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エクトプラズム

数日前からのちょっとありえないような気温の乱高下のせいか、のどの調子が悪くなった。風邪というほどではないが、のどの入口あたりのいがらっぽさが消えないのだ。

まあそのうち治るだろう、と呑気に構えていたのだが、金曜の昼にインタビューを受けた時、2時間近くしゃべってるうちにどんどん悪化して、その日の夜には、完全にがらがらのしゃがれ声になってしまった。取材の場でしゃべることを見越してケアをしておくべきだった。迂闊。

すると、同居してる相方が、次から次へと自分ののど治療アイテムを持ってきてくれた。相方は人前で割と声を張って話す機会の多い仕事をしていて、彼女自身も冬場はよくのどを傷めるので、そういうアイテムを豊富に持っているのだという。うがい薬。何種類もの漢方薬の粉末。いただきもののマヌカハニー。そして真打は、ポータブルの超音波吸入器。

この超音波吸入器は、水を入れてスイッチを入れると、白い水蒸気が噴出される。口をあけてそれをのどに向けると、のどの奥にうるおいを届けることができるというアイテムだ。実際に使わせてもらうと、なかなか気持よくて、のども楽になる気がする。使用中の姿を鏡とかで見ると、口から白い蒸気がぼわわわとこぼれていて、何とも言えないシュールな光景なのだが。

そんなわけで、僕はこの超音波吸入器を「エクトプラズム」と呼んでいる。

失われた季節感

4週間ぶりにタイから戻ってきた先週末。ひさしぶりに東京の街を歩いていて、あちこちにカボチャやらモンスターやらが飾られているのを見て、「はっはっは、ハロウィーンなんてまだまだ先じゃないか。みんな気が早いなあ」と、完全に素でそう思い込んでいたのは僕だ。まだまだ先どころか、まさに真っ只中だったじゃないか。脳みそから完全に季節感が失われている。

僕の場合、毎年のことながら、ハロウィーンのこの時期が一年のうちで一番日焼けしている。行きつけの理髪店では、「メガネの跡だけ残ってるじゃないですかあ」などと、毎回ケラケラ笑われながら黒焦げっぷりをいじられる。ひさしぶりに長袖の上下を身につけると、皮膚がもそもそして何だか落ち着かない。胃もあったかい食べ物にはなんとなく落ち着かなくて、いまだに「あー、そうめん食べたいなあ」などと思ってしまう。

何から何まで失われている季節感。やれやれである。

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J.D.サリンジャー、柴田元幸訳「ナイン・ストーリーズ」読了(正確に書くと、読んだのは同じ内容の「モンキービジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号」なのだが)。野崎孝訳の「ナイン・ストーリーズ」を読んだのは、もう思い出せないくらい昔で、家の本棚にあったその本の奥付を見たら、昭和62年5月刊行の30刷だった。平易でみずみずしい言葉で綴られた柴田訳であらためて読み通してみると、昔は気付けなかった会話や場面描写の緻密なディテール、何気ない言葉の背後に潜む現実の重さなどに、はっとさせられる。その中でも、シーモア・グラースが主人公の最初の作品「バナナフィッシュ日和」は、自分でもびっくりするくらい、構成や内容を鮮明に覚えていた。それだけインパクトのある、サリンジャー自身にとっても意味のある作品だったからだろうか。

嵐の前の日曜日

タイへの出発前日。今日は割とのんびりした、いい一日だった。

ゆっくり寝て起きて、先週恵比寿のヴェルデで買った豆でコーヒーをいれ、三鷹から西荻窪に移転したパン屋トキドキの食パンで朝ごはん。午前中のうちに荷造りを仕上げ、家のすぐ近くのパスタ屋(ブリュードッグのビールが4種類も揃っている!)でナポリタンとジャックハマーのおひる。駅前のスーパーで少し買い物をして、午後は家で仕事関係のメール書き。夕方から米を炊いて、晩ごはんは豚バラのしょうが焼きと、長ネギとお揚げの味噌汁。

しかし、そうこうしてる間にも、台風24号はひたひたと迫ってきている。たぶん、今日の真夜中頃に東京に最接近するのだろう。今日の昼過ぎには、首都圏のすべての在来線が20時で運転を取りやめると発表されていた。ある意味、日曜だからできる判断なのだろうが、それだけやばいレベルの台風が近づいてきてるということでもある。

明日、どうにか無事に出発できたら、しばらくこのブログの更新はお休みします。帰国は10月27日(土)の予定。

チャーミー接近

昼、町田へ。前々から依頼されていた、町田市立国際版画美術館で開催中のヨルク・シュマイサー展の会場で、ラダックについてのギャラリートーク。あいにくの雨だし、場所も町田の駅から結構離れたところなので、人はあまり集まらないかなと思っていたのだが、思いの外、大勢の方々にお越しいただいた。今年の夏のツアーのお客さんもお二人来てくださったし、本の読者の方も何人かいらしてくださって、ありがたいことだなあ、と思う。ともあれ、出発前の外での仕事は、これで片付いた。

そう、来週月曜から約4週間、恒例のタイ取材が始まる。やっと東京も涼しくなってきたというのに、僕だけ夏に逆戻り(苦笑)。まあ仕事は仕事だし、何だかんだで今年で6年目なので、しょうがないと思ってる面はあるのだが、ここに来て最大の問題は、チャーミー。台風24号である。

数日前の天気予報では、僕が乗る羽田発バンコク行きの便が出発する月曜の午前中に関東地方も台風に巻き込まれるという予想が出ていて、これはまずい、と僕も焦って関係各所に相談したりしていた。その後、台風の移動速度が速まって、日曜の未明には通り過ぎそうだという予報に。とりあえずほっとしたのだが、残る問題は、風だ。台風が通過した後も強風が収まらないようだと、場合によっては飛行機の出発時間が遅れるかもしれない。2時間以上遅れると、バンコクからのチェンラーイ行きの便に乗り継げないので、かなりめんどくさいことになる。

くっそ、チャーミーめ。そうでなくてもしんどい長旅の始まりなんだから、せめて心穏やかに旅立たせてくれい。

東京とデリーの暑さの違い

ひさしぶりに東京に戻ってきて驚いたのは、今年の夏の暑さ。今日は最高気温は37℃にまで達したらしい。同じ今の時期のデリーの最高気温より、3、4℃は高い。それでも今の時期の東京とデリー、どっちが過ごしやすいかと訊かれたら、やっぱり東京の方がましかも、と答えると思う。

暑さだけでなく、湿気の多さという点でも、東京とデリーはどっこいどっこいだと思う。ただ、東京が比較的単純な蒸し暑さなのに対して、デリーの蒸し暑さは、何というか……澱んでいる。ざらざらした土埃とか、まともに濾過されてない排気ガスとか、けたたましいクラクションとか、ぶつかりそうになりながら(そして時々ぶつかりながら)行き来する車やオートリクシャーとか。空はビニールハウスのように薄い雲の層でぴっちり覆われていて、ぎらつく日差しが容赦なく降り注ぐ。クーラーの効いてる店は数えるほどだし、停電は日常茶飯事。暑さから逃れられる場所は、とても少ない。

だから僕は、夏の東京とデリー、どっちかましかと訊かれたら、東京と答えると思う。どっちが面白いかと訊かれたら……まあ、わからないけど。