ、苦労して、苦労して、苦労して‥‥何度も心をへし折られそうになって。それでも、みんなから預かった写真を、言葉を、思いを守り抜くと決めて、意固地なまでに信念を通して。そうして生まれてきた本が、自分の目の前で、読者の手に渡っていく。一人の編集者として、書き手として、撮り手として、こんな幸せな時間を味わえることが、一生のうちに何度あるだろうか。こんな時間を味わえる人が、この世界にほかに何人いるだろうか。

僕は本当に、たまたま巡り合わせがよかったのだ。その巡り合わせを、大事にしていかなければ、と思う。

あと二カ月

台風が近づいてるからか、風が強く、やたら蒸し暑い。何もしなくても気力がそげていく。

終日、部屋で仕事。昨日取材した分の原稿に取り組む。夜までにはほぼ形になったが、明日からはまた、いくつか書かねばならない原稿がある。小さいながらも切れ間なく仕事が来るというのはありがたいことなのだが、「撮り・旅!」という難関を終えた後なので、正直、しばらくぼーっとしていたい気分なのも確か。

誰もいない湖のほとりで、一週間くらいテントを張って、歩き回って、写真を撮って、本を読んで、寝転んで空を見上げて‥‥。あと二カ月ほどしたら、たぶん、そんな日々が来る。

どちらの気持も

雨粒が落ちてくるのは見えないのに、歩いてると服がじっとり湿ってくるような、そんな天気の日。

午後、南大沢で取材。相手の方に、「ライターという仕事は大変でしょう? 実はうちの息子も、フリーライターをやっているんですよ」と言われる。どんなジャンルのお仕事を、と聞くと、机の上にあった、音楽やサブカル系のムックを見せてくれた。各ページに散らばる小さな記事に、一つひとつ、丁寧に付箋が貼ってあった。

「でもね、この間、身体を壊して、入院してしまったんですよ」

聞くと、週刊誌の編集部から無茶なスケジュールでの仕事を立て続けに依頼されたり、悪質なクライアントに原稿料を踏み倒されたり、あちこち振り回されているうちに体調を崩してしまったのだそうだ。

「ライターの仕事はやめた方がいいんじゃないか、とも言ったんですが、聞いてくれなくてね‥‥」

そうですね、とも、もう少し見守ってあげてください、とも、僕は言えなかった。何者かになろうとして、必死にあがいている駆け出しのライター。息子の書いた記事に付箋を貼りながらも、行末を案じている父親。どちらの気持も、僕には痛いほどわかる。

たぶん僕は、他の人よりほんの少しだけ運がよかったから、今の仕事をかろうじて続けられているのだと思う。

七夕に校了

昼、千駄ヶ谷にあるデザイナーさんの事務所で、「撮り・旅!」の打ち合わせ。一部分だけ再度出してもらった色校と、インクジェット出力した残りのページの色味などを確認。大きな問題もなく、この後は印刷会社さんにお任せすることになる。

「‥‥これで、校了‥‥ですよね?」と僕。
「そうですよ、もちろん」

何だか、最後はちょっとあっけなくて、すぐには実感が湧いてこなかった。打ち合わせを終えた後、一人で新宿まで歩き、喫茶店でアイスコーヒーをすすり、本屋をうろうろ。そうするうち、少しずつ、じわじわと感じるようになった。ああ、終わったんだなあ、また一冊、と。

三鷹に戻り、駅の近くで本を買い、喫茶店で3分の1読み、居酒屋に場所を移して3分の1読む。本を読みつつ、一人酒。何だかいろいろたがが外れた感じだが、悪くない。そういえば、今日は七夕か。