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「百発百中 Ghlli」


インド大映画祭のリベンジ上映で、「百発百中 Ghlli」を観た。2004年に公開されたヒット作で、主演はヴィジャイ、ヒロインはトリシャー。

警官の父の目を盗んで仲間とのカバディに熱中する青年ヴェールは、試合に出場するためにこっそりマドゥライの街を訪れる。そこでは、地元で横暴を極めるムットゥパンディが、美しい少女ダナラクシュミに強引に求婚し、彼女の兄二人を殺した上で、彼女を我がものにしようとしていた。ヴェールはダナラクシュミをかくまいながら、彼女を米国の親類のもとへ逃れさせようとするのだが……。

物語としてはものすごくシンプルで、ひねりもトリックも伏線もサイドストーリーもないまま、ぐいぐいまっすぐに進んで、予想通りのエンディングを迎える。その後のヴィジャイの作品に比べると、カバディやアクションシーンの迫力は少し物足りないし、明らかに合成とわかってしまう拙いカットもある。ヴェールと家族とのコミカルなやりとりは、インドのコメディドラマのノリを知らないと戸惑うかもしれない。ヒロインのダナラクシュミの描かれ方も、さすがにちょっと受け身すぎるのでは、と感じる人もいるだろう。何しろ16年前の作品なので、そうした古さを感じてしまうのも致し方ないのかもしれない。

それでもまあ、この作品、面白いのである。これぞタミルの娯楽映画、という感じで、頭を完全にカラッポにして楽しむことができた。こんな風に楽しめる映画が、少なくとも僕には、時々必要なのだと思う。

「結婚は慎重に!」

インディアン・ムービー・ウィーク2020で観た4作目の映画は、「結婚は慎重に!」。主演の二人、アーユシュマーン・クラーナーとジテーンドラ・クマールがゲイのカップルを演じる、スラップスティック・コメディだ。

カールティクとアマンは、歯磨き粉のセールスマンから駆け落ちの手助け業まで、その日暮らしの仕事で食いつなぎながらも、幸せな日々を過ごしていた。ひょんなことから、二人はアマンの親戚の結婚式に出席することになったのだが、超保守的なアマンの父親シャンカルに、二人の関係がバレてしまう。激昂したシャンカルは、アマンにお祓いを受けさせたり、知人の娘との縁談を無理やり進めようとしたりするのだが……。

インドでは英国の植民地だった時代から、同性間での性行為を禁止する法律、刑法第377条が存続していたという。この法律が撤廃され、同性間の性行為が合法化されたのは、2018年9月、つい最近のことだ。「結婚は慎重に!」は、インドという国に新しくもたらされたこの社会基準を真正面から取り上げた、ボリウッドのメジャー路線では初めての娯楽作品ではないかと思う。

主人公のカップルの片方が、意に沿わぬ縁談を頑固な家族から押し付けられ、引き裂かれそうになるのを、主人公たちがあの手この手で乗り越えていくという図式は、「DDLJ 勇者は花嫁を奪う」をはじめ、インド映画では定番のフォーマットだ。この「結婚は慎重に!」もそのフォーマットを使ったドタバタコメディなのだが、アマンの家族と親族が一癖も二癖もある変わり者ばかりで、展開がハチャメチャなので話を追っかけるのが大変(笑)。社会的には彼らの中でもっともマイノリティであるはずのカールティクとアマンが、一番まともで、自分自身に正直に生きていて、それが家族や親族たちと対照的に描かれていく。典型的なホモフォビアであるシャンカルも、二人の絆を目の当たりにするうちに、理解できないと悩みながらも、少しずつ歩み寄っていく。

主人公の二人がゲイであること自体を、笑いのネタにしたり揶揄したりする意図の演出がまったくなかったのも、観ていてすごく清々しかった。いろんな意味で、観る価値のある作品だと思う。

「無職の大卒」

インディアン・ムービー・ウイーク2020で観た3本目の作品は、ダヌシュ主演のタミル映画「無職の大卒」。彼にとって25本目の出演作で、自身でプロデュースも手がけたらしい。

大学で建築を学んだものの、意中の就職先がなかなか見つからないラグヴァランは、何かにつけて先に就職した弟と比べられ、肩身の狭い毎日。隣の家に越してきたシャーリニに好意を抱くが、歯科医で高収入の彼女にも引け目を感じている。そんな中、思いがけない出来事がいくつも起き、彼は、スラムの人々が暮らすための公共住宅の建設の仕事に関わることになるのだが……。

この作品、ダヌシュ演じる主人公ラグヴァランの(がんばってるんだけど)ダメっぷりが描かれる前半と、敵役との対決が繰り広げられる後半とで、別の作品と言っても通用するくらい趣が異なる。とはいえ、物語全体はシンプルでわかりやすかったし、後半のラグヴァランの危機に「無職の大卒たち」が集うシーンは胸熱だった。ダヌシュ自身の演技も、ダメ男っぷりも、キメる時はキメる男っぷりも、どちらも彼らしくぴたっとハマっていた。ただ、個人的には、ラグヴァランが無職の身からステップアップしていく過程が「それってタナボタじゃね?」的なパターンの連続だったので、もうちょい彼自身の奮闘が目に見える形で報われるような展開だともっとよかったのに、と思った。

物語の最後は、あの人はどうなるんだろとか、あれはどうなったんだろとか、結構いろんなポイントが放置されたまま終わってしまったので、ちょっとびっくりしたのだが、この「無職の大卒」、続編がインドではすでに公開されていた。続編の敵役は、カージョル! かなり観てみたくなった。

「ストゥリー 女に呪われた町」

キネカ大森で開催中のインディアンムービーウィーク2020で観た2本目の映画は、「ストゥリー 女に呪われた町」。「インド・オブ・ザ・デッド」のラージ&DKがプロデュースを務めるホラーコメディで、出演はラージクマール・ラーオとシュラッダー・カプール。この組み合わせにはかなり興味を惹かれた。

舞台はインド中部の町チャンデーリー。この町では、毎年行われるドゥルガー・プージャーの時期になると、ストゥリーと呼ばれる女の幽霊が夜な夜な現れて、町の男たちをさらっていくと恐れられていた。祭りの時期にさしかかったある日、仕立て屋の一人息子ヴィッキーは、一人の謎めいた女性から、服の仕立てを依頼される。女性に免疫のないヴィッキーはすっかり彼女に惚れ込んでしまうが、彼女が町に現れたその日の夜から、町の男が一人、また一人と行方不明になって……。

ホラー映画にしてはそこまで怖くはないし、サスペンス映画にしてはそこまで鮮やかな謎解きもない。スリリングと呼べるほどスピーディーな展開でもないし、ドラマチックと呼べるほど感動的な場面もない。インドの田舎町特有ののほほんとした雰囲気の中で、田舎者の男たちと正体不明の女性との物語が、のんびり、ゆったり語られていく。ここがすごい!と思えるポイントはどこにも見当たらないのだが、それでいて、観ていると……面白いのだ。何がどうとははっきり説明できないのだが、最初から最後まで、ずーっと気になって、引き込まれてしまう。このゆるゆるホラーコメディの作り手と役者たちの狙いに、まんまとハメられてしまった。

たぶんこの映画の作り手たちは、自分たちの演出で観客を怖がらせようとしているのではなく、役者たちが幽霊におびえたりする場面を撮ること自体が好きでたまらなくて、楽しんでいるのだろう。いい意味でのB級映画センスが、うまく組み合わさった作品だと思う。面白かった。

「ビギル 勝利のホイッスル」

昨年に続き今年も開催されることになったインド映画祭、インディアンムービーウィーク2020。僕も何本か観に行こうと思い、最初に選んだのは、「ビギル 勝利のホイッスル」。“タラパティ”ヴィジャイが主演の、女子サッカーを題材にしたタミル語映画だ。

若くしてチェンナイのスラム街を仕切るマイケルは、かつてはビギルと呼ばれた、サッカーのスタープレーヤーだった。暴漢に襲われて重傷を負った親友の代わりに、マイケルはタミルナードゥ州の女子サッカー代表チームの監督を引き受けることになる。仇敵による卑劣な妨害の数々を受けながら、マイケルはバラバラになりかけているチームを率いて、かつての自分が手に届かなかった、栄冠を勝ち取ることができるのか……。

以前観た「メルサル」や「サルカール」と同様、この作品もヴィジャイが主演する映画らしい、いい意味での「お約束」が満載の娯楽大作だ。格闘シーンはキレッキレだし、ダンスシーンは華やかだし、笑わせどころも泣かせどころもふんだんに盛り込まれていて、3時間近い尺の長さが、まったく苦にならない。

そんな娯楽大作としての「お約束」を外さない一方で、専業主婦業の強制やアシッド・アタック、さまざまな場面での女性蔑視など、インドが(そして日本を含む世界の多くの国々が)長年の課題としている女性のエンパワーメントという社会問題も真正面から扱っている。そういったメッセージの伝え方も、アトリ監督とヴィジャイらしいな、と思う。

しいて気になった点を挙げるとしたら、この作品でのサッカーという競技の描かれ方には、正直言ってあまりリアリティがない。絵的に映えるからだろうけどヒールリフトやボレーシュートが異様に多いし、マイケルによるトレーニングや試合中の戦術指導にも、具体的にナルホドと思えるような仕掛けはほとんどない。選手を意図的に審判に体当たりさせたら一発退場になるのが普通だ(笑)。ビギルことマイケルが、選手として、監督として、何が凄いのかが、全体を通じていまいちピンと来ない。「ダンガル」での女子レスリング競技の描かれ方と比べると、もう少し工夫できなかったかな、と思ってしまう。

ともあれ、喜怒哀楽の感情デトックス効果で、観終わった後にすっきり爽快な気分になれる、良い映画だった。