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無事に戻る

僕が旅に出る時、相方は必ず「無事に戻ってくるんだよ」と僕に言う。

普通の旅なら、日本でも海外でも、事故や怪我や病気に遭遇する確率は、そんなに極端には変わらない。ただ、僕の場合、そういう確率がそれなりに高い場所に赴かなければならないことが、結構ある。いつも用心に用心を重ねて、犯さなくていいリスクは極力避けているし、そのおかげでか、これまではどうにか五体満足無事に戻ってこれている。でも、相方には心配をかけさせてしまって、申し訳ないと思っている。

今年初めに行った旅は、自分が今まで経験した中で、たぶん一番リスクの高い旅だった。出発前から、新田次郎の小説「孤高の人」の結末がちらついて、不安が頭から離れなかった。戻るべき場所ができると、それを失うのが、とてつもなく怖くなる。あの旅の途中で本当にきわどかった時は、「絶対に、ここでくたばるわけにはいかない。戻るんだ。何が何でも、戻るんだ」と、自分で自分に必死に言い聞かせていた。読んでもらえればわかると思うけど、今、本にしようとしているのは、そんな旅の話だ。

来年は、そこまできわどい旅をやらかすつもりはないけれど、やっぱり、「無事に戻る」ことを第一の目標にしようと思う。

草稿完成

今取り組んでいる本の草稿を、昨日の夕方、ようやく最後まで書き上げた。文字数は11万字超。ページ数は200ページを少し超えるくらい。

正直、ものすごく、ほっとした。もちろん、これから推敲と細かい修正を時間をかけてやっていかなければならないし、写真のセレクトや台割の調整も大変なのはわかっているのだが、とりあえず、土台となる草稿が最初から最後まで揃っている、という安心感は大きい。昨日までは物書きとしての感覚で取り組んでいたけれど、今日からは編集者目線での取り組みに移行していくことになる。

あー、それにしても、本当にほっとしたなあ。僕にとっての「書く旅」が終わってしまったことに、一抹の寂しさはあるけれど。

この一行のために

夏からずっと取り組んでいる本の草稿の執筆も、そろそろ終盤に差し掛かってきた。

今日は、この本の中で、一番大切な部分の文章を書いた。全体を書き始める前から常にイメージし続けていた文章だし、そもそも現地で取材していた時から「この話は、何が何でも書かねば」と思い詰めていた文章でもあった。この本を作るというプロジェクトそのものを、僕に決意させた文章だ。

書く作業自体には、何の迷いも苦労もなかった。頭の中で、長い間、ずっと思い浮かべてきた文章だったし。でも、慎重に書き終えて、読み返して確認し、形を整え終えたとたん、ほっとして、かくっ、と力が抜けてしまった。ようやく、これを書くことができた。この一行のために、ここまで10万字以上、積み重ねてきたのだ。

本全体を締め括るまで、あともう数千字から1万字くらいは書かなければならないし、その後は果てしのない推敲作業が待っている。台割も確定させて、写真を膨大な数の中からセレクトしなければならない。編集作業、校正作業、色校チェック……道程は、まだまだ遠い。

でも、今日はもういいや。力が抜けた。今夜は寝る前に、ボウモアでオンザロックを作って、ちびちび啜ろうと思う。

マイルの行方

年明けに1週間ほど、台湾に行こうと考えている。

というのも、全日空とスターアライアンスのマイルがそれなりにたまってきていて、その一部が来年6〜8月頃に期限切れを迎えてしまうから。で、距離的にも時期的にもさくっと行けて、無駄なくマイルを消化できそうな目的地として、年明けの台湾が候補に浮上した次第。何だかんだでまだ未踏の地だし、ぷらっと一人旅するには手軽で面白そうだなと思って。

で、だいぶ前、確か8月末くらいに台北までの往復航空券を予約しようとしたのだが、往路は取れたものの、復路が空席待ちでしか申し込みできず、12月に入った今の時点でも取れていない状態。発券期限まであと3週間。はたして取れるのだろうか……。そんなこんなで、まだ台湾に関する情報集めも予約もろもろも、何もしていないのだが。

……取れなかったら、バンコク経由でまたルアンパバーンにでも行こうかな。それとも、今マイル半額キャンペーン中のチェンナイとか。

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ジュンパ・ラヒリ「べつの言葉で」読了。ベンガル人の両親のもとに生まれ、アメリカで育ち、世界的に有名な作家となったラヒリは、まったくのゼロの状態からイタリア語を学び、家族とともにローマに移住し、ついにイタリア語でエッセイや小説を書くまでになった。ベンガル語と英語の間で揺れる自身の存在の不確かさを、イタリア語を引き入れることによって自らの手で掴み取り、切り拓こうとする。その勇気たるや。すごいなあと思う。

再び極北へ

来年の夏の終わり頃に計画しているアラスカへの旅の準備を、少しずつ始めた。まだ、おおまかな日程を考えて、現地に問い合わせを入れた程度だが。

今年は、年明けにザンスカールで結構厳しい取材に挑んで、その時の話を本にするために今も原稿を書いているところなので、正直、アラスカの方に振り分ける時間と余力が、まったくなかった。来年の春までに今取り組んでいる本を無事に完成させられれば、夏以降はある程度余裕ができるはずなので、来年こそは、と思い立った次第。アラスカ関係には、今くらいの時期から動いておかないと間に合わなくなる手配もあるので。

ひさしぶりに、あの極北の空気を吸いに戻れるかも、と思うと、心がすっと軽くなる。ラダックやザンスカールとは違う形で、アラスカという土地に親しみと憧れを感じている自分がいる。

アラスカでの撮影取材に一人で取り組むようになって、デナリ国立公園でのキャンプ、南東アラスカの無人島、厳寒期のロッジ滞在、北極圏の村への訪問など、いくつかのトライを積み重ねてきた。「アラスカについて、まとめた形で発表しないんですか?」とよく訊かれるのだけれど、今までの旅のエピソードをそのまま写真と文章という形でまとめるのは、自分的に何かしっくりこないというか、納得しきれない感触がある。今まで積み重ねてきたものはまったく無駄ではないとは思うのだが、アラスカについて、自分自身が「これだ」と納得できるものを形にするには、違うアプローチが必要になりそうだ、と感じている。逆に言えば、中核となる「何か」を形にできたら、今までの蓄積もすべて活かせるとも思っている。

うまく言えないが、来年の計画も含めて、今までのアラスカでの旅の経験をさらに積み増ししていくことで、そう遠くない将来に「これだ」と思えるトライをできるのではないか……と、ぼんやり考えている。経験、スキル、視点、思考……いろいろ含めて。

ともあれ、来年は、再び極北へ。楽しみだ。