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「ミルカ」

milkha
僕は映画を観ても、めったに泣いたりしない。でも、この「ミルカ」では、途中で三回、眼鏡を外して、滲んだ涙を拭わなければならなかった。どんな内容の映画なのか、あらすじは結構わかっていたつもりだったのに。

ミルカ・シンは、陸上の400メートル走の世界記録樹立をはじめ、数々の国際大会で栄光を勝ち取ってきた天才スプリンター。インドでは国民的英雄で、1960年のローマ・オリンピックでも金メダル獲得を期待されていた。ところがミルカは、400メートル決勝のゴール直前で背後をふりかえってしまい、メダルを逃してしまう。彼はなぜふりかえったのか。世界記録やオリンピックの金メダルよりも、彼にとってつらく困難な戦いとは何だったのか。

「チェイス!」

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日活と東宝東和がタッグを組んで、アジア各国の映画を日本で提供するレーベルとして立ち上げられた、GOLDEN ASIA。それにラインナップされた最初の3作品の中でももっとも注目されていたのが、インド映画歴代興収ナンバーワンの座に君臨する「Dhoom 3」(邦題「チェイス!」)だった。

傍目で見ていても、「チェイス!」に対する配給元の力の入れようは明らかだった。東京国際映画祭での特別招待作品としての上映に合わせて、実質的な主演のアーミル・カーンの初来日を実現させ、テレビや新聞、雑誌などへのメディア露出も積極的。上映館数も全国各地のTOHOシネマズをはじめ、これまで日本で公開されたインド映画とは桁違いの規模での展開だった。

インド映画にリスペクトを

この間観に行った「チェンナイ・エクスプレス」が、同じ期間に公開されていた「クリッシュ」とともに、DVD化されてリリースされることになった。

去年から今年にかけて、日本で公開されたインド映画が次々とスマッシュヒットを飛ばしているし、今回の2作も2013年にインドで興収記録を塗り変えた大ヒット作。日本でもインド映画に対する認知が広まってきた‥‥と思いたいところだが、今回の2作のDVDのパッケージを見ると、まだまだ道程は険しいな、と思わざるを得ない。

たとえば「チェンナイ・エクスプレス」には、「愛と勇気のヒーロー参上」という、本編を観た人なら首を傾げずにはいられない、的外れなサブタイトルが付けられている。パッケージのデザインもアクションヒーローものっぽく作ってあるが、それも本編の内容とはかなりズレている。本国版のビジュアルの方が圧倒的にカッコイイし、内容に合っている。

クリッシュ」に至ってはさらにひどい。キャッチコピーが「ニート兼スーパーヒーロー カレーの国から参上」。‥‥この映画やインドという国の文化を小馬鹿にしているようにしか受け取れない。パッケージのロゴデザインも、正直、とてもプロの仕事とは思えない安っぽさだ。

もしかすると、日本でこれらの映画を扱っている側の人たちは、B級映画っぽいテイストを演出することで興味を惹こうと考えたのかもしれない。でも、そうした狙いは実に安直だし、日本のインド映画ファンの神経を逆なでするだけだと思う。とりたててインド映画に興味がない人だって、「カレーの国から参上」などという差別じみたキャッチコピーを見せられたら、嫌な気分になるのではないだろうか。

インド映画に、もっとリスペクトを。インドだけでなく、さまざまな国の人々や文化に、もっと理解を。

「チェンナイ・エクスプレス」

chennaiex昨日の夜は、渋谷で今週だけレイトショー上映されていた「チェンナイ・エクスプレス」を観に行った。この間アラスカに行った時に機内で一度観た映画だし、11月中旬には日本語字幕のついたDVDも出るそうなのだが、いや、やっぱり、映画館の大きなスクリーンで観ることができてよかった。この映画は、映画館で観てこそその楽しさを存分に味わえる作品だから。

作品の完成度としては、雑とまではいかなくても、かなり荒っぽい場面展開や、正直さすがにこれはいらんだろと思える部分も確かにある。でも、南インドのうららかな風景の中で、生意気な小娘のディーピカがどんどん艶やかになっていくさまや、へなちょこでおどけた主人公だったシャールクがこれでもかと魅せるクライマックスを大スクリーンで堪能してると、何かもう細かいこととかどうでもいいや、たのしー! って気分になる(笑)。そうやっておおらかに映画館で楽しむのが、インド映画の一番真っ当な楽しみ方なのだと思う。

まさに、とてもインド映画らしい、インド映画だった。満足、満喫。

「めぐり逢わせのお弁当」

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先週末から公開された映画「めぐり逢わせのお弁当」を観に行った。お盆とはいえ平日なのに、シネスイッチ銀座では午前中から長蛇の列が(汗)。もともと午後の回で観るつもりだったので事なきを得たが、その後も立ち見が続出。今、シネスイッチ銀座でかかっているのは、この「めぐり逢わせのお弁当」と、六月末からロングラン中の「マダム・イン・ニューヨーク」。インド映画が銀座を席巻している(笑)。

インドのムンバイには、各家庭で作られたお弁当をオフィスに配達し、食べ終えた後の弁当箱を再び家庭まで運ぶ役目を担う、ダッバーワーラーと呼ばれる人々がいる。5千人ほどいるというダッバーワーラーが一日に運ぶお弁当の数は、約20万個。誤配送が起こる確率は600万分の1と言われている(正直、もっとやらかしてるような気がしないでもない‥‥)。その、600万分の1の確率でしか起こらないお弁当の配達ミスが、決して出会わないはずの二人をつなぐきっかけになる。料理にかいがいしく腕をふるいつつも、夫の愛情を取り戻せないでいるイラ。妻に先立たれた後、生きる意味を見出せないまま早期退職の日を待ちわびているサージャン。間違って届けられた弁当箱に忍ばせるようになった短い手紙のやりとりが、互いの悩みをときほぐし、やがて支えとなっていく‥‥。

ロマンチックな映画だ。予想していたよりも五割増しくらい(笑)ロマンチックだったように思う。でも、主演の二人の演技や作品全体を通じた演出にきっちり抑制が効いていて、場面描写もリアリティを重視して描かれているので、観ているうちにすっかりその場面に引き込まれてしまう。ムンバイの雑踏、満員電車、おばちゃんのどなり声、ダッバーワーラーたちの歌など、ムンバイの空気を感じさせる音の要素も何だかすごく懐かしく感じた。

この映画のラストシーンは、いろんな解釈ができる。監督はもっと具体的な、物語を物語として完全に終わらせる選択肢も用意していたと思うが、あえて「委ねる」ことを選んだのだろう。監督、たぶんキアロスタミとか好きなんだろうなと思って検索してみたら、大当たりだった(笑)。

弁当箱の中に忍ばせた、顔も知らない相手との手紙のやりとり。でも、いや、だからこそ、受け止めることのできる気持もあるのだと思う。