一昨日の月曜は、昼過ぎから渋谷で打ち合わせが入ったので、午前中のうちに家を出て、同じ渋谷で開催中の「永遠のソール・ライター」展を見に行った。平日の午前中なら空いてるだろうと予想していたのだが、思いの外、人が多い。みんな、じっくりと展示に見入っていた。
ソール・ライターのことを知ったのは、2015年の暮れに彼についてのドキュメンタリー映画を見てからだ。2017年には最初の回顧展が行われて好評を博し、今回の写真展はその第二弾になる。一時間半ほどかけて、ゆっくり展示を見させてもらって感じたのは、「同じだなあ」ということ。もちろん、展示作品はほとんど入れ替わっているのだが、一つひとつの作品の根底にある本質は、まったく変わらず、ぶれていない。
彼は、彼を取り巻く日常を、ただただ愛していたのだと思う。商業写真家からの引退後、彼が54年間撮り続けた、ニューヨークのイースト・ヴィレッジでの日常を。妹のデボラや、生涯のパートナーとなったソームズなど、近しい人々と過ごす時間を。日常へのゆるぎない肯定が、彼の写真の本質なのだと思う。
自分も、もっと頑張ってみようと思う。撮ることも、書くことも。目の前の日常にも、遠い空の下の日常にも、見つめるべきことは、まだまだ、たくさんあるはずだ。
先週書き上げた本の草稿を、一週間放置して、昨日から推敲作業に取りかかった。少し冷却期間を置いた方が、冷静に俯瞰しながら読み返すことができるから。一巡目はとりあえずさらっと読み通して全体的なバランスのチェックをする。細かいところを詰めていくのは、二、三巡目以降だ。
草稿は出版社の担当編集さんにも送って、率直な感想を教えてくれるようにお願いしておいた。ついさっき、その感想が送られてきたのだが、自分が一番大事に書いたくだりについて、特に伝えていなかったのに強く反応してくれていて、何だかとても嬉しくなった。ああ、よかった、この本は、人の心にちゃんと届く形に仕上げられそうだ、と、正直とてもほっとした。
一冊の本を作るには、多くの人の力が必要になる。執筆、撮影、イラスト、地図、編集、デザイン、校正、印刷、製本などなど。一人で何役もこなせる人もいると思うが(僕自身も何役かこなしてはいるが)、個人的には、本は何もかも一人でコントロールして作るより、頼める分野ではプロフェッショナルの力を素直に借りる方が、よりよい本に仕上げられると思っている。今までの経験から、そう確信している。
本は一人では作れない。今度の本も、大勢のプロフェッショナルの方々と一緒に作る。きっといい本になると思うし、いい本に、してみせる。
来年の夏の終わり頃に計画しているアラスカへの旅の準備を、少しずつ始めた。まだ、おおまかな日程を考えて、現地に問い合わせを入れた程度だが。
今年は、年明けにザンスカールで結構厳しい取材に挑んで、その時の話を本にするために今も原稿を書いているところなので、正直、アラスカの方に振り分ける時間と余力が、まったくなかった。来年の春までに今取り組んでいる本を無事に完成させられれば、夏以降はある程度余裕ができるはずなので、来年こそは、と思い立った次第。アラスカ関係には、今くらいの時期から動いておかないと間に合わなくなる手配もあるので。
ひさしぶりに、あの極北の空気を吸いに戻れるかも、と思うと、心がすっと軽くなる。ラダックやザンスカールとは違う形で、アラスカという土地に親しみと憧れを感じている自分がいる。
アラスカでの撮影取材に一人で取り組むようになって、デナリ国立公園でのキャンプ、南東アラスカの無人島、厳寒期のロッジ滞在、北極圏の村への訪問など、いくつかのトライを積み重ねてきた。「アラスカについて、まとめた形で発表しないんですか?」とよく訊かれるのだけれど、今までの旅のエピソードをそのまま写真と文章という形でまとめるのは、自分的に何かしっくりこないというか、納得しきれない感触がある。今まで積み重ねてきたものはまったく無駄ではないとは思うのだが、アラスカについて、自分自身が「これだ」と納得できるものを形にするには、違うアプローチが必要になりそうだ、と感じている。逆に言えば、中核となる「何か」を形にできたら、今までの蓄積もすべて活かせるとも思っている。
うまく言えないが、来年の計画も含めて、今までのアラスカでの旅の経験をさらに積み増ししていくことで、そう遠くない将来に「これだ」と思えるトライをできるのではないか……と、ぼんやり考えている。経験、スキル、視点、思考……いろいろ含めて。
ともあれ、来年は、再び極北へ。楽しみだ。
9月14日(土)発売のアウトドア雑誌「PEAKS」2019年10月号の巻頭特集「ニッポンのロングトレイル」で、海外のロングトレイルを紹介するコーナーに、4分の1ページ程度の扱いですが写真と情報を寄稿しています。僕が紹介したのは、スピティとラダックの間を結ぶパラン・ラ・トレックについて。少なくとも、マニアック度では群を抜いていると思います(笑)。
書店で見かける機会がありましたら、お手にとってご一読いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。