たぶん、半年以上ぶりくらいに、山歩きに行くことにした。ルートは、家からのアクセスがラクな、陣馬山から高尾山までの縦走。なまりになまってる身体でも、尾根筋まで出れば、何とか歩けるだろうとの目論見もあった(苦笑)。
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新しい腕時計
四年ぶりくらいに、新しい腕時計を買った。カシオのプロトレック PRG-110CJ-1BJF。アマゾンのアフィリエイト収益分を差し引いても結構なお値段だったが、来週は誕生日だから、と自分に言い訳しつつ。
ゴールドのラインをアクセントにした黒のケースと反転液晶。シンプルで精悍なデザインで、腕にはめてみても大きすぎず、しっくりくる。すっかりウキウキしながら、分厚い説明書を見つつ、機能チェック。この時計はその名の通りトレッキング用なので、コンパスや高度計、気圧計、温度計としても使えるのだ。たくさんあるスイッチをあれこれいじくってると‥‥。
‥‥あれ? 温度計がおかしい?
この冬のさなかに、室内とはいえ、27℃というのはちょっとありえない。うーんどうしてかなー初期不良かなーとしばらく考えて‥‥気付いた。そうか、僕の体温で時計本体が温まってしまったからか(苦笑)。
腕につけたままでは気温が計れない、温度計搭載の腕時計。何だかなあ。ま、いっか。
鶴の群れ
キャンプ・デナリに滞在していた時、一人のガイドと親しくなった。彼の名はフリッツ。スイス人である彼は、二十年前にこの地にやってきて、ガイドとして働くようになった。家族は、国立公園の入口でB&Bを経営している。とても気さくな人で、日本人で一人だけストレニアス・グループでのトレッキングに参加していた僕に、「いいぞ、タカ! どんどん歩け! ゴーゴー!」と声をかけて焚き付けたりしていた。
ある日、「ポトラッチ」キャビンでの夕食の時、向かいの席にいたフリッツが僕に訊いた。
「タカ、君は何の仕事をしているんだ?」
「写真を撮ったり、文章を書いたりして、それを本にする仕事をしてるんだよ」
「そうか、フォトグラファーか。僕も一人、日本のフォトグラファーを知ってる。ミチオだ。ミチオは素晴らしいフォトグラファーだった。デナリで撮影していた時、彼はよくこのキャンプ・デナリに遊びに来ていたんだよ」
その時、クァ、クァ、という鳴き声が、遠くから幾重にも重なり合うようにして聴こえてきた。何だろう? みんな席を立って、「ポトラッチ」の外に出る。灰色の空の彼方から、隊列を組んだ鳥のシルエットが近づいてくる。鶴だ。それも、十羽や二十羽どころではない。次から次へと隊列が集まってきて、キャンプ・デナリの真上で渦を巻くように、どんどん大きな群れになっていく。数百羽? いや、千羽以上はいたのではないだろうか。
「サンドヒル・クレーンだ。南の山脈が悪天候で越えられなくて、ねぐらを探してここに集まってきたんだろう。こんな大きな群れを見たのは、二十年ぶりだ‥‥」フリッツが呟いた。
ミチオ‥‥星野道夫さんも、原野で一人でキャンプを張っていた時、こんな鶴の群れを、じっと見上げたりしていたのだろうか。千羽を超える鶴たちは、クァ、クァ、と寂しげに鳴き交わしながら、やがて、北の稜線の彼方に消えた。
英語でスピーチ
この間のアラスカ旅行で、デナリ国立公園のキャンプ・デナリに滞在していた時のこと。
キャンプ・デナリに泊まる人のほとんどは、昼の間、ロッジのガイドとともに周辺のハイキングに出かける。目的地はその時の状況によってさまざまだが、年配の人や体力に自信がない人向けの自然観察コース、一般の人向けのモデラート・コース、もうちょっと体力に自信がある人向けのストレニアス・コースがある。母をはじめとする日本人ツアーの参加者はみんなモデラート・コースだったのだが、僕はスピティの高地で増殖したヘモグロビンを持て余していたので(笑)、少人数のストレニアス・コースに参加させてもらっていた。
ハイキングから戻ってきて、ポトラッチと呼ばれる食堂のキャピンで夕食を食べた後、ハイキングの各グループの代表者が、その日の報告をする。どんなコースを歩いたか、どんな野生動物を見たか、どんな出来事があったか‥‥。基本的にはその日のガイドが報告を担当するのだが、たまに、参加者の中の一人が自ら報告をする場合もある。
滞在三日目のハイキングを終えてロッジに戻ってきた時、ガイドのマーサがいきなり僕に言った。
「タカ、今日の報告は、あなたがやりなさい。英語と日本語、両方でね!」
‥‥え? えぇ?!
数十人はいる宿泊客(もちろんほとんど外国人)の前で、僕が、英語でスピーチ?! しかも、夕食まで一時間半しかない‥‥。ここ最近の仕事でも感じたことがないほど、顔から血の気が引いていくのがわかった。
これまでのハイキングの報告では、ロッジのガイドはみんな、外国人特有のウィットの利いたノリで笑いを取りつつ、いい感じで話を進めていた。もちろん、僕にはそんな真似はとてもできないけど、「いやー、日本人なんで英語ダメなんっすよ」みたいな感じでお茶を濁して逃げたりもしたくない。なんとかせねば‥‥えらいことになった‥‥。
夕食後、ハイキングの各グループの報告が始まり、いよいよ僕の番が回ってきた。この日歩いたコースの説明から始めて、風が強くて尾根の上ではとても寒かったとか、おひるを食べた後にちょっと昼寝したとか、地リスを何度か見かけたとか、マーサがデナリの地質学的な成り立ちを教えてくれたとか‥‥。で、最後にこう付け足した。
「僕の個人的なハイライトは、小川を渡る時に飛び越えようとして失敗して、川に落っこちたことです‥‥」
場内、大笑い。その後もみんな寄ってきて、「君、川に落ちたのか! どれくらいこっぴどく落ちたんだ?」と声をかけてくる始末。こういうことを面白がるのは、どこの国の人も変わらないようだ。
アラスカくんだりで、身体を張って笑いを取ったみたいな感じになってしまった(苦笑)。
キャンプ・デナリのメッセージ・ノート
この間のアラスカ旅行でキャンプ・デナリに滞在していた時、父の友人だったご夫妻が「うちのキャビンにあったメッセージ・ノートに、章二さんが書いた文章が残っていた」と知らせてくれた。両親は三年前に一度、キャンプ・デナリに泊まったことがあったのだが、母も、父がこんなものを書き残していたとは知らなかったという。
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31〜4/8〜9/2009(4泊5日)
私たち夫婦は定年退職後、世界のあちこちに旅をし、その度に素晴らしい景色や忘れられない体験に出会ってきましたが、ここアラスカ・デナリの秋の旅ほど素晴らしいものはなかったように思う。今日は快晴、朝焼けのマッキンレーから充分に堪能しました。ワンダーレイクの先のバートレイルのトレッキングは、逆光・斜光に輝くアスペンやブルーベリーの黄や赤越しにマッキンレーに向かっていきました。連山は雲の腰帯を巻き、時には鋭い雪嶺が雪を吐いたりしていました。マッキンレー川の広い河原のランチも嬉しいことこの上ない。標高6194m、麓からそびえる高さ5500mは世界一と聞く。何だ! この堂々たる巨大な山塊は。文句なしに威風堂々。
アラスカの山野は意外と女性的で、また湿潤だという印象を受けた。フェアバンクスからデナリまでの列車の旅で充分に黄葉を楽しんだが、デナリの駅から当ロッジまでのバスの旅の車窓風景が何とも素晴らしかった。山岳地帯に広大な河原や湿原(ツンドラ)が続き、野生動物が生を営む姿も見える。カリブー、グリズリー、ビーバー、ムースなども近くに見つけられた。そして、これがアラスカだという印象が日に日に濃く詳細に形成されていく実感がある。
今日でトレッキング3日目。これまでトレッキング・ロードにただの一片のゴミさえもなかった。なんと立派なことか。わが国民は真似ができまい。ロッジのサービスも十二分に満足している。まるで貸別荘のような居心地のいいロッジから、この美しい秋の光景を楽しんでいる。そして美味しい食事。もうすっかり日本のわが家の暮らしも忘れてしまいました。今夕は、夕焼けのマッキンレーが見られるかもしれません。
明日はアンカレッジ、そして、カトマイに行きます。今秋、最高の旅を有難う。デナリ・ロッジよ、アラスカよ。
JAPAN 岡山 山本章二、美枝子
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父のこの文章について、僕が語れることはそう多くない。ただ、言えるのは‥‥父が僕に望んでいるのは、彼ができなかった生き方を、僕がやる、ということだと思っている。