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「PK」

pk
今年インドまで往復するエアインディアの機内で、一番観たかったのが「PK」。「3 Idiots」以来のアーミル・カーンとラージクマール・ヒラニ監督のコンビで、ヒロインはアヌシュカー・シャルマーとくれば、絶対面白いに決まってる。成田からデリーに向かう機内ではまだ入ってなかったのだが、2カ月後に帰る時には、満を持してたっぷり堪能することができた。

この作品、あらすじに触れようとすると‥‥スタート直後からいきなり、まじか!の展開なので、そのとんでもない衝撃をネタバレしないように説明するのは、ものすごく難しい(苦笑)。なので、どんなストーリーなのかはあえて書かないでおこうと思う。

この作品で重要なテーマとなっているのは、「神」だ。国内に多種多様な宗教がひしめくインドが主な舞台だからこそ活きるテーマだが、ともするとセンシティブで扱いにくいとみなされがちな「信仰」について、PKが素朴でまっすぐな視線で捉えていくプロセスが、観ていてなるほどと腑に落ちたり、そういえばそうだなと気付かされたりで、さすがヒラニ監督、さすがアーミル、と唸らされた。それでいて、説教臭さは微塵もなく、ちゃんとした極上のエンターテインメント作品に仕上がっているのだ。えーっ!と度肝を抜かれる衝撃の展開も、クライマックスから伏線を回収しまくりながらラストになだれ込む際の爽快感も、存分に楽しめる。この作品がそれまでのインド映画の歴代興収記録を軽々と塗り替えたのも、当然の結果だと思う。

こういう作品こそ、日本に上陸してほしい‥‥。もちろん、ノーカットで。

「Finding Fanny」

Finding Fannyデリーから成田までの機内では、2時間以上の大作ばかり観ようとすると時間が足りなくなるので、短めの作品も一つ入れた。それが「Finding Fanny」。インド映画にしては一風変わった作品という前評判は聞いていた。

物語の舞台はゴアの田舎町。若き未亡人アンジーの隣の家に住む老人ファーディーの元に、40年以上前に投函した手紙が未開封のまま返送されてくる。それは当時、ファーディーが愛していたファニーという女性に結婚を申し込んだ手紙だった。アンジーはファーディーに、ファニーを探しに旅に出ることを提案する。その旅には、アンジーの亡き夫の母親ロージー、かつてアンジーに振られたことを未だに引きずるサヴィオ、ロージーを追い回す芸術家ドン・ペドロが加わり、オンボロ車に乗っての珍道中が始まる‥‥。

この作品、舞台が異国情緒豊かなゴアの田舎で、登場人物たちの台詞も大半が英語なので、いわゆるインド映画としての特徴は薄く、どちらかというとかつてゴアを植民地にしていたポルトガルなど南欧で撮られた映画のような雰囲気を湛えている。ディーピカやアルジュンをはじめ、俳優陣の演技も自然体でいい感じなのだが、作中至るところに埋め込まれたブラックユーモアが、僕にはどうにも笑えなくて、引っかかるものを感じてしまった。旅に出た意味があったの? それで納得するの? それでもってその結末? うーん、どうなんだろ、というのが正直な感想。確かに、インド映画とは思えないほど洒落た雰囲気の映画なのは間違いないのだが。

今までになく自然体で艶めかしいディーピカの演技を観たいという方にはいいかもしれないけれど、少なくとも猫好きの人は、やめておいた方がいいんじゃないかと思う(苦笑)。

「Highway」

Highwayデリーから成田に戻るエアインディアの機内で観ようと決めていたのは「Highway」。劇中歌のミュージックビデオをYouTubeで観て、この映画がキナウルとスピティでも撮影されていると知ってしまっては、見逃すわけにはいかない(笑)。

結婚式を目前に控えたヴィーラは、ある夜、家をこっそり抜け出してつかの間のドライブを楽しんでいた時、偶然ガソリンスタンドで遭遇した強盗団に拉致されてしまう。ヴィーラが有力な実業家の娘と知った強盗たちは彼女の処遇について言い争うが、一味の一人のマハービールはヴィーラを利用しようと、わずかな仲間とともに彼女を連れて逃亡の旅に出る。ある時、一行は警察の検問に引っかかってしまうが、ヴィーラはなぜか、トラックの荷台で警察から身を隠した‥‥。

誘拐された娘と誘拐した側の犯人が、逃亡を続けるうちにいつしか‥‥という筋書きは、割と予想しやすい展開なのかなとも思ったのだが、この「Highway」に関しては、ヴィーラがマハービールとともに逃げることを選ぶ、ある必然的な理由が隠されている。トラックで、バスで、そして徒歩で、インド各地を経巡る旅の中で、二人は互いをいたわりながら、徐々に心を通わせていく。だがその先には‥‥。

この映画、音楽もなかなか旅情を誘う素晴らしさで、キナウルからスピティへと抜けるバスの旅の時に使われていた「Kahaan Hoon Main」という曲は、僕が今年スピティで車に乗っている時もよくかかっていた。まあでも、ろくな装備も持たずにスピティから徒歩で山を越えて一気にカシミールまで行くのは絶対ムリ、というツッコミは一応入れておきたい。その山越えの道、自分で歩いたことがあるので(笑)。

やりきれない哀しみに満ちたロードムービーだけれど、車窓を流れるインド各地の風景と、アーリヤー・バットの迫真の演技を含め、一見に値する作品だと思う。

「Queen」

queen成田からデリーに向かうエアインディアの機内で観た2本目の映画は「Queen」。2015年のフィルムフェア・アワードを受賞した作品で、機会があればぜひ観なくてはと思っていた。

菓子店の箱入り娘のラーニーは、結婚式を直前に控えたある日、婚約者のヴィジャイから急に破談を言い渡される。突然の申し入れに呆然とする家族。ショックに打ちひしがれたラーニーは閉じこもって泣き暮れていたが、ヴィジャイと計画していたハネムーンのヨーロッパ旅行に、なぜかたった一人で行くと言い出す。あらゆることに慣れない海外一人旅で右往左往しながら途方に暮れるラーニーを、パリ、そしてアムステルダムで待ち受けていた出会いとは‥‥。

インドの伝統的な社会構造の中では、女性はともすると抑圧された立場に置かれてしまいがちだが、最近では、そうした女性が抑圧を跳ね返して自らを軽やかに解き放つ作品もインドで観られるようになってきた。日本でも公開されてスマッシュヒットを記録した「English Vinglish」(邦題:マダム・イン・ニューヨーク)はその典型的な例で、この「Queen」もそうした作品の系譜に連なるものだ。

主演のカングナー・ラーナウトは今のインド映画界きっての若手演技派女優で、コロコロ変わる豊かな表情と台詞、迫真のヨッパライ演技まで(笑)、観ていて本当に楽しい。個人的には、海外一人旅初心者あるあるネタが随所にちりばめられているのもツボだった。新鮮な旅の経験にもまれながら、ラーニーが一人の女性として、でも変にヨーロッパ文化にかぶれたりすることもなく、少しずつ自分自身を見つめ直しながら新たな一歩を踏み出す勇気を手に入れていくプロセスは、心に響くものがあった。意外なことに、日本に関するエピソードも織り込まれていたりする。

この作品、日本で公開したら必ずヒットすると思うんだけど‥‥またシネスイッチ銀座あたりで‥‥どうですかね?

「Happy New Year」

hnyこの夏、成田とデリーを往復するエアインディアの機内では、本当に一睡もせずに(笑)インド映画をかたっぱしから観まくった。最初に観たのは、昨年末インドで大ヒットした「Happy New Year」。シャールクとディーピカ、監督ファラー・カーンという「Om Shanti Om」以来のトリオに加え、脇役陣もアビシェークをはじめとする豪華な顔ぶれ。撮影の多くはドバイロケという、ものすごく贅沢な造りの作品だった。

賭けボクサーに身をやつしていたチャーリーは、クリスマスにドバイの巨大金庫に希少なダイヤモンドが運ばれてくるというニュースを目にする。その金庫のセキュリティを担当するグローバーは、かつてチャーリーの父を罠にはめて現在の地位にのし上がった男だった。チャーリーは復讐のために仲間たちを集め、ドバイの金庫からダイヤモンドを盗み出す作戦を画策。しかしその作戦を成功させるには、ドバイで開催されるワールド・ダンス・チャンピオンシップにインド代表として出場しなければならない。彼らはポールダンサーのモーヒニーの下でダンスの特訓を開始するが‥‥。

作品の印象は、良くも悪くもファラー・カーンらしい映画という感じ。ダンスシーンは華やかだし、ストーリーもわかりやすくて盛り上がる。その一方で、それはちょっと余計なんじゃないかという冗長な部分も結構目に付いて、あと20分は編集で削れたんじゃないかと思えるほど、造りはユルい。まあでも、こういう頭をカラッポにしてスカッと楽しめる、典型的なボリウッドの娯楽大作もあっていいと思うのだ。現代的に洗練された作品ばかりでもつまらないし。

細かいツッコミどころは満載だけど、それも含めてたっぷり楽しめる作品だ。長いけど(笑)。