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美しき世界

昼、列車を乗り継いで、都心へ。今作っている本の打ち合わせ。先月ずっと整理作業に取り組んでいたゲラ一式を引き渡し、細々とした項目のチェックと、今後の段取りの確認。盤石の布陣の制作チームなので、安心しておまかせできる。ここまでかなりの突貫作業だったから、正直、ほっとした。

出版社を出た後、八丁堀から八重洲まで歩く。黄金色の銀杏の葉が、西日に燦々と輝いている。風が冷たい。八重洲の地下街に降りて、スタバで普通のコーヒーと、温めてもらったワッフルを注文。中央線に乗り、三鷹へ。電車の車内にも、暮色の空からこぼれてくる西日の光があふれていて、眩しい。ベレー帽をかぶった丸眼鏡の女の子が、イヤフォンをつけたまま、一心不乱にiPadを見つめている。

どうということのない時間なのだけれど、世界は美しいな、と思った。

夜間飛行

宵の口、仕事の合間に缶コーヒーを買いに家の外に出たら、一機の飛行機が、澄んだ夜空に翼端灯を瞬かせながら飛んでいくのが見えた。

今の時代のテクノロジーをもってすれば、飛行機が夜でも飛べるなんて、当たり前のように思えるかもしれない。でも、それは場所による。ラダックでは、夜の間、飛行機は飛べない。民間と軍が共用しているレーの飛行場でも、山の端がとても近いので、夜間飛行は危険なのだという。

そんなラダックでも、夜、ブォーン、と飛行機のエンジン音が響いてくることがある。それは間違いなく、満月の夜だ。標高3500メートルの高地を照らす満月の光はとても明るいので、夜でも軍用機は有視界飛行が可能なのだそうだ。

東京の夜空を横切っていく飛行機を見ながら、そんなことを思い出した。

ひさしぶりの取材

昼から八王子へ。ひさしぶりに、大学案件の取材。去年の今頃も、同じ大学でまとまった数の取材を担当したのだが、またご指名をいただいた。ありがたいことではある。

時間が来て、お相手の方がいらして、名刺交換をして、軽くやりとりをした後に、ICレコーダーのボタンを押して……という手順を踏んでいて、はたと気付いた。こういう取材をするのって、ずいぶんひさしぶりじゃないか? 俺、この案件のインタビューって、どんな感じでやってたっけ?

いや、取材という仕事は、絶やすことなく、ずっとやってきていたのだ。インドとか、タイとかで。日本語の通じる日本人の方にインタビューするというのが、ずいぶんひさしぶりな気がして。インドやタイではとにかく意思疎通を図ること自体に四苦八苦していたけど、なまじ不自由なく言葉が通じる人が相手だと、顔の表情とか、言葉のトーンの裏とか、そういうことにまで気を配らなくてはならないという、別の苦労が出てくる。

あれも取材、これも取材。自分の仕事の振れ幅というかギャップに、自分で苦笑いしてしまう。

季節がふたつ先へ

3週間と少々のタイ取材を終え、今朝、東京に戻ってきた。

日本を発つ前はまだ暑いくらいだったのに、帰ってきてみると、わずか3週間で、季節がふたつ先へと進んでしまったかのようだった。自宅の部屋の中でも、出発前はTシャツ短パンだったのに、今はスウェットの上下に靴下、さらに半纏まで羽織っている。タイの暑さに順応するために身体中の汗腺が開ききってる状態だから、なおさら。

これから年内はずっと日本にいる予定なので、とりあえず、しばらくは規則正しく落ち着いた生活がしたい。自分で食事を作り、コーヒーをいれ、デスクワークに集中して、という生活。ふりかえってみると、7月頃からずっと旅しかしてなかったような気がしている。9月は日本にいたけれど、忙しくてなかなか落ち着けないうちにまた旅立ってしまったし。

来年1月には半月ほどラオスに行くので、それまでは、じっくり腰を落ち着けて、仕事に集中します。

鈍感になっていく

午前中から、新宿で取材。家を出る前にネットを見ていたら、中央線が人身事故で大幅に遅延というニュース。とりあえず予定より早めに三鷹駅まで行き、総武線の始発で新宿へ。それでも少し遅れはしたが、待ち合わせにはどうにか間に合った。

昨日も昼に曙橋の方に行く用事があったのだが、新宿駅で都営新宿線に乗り換えようとしたら、人身事故で完全に止まっていて、総武線で市ヶ谷の方から迂回しなければならなかった。最近、こういうのが多い。というか、常に多い。人身事故が、日常茶飯事のようになってしまっている、東京では。

列車の遅れで大事な予定が大幅に狂うと、正直言って「迷惑だなあ」と思わないでもない。誰もがあまり気にしないようにして、なるべくすぐに忘れてしまおうとしているようにも見える。でも、そうやってどんどん鈍感になっていくのは、ある意味、とても怖いことのようにも思う。

人の命が消えていったことに対して、胸の奥に感じる痛みを、ほんのいくばくかでも、忘れないようにしたい。