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「Happy New Year」

hnyこの夏、成田とデリーを往復するエアインディアの機内では、本当に一睡もせずに(笑)インド映画をかたっぱしから観まくった。最初に観たのは、昨年末インドで大ヒットした「Happy New Year」。シャールクとディーピカ、監督ファラー・カーンという「Om Shanti Om」以来のトリオに加え、脇役陣もアビシェークをはじめとする豪華な顔ぶれ。撮影の多くはドバイロケという、ものすごく贅沢な造りの作品だった。

賭けボクサーに身をやつしていたチャーリーは、クリスマスにドバイの巨大金庫に希少なダイヤモンドが運ばれてくるというニュースを目にする。その金庫のセキュリティを担当するグローバーは、かつてチャーリーの父を罠にはめて現在の地位にのし上がった男だった。チャーリーは復讐のために仲間たちを集め、ドバイの金庫からダイヤモンドを盗み出す作戦を画策。しかしその作戦を成功させるには、ドバイで開催されるワールド・ダンス・チャンピオンシップにインド代表として出場しなければならない。彼らはポールダンサーのモーヒニーの下でダンスの特訓を開始するが‥‥。

作品の印象は、良くも悪くもファラー・カーンらしい映画という感じ。ダンスシーンは華やかだし、ストーリーもわかりやすくて盛り上がる。その一方で、それはちょっと余計なんじゃないかという冗長な部分も結構目に付いて、あと20分は編集で削れたんじゃないかと思えるほど、造りはユルい。まあでも、こういう頭をカラッポにしてスカッと楽しめる、典型的なボリウッドの娯楽大作もあっていいと思うのだ。現代的に洗練された作品ばかりでもつまらないし。

細かいツッコミどころは満載だけど、それも含めてたっぷり楽しめる作品だ。長いけど(笑)。

「若さは向こう見ず」

yjhd日本の映画館のスクリーンで観ることを長い間待ち焦がれていた作品を、ついに目にすることができた。「Yeh Jawaani Hai Deewani」、邦題「若さは向こう見ず」。去年のIFFJでの上映時は観ることができず(というかその時期は毎年タイ取材なので)、このまままともに観られずに終わるのかとかなりやきもきしていたのだが、本当にようやく、念願が叶った。

勉強ばかりの生真面目な生活に飽き飽きしていた医学生のナイナは、街で会った高校時代の同級生アディティが参加するマナリへのトレッキングツアーに自分も行こうと思い立つ。そのツアーには、高校の頃から人気者だったバニーとその友達アヴィも来ていた。世界中を旅しながら生きていきたいと語るバニーの自由奔放さに、振り回されながらも惹かれていくナイナ。しかしバニーは、3週間後にインドを離れてアメリカに渡る決意を固めていた‥‥。

物語の主軸はよくできたおとぎ話のようなラブストーリーなのだが、それと同時に、前半はナイナが一人の女性としての自分に目覚めて解き放たれていく物語、後半は世界を旅し続けてきたバニーがそれまで見過ごしていた大切な何かに気付いていく物語と、二人をはじめとする登場人物たちの成長を見守る物語にもなっている。各場面の描写は丁寧で美しく、台詞も気が利いていて、時にぐっと心に刺さる。個人的には、それまでほとんど出番のなかったバニーのお義母さんが終盤になって彼に語った台詞が、いろんな意味で自分自身にもシンクロする部分があって、かなり泣けた。

ヒット曲揃いのダンスシーンも、ここ数年来のインド映画の中では抜群の出来。最初から最後まで存分に浸って楽しんで、すっきりした気分で映画館を後にできる作品だ。スクリーンで観ることができて、本当によかった。

「Hawaa Hawaai」

hawaahawaai先日のノルウェー取材の時に乗った飛行機では、なぜかインド映画のラインナップが充実していた。ミュージカルシーンがばっさりカットされた残念なものも多かったのだが、この「Hawaa Hawaai」はほぼノーカットだったようで、じっくり楽しむことができた。

一家の大黒柱だった父を亡くして貧しくなった家族を助けるため、ムンバイの街の駐車場にあるチャイ屋で働く少年、アルジュン。その駐車場は夜になると、お金持ちの子供たちが集まるインラインスケートの練習場になる。インラインスケートに憧れを募らせるアルジュンを見た仲間の貧しい少年たちは、スクラップ置き場で拾い集めた材料で、アルジュンのためにスケート靴を作ろうとする。そのスケート靴「ハワー・ハワーイ」が彼らにもたらしたものは‥‥。

日本でも公開された「スタンリーのお弁当箱」のアモール・グプテ監督の新作であるこの作品、主演を務めるのは前作と同様、監督の息子さんのパルソー君。あらすじだけを見れば、少年が才能と努力で困難を克服して高みを目指していくという、割とよくある設定だし、演出や俳優の演技も、あまりにもナチュラルだった前作に比べるといくぶんオーソドックスな印象だ。ただ、そこでよくあるオーソドックスな映画で終わらせないのがグプテ監督らしいところ。理不尽な貧富の格差の中で、学校にも行けずに過酷な労働を強いられている、今のインドに無数にいる子供たちの問題をきっちりあぶり出している。その点では、「スタンリーのお弁当箱」の延長線上にある作品なのだろうし、最後の最後がああいう終わり方だったのも、「この子たちにとって一番大事なのは、勝つか負けるかとかじゃなく、これなんじゃないの?」という監督のさりげないメッセージだったのかもしれない。

いきいきと瞳を輝かせる子供たちの演技は素晴らしいし、英語でなく日本語字幕で観たら、もっといろいろ腑に落ちる部分もあると思うので、日本でも公開されるといいなと思う。ぜひに。

「女神は二度微笑む」

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僕はふだん、サスペンスものの映画はあまり観ないのだが、この「女神は二度微笑む」の日本での公開が決まってからは、必ず観に行かなくてはと思っていた。国内の映画祭で観た人からの評価が異様に高かったし、インド映画界きっての演技派女優、ヴィディヤー・バーランの主演作は、これが日本初上陸のはずだったし。

インドのコルカタ国際空港に降り立った身重の女性、ヴィディヤ。彼女は、この街に出張してきたのに一カ月前から行方不明になっている夫を捜しに、はるばるロンドンからやってきていた。だが、夫が泊まっていたはずのゲストハウスにも、勤務先だったはずのNDCにも、夫を知る者は誰もいない。やがて、その先に浮上したある人物の素性と行方をめぐって、事態は思いもよらない方向に‥‥。

‥‥あー、難しい。ネタバレさせずに書くのが難しい(苦笑)。でも、期待に違わぬ傑作だったことは保証する。緻密でありながら、いくつもの驚きに満ちた脚本。ヴィディヤー・バーランの、文字通り素晴らしい演技(先週観た「フェラーリの運ぶ夢」で陽気なアイテムソングを踊ってた女性と同一人物とはとても思えない)。サスペンスやホラーによくある、激しい場面展開やアクションやでかい効果音などで観客をびびらせるのではなく、脚本と演技の力だけで、観る者を完全に映画に没入させて、最後の最後に「うわー!!!」とさせる(としか書きようがない)。すごい映画だ。

舞台となったコルカタの街の、熱気と喧騒と埃がどんよりと澱んだ猥雑な雰囲気も、なくてはならない舞台装置だ。そこかしこに挿入される街や人々の描写が、謎めいた雰囲気をさらに盛り上げる。この映画、ハリウッドでのリメイクの話も持ち上がっているようだが、舞台がコルカタでないと、その魅力も半減してしまうだろう。個人的には、昔、マザーハウスでボランティアをしていた時に乗り降りしていた地下鉄のカーリーガート駅や、大河にかかるハウラー橋が出てきた時は、何とも言えない懐かしい気持になった。

とりあえず、観た方がいいと思うし、観てもらえれば必ず納得してもらえると思う。傑作。

「フェラーリの運ぶ夢」

ferrari
昨日は、千葉にあるイオンシネマ市川妙典まで遠征して、インド映画「フェラーリの運ぶ夢」を観た。日本でもヒットした「きっと、うまくいく」のスタッフががっつり関わっているこの作品、面白くないはずがないのだけれど、どういう大人の事情か、都内での上映館がないのである。公開初日だった昨日、館内はのんびりとした雰囲気だったが(苦笑)、観終わった後は「なんで? こんなにいい映画なのに!」と思わずにいられなかった。

交通局に勤めるルーシーは、バカがつくほど正直な男で、信号無視をしたのをわざわざ警官を見つけて自己申告するほど。早くに妻を亡くした彼は、気難しい父のベーラムと、一人息子のカヨと三人で、つつましく暮らしていた。クリケットで素晴らしい才能を持つカヨは、ロンドンで行われる強化合宿のセレクションを受けることになるが、その遠征には15万ルピーもの大金が必要だった。頭を抱えるルーシーのもとに、突拍子もない話が持ちかけられる。インドのクリケット界のスーパースター、サチン・テンドゥルカルのフェラーリを借りてきてくれたら、15万ルピーを払うというのだ‥‥。

この映画、話の展開だけを見ればかなりぶっ飛んでいるのだが、脚本がとにかくよくできていて、すんなりと楽しく観続けることができる。どうなるんだろう?と思っていた各登場人物の行動が最後にしゅるるっと収斂していって、細かい伏線まで見事に回収されていくのが気持ちいい。「きっと、うまくいく」でも好演したシャルマン・ジョシとボーマン・イラニも役にハマっていたし、カヨ役のリトウィク・サホレは、ショッピングモールで家族で食事していたところをスカウトされた、まったく普通の男の子だったそうなのだが、そうとはとても信じられない、みずみずしい演技をしていた。

笑って泣いて驚いての起伏を何度もくりかえして、観終わった後に感じる何とも言えない多幸感は、「きっと、うまくいく」の系譜に連なる作品ならではのもの。それにつけても思うのは、「なんで? こんなにいい映画なのに!」。良い映画は、みんなで映画館に足を運んで、スクリーンで観ることで応援してあげるしかないのかなと思う。