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一山越えて

先週土曜は、モンベル御徒町店での「LADAKH LADAKH」刊行記念トークイベント。司会進行役を務めさせてもらったのだが、はたしてうまくいったのだろうか……その判断はお客さんに委ねるしかないけれど。個人的には、イベントの最後におまけで流させてもらった、自分の写真のスライド動画(この間、冬のラダックで撮ってきた写真)の時が、一番緊張した。最後の最後で、場がしらけてしまわないかと心配で心配で(苦笑)。

終了後、神田の居酒屋で関係者だけでの打ち上げ。そこでIPAビールをしこたま飲み、二次会は角田明子さんのスタジオで、朝までコース(苦笑)。ひさびさにやらかしてしまった……二日酔いにならなかったのが奇跡なくらい。まあでも、愉しかったなあ。出演者と関係者の方々にも喜んでもらえて、よかったと思う。

……と、いつもの年なら、ここでめでたしめでたしというところなのだが、今年は違う。5月は中旬に大阪でまたイベントがあるし、その後は吉祥寺で写真展もある。一山、越えはしたけれど、まだまだ先がある。がんばらねば。

本づくりの縁

一昨日、昨日と、「LADAKH LADAKH」の色校戻し作業。昨年夏のラダック取材から始まったこの本の制作も、どうにか校了にまで漕ぎ着けた。肩の荷が下りてほっとしたのと同時に、僕自身にとって一番の愉しみである本づくりの作業が終わってしまったので、ちょっと寂しくもある。

今回の本づくりでは、いつにも増して、大勢の方々に協力していただいた。以前別の仕事を通じてご縁のあった方もいれば、まったく別のきっかけで今回新たにご縁のできた方もいる。一冊の本を作る過程で、こんなにもたくさんの縁が繋がり合うというのは、考えてみると不思議なことだ。

僕という人間は基本的にまったく社交的ではなくて、人付き合いもどちらかというと苦手なのだけれど、本づくりを通じて繋がっていく縁で、いつも大勢の人々に支えてもらっているのだと、あらためて気付く。少しでも良い本を、一冊でも多く作って、そうした縁に報いていかなければ、と思う。

「Qarib Qarib Singlle」

この間、デリーから成田までのエアインディア(14時間ディレイ)の機内で観たインド映画、1本目は「Qarib Qarib Singlle」。名優イルファン・カーンと、日本でも公開されたマラヤーラム語映画「チャーリー」でヒロインを演じたパールヴァティが主演するロードムービー。パールヴァティは35歳の未亡人ジャヤ、イルファンは謎の詩人(笑)ヨギ。どちらもキャラが立っていて、らしい演技をしていたとは思う。

ただ、そもそもの事の成り行きというか物語の設定に、少々無理がある。出会い系サイトで知り合った後、ヨギが昔付き合っていた女性たちを訪ね歩く旅に、ジャヤはついていくことになる、という。ヨギが飛行機に乗り遅れたり、反対方向の列車に乗ったり、ジャヤの着替え中に部屋に入ってしまったりというロードムービーのお約束的なドタバタ展開が織り交ぜられてはいるが、この旅のそもそもの成り行きが無理筋っぽいため、せっかくの二人の個性的な演技が、もったいない感じになってしまっていた。リシケーシュやシッキムなど、インドのロードムービーとしては割と面白い場所を巡っていただけに、なおさら。

ただ、ラストシーンは、個人的にとても好きな雰囲気で、それでかなり取り戻した感があった。ロープウェイ。僕は映画でロープウェイが出てくる場面が好きだ。事故か何かで宙づりになったりするのは別として(笑)。

脇腹が寒い

インドに2カ月行っている間に、体重が約4キロ減った。

今回の旅、特に前半は極寒の冬のラダックでの滞在だし、体力的にかなりきついことをくりかえす日々が続くのも以前からわかっていた。なので、2年くらい前から時間をかけて、いったん体重を減らしてから自重筋トレで筋肉の増量を図るという身体づくりをしてきた。そのトレーニング自体は、割とうまくいったと思う。現地でも重い撮影機材を背負いながら深い雪の中を歩き続けることができたし、長時間歩き続けても体幹がへばってきつくなったりせず、以前傷めたことのある両膝もまったく大丈夫だった。

ただ、いかんせん、冬のラダックは寒い。1日の最高気温は氷点下、最低気温はマイナス15〜20℃という世界。外界とを結ぶ陸路が雪で塞がっているので、日々の食べ物の選択肢も限られる。食事では、肉や野菜、そして寒さをしのいで身体の筋肉も維持するだけのカロリー自体が足りなかった。きつい取材を毎日くりかえすうち、内臓脂肪も皮下脂肪もすっかり落ち、両方のあばら骨の下はごそっとえぐれてしまった。寒い場所に行くと、両脇腹がぞくぞく冷えて、落ち着かない。やせると脇腹が寒くなるのだということを僕は学んだ(苦笑)。

日本に戻ってきてからは、朝昼晩と規則正しく、そして意識的に多めに食事を摂るようにしている。まずはカロリー。そしてタンパク質。自宅での自重筋トレも再開しているが、自分でも笑ってしまうくらい、筋力が落ちている。身体の各関節はしっかり動かせるものの、筋肉が細まってしまっていて、去年までのようなパワーや持久力が出せない。また、じっくり、じわじわ、怪我をしないように身体を作り直していくしかないのだろうな、と思う。

すったもんだの旅

昨日、2カ月ぶりにインドから日本に戻ってきた。

今回のインド滞在は、いつにも増して、いろいろ大変だった。前半の1カ月は、あらかじめ計画していた通りに事が運び(まあ、必要以上にエクストリームな日々ではあったけれど)、取材も順調に進み、自分なりに大切なテーマを見つけることができた。ところが、後半の1カ月は……撮影する予定だった行事が今年に限って1カ月ほど順延されたりしたのはまだいいとして、カシミールで起こったイスラーム過激派によるテロと、それをきっかけに勃発したインドとパキスタンの間の軍事衝突のせいで、すべての計画が狂ってしまった。まさか、何十年かぶりに互いの戦闘機が停戦ラインを越境して、空中戦をやらかし、その影響でインド北部にある空港が一時閉鎖されるとは、いったい誰が想像できただろう。

おかげで僕は、旅の後半で乗り継ぐ予定だったインド国内線の手配をキャンセルし、街から街へと、1回の移動で片道9、10時間もバスに乗らなければならなくなった。取材の忙しさだけでなく、そういう行程ですっかり体力を削られてしまった気がする。アムリトサルでは急に熱が出て具合が悪くなったりと、後半戦はあらゆることがうまくいかなかった。

最後の最後に、10日の夜にデリーを発つ予定だった帰国便のエアインディアが、搭乗1時間前になって急に14時間もディレイ。成田に到着したのは昨日の夜9時半。リムジンバスの運行も終わっていたので、厳寒期装備の詰まった重い荷物を担いで電車を乗り継ぎ、西荻窪の自宅に辿り着いたのは、日付が変わる1分前だった。

まあ、いろんな面でツキに見放されていたとはいえ、大きな怪我もせず、お金も何も無くしたりもせず、普通に日本に戻ってこれたというだけでも、少しはツキが残っていたのかもしれない。それにしても、絵に描いたようなすったもんだの旅だった。

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今回の旅の最中に読んだ「羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季」、ものすごく面白かった。湖水地方で何世代にもわたって羊を飼って生計を立てている人々の暮らしぶりが、細やかな描写で活き活きと描かれている。自身も羊飼いである著者のこの処女作が、国内外で異例のベストセラーになったのも頷ける内容。人と自然との関わりや人生の持つ意味について、いろいろ考えさせられる。