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ガイドブックなんて

昨夜の飲み会の時のこと。隣の席にいた数人の中年のお客さんが、旅についての話をしているのが聞こえてきた。

「ガイドブックなんて、旅行の前に一応買うけど、結局、役に立たないよね。現地で情報収集するのが一番だよ!」

‥‥まあ、そうなのかもしれないな(苦笑)。確かに旅行の時は、現地でしっかり情報収集するのが一番確実だし、大事だと思う。ガイドブックに頼りすぎると、現地の事情が変わっていた時、思わぬ痛い目に遭う。僕自身、旅をする時はガイドブックにはあまり頼らず、出たとこ勝負で決めるタイプだし。それは否定しない。

ガイドブックというのは、世間ではこんな風に「ガイドブックなんて‥‥」と言われるような類の本なのだろう。読んだ人が「感動しました!」と涙を流すわけでもないし、諸事情により掲載していない情報があれば「載っていないじゃないか!」と叩かれ、時間の経過とともに現地の事情が変わったら「間違ってるじゃないか!」と怒られる。それが、ガイドブックの宿命なのかもしれない。

でも、今回のラダックのガイドブックは、そんなことも全部ひっくるめた上でも「いい本だな」と思ってもらえるように、心血を注いで作ったつもり。現地での取材に協力してくれたたくさんの人たちや、日本で制作をサポートしてくれた大勢の関係者の方々に、恥じない出来にはなっていると思う。

書店で手に取って、ぱらぱらとでもめくってもらえれば、きっと伝わるはず。僕たちの思いが。

腹が減っては

取材のため、午前中に家を出る。下りの中央線に乗り、西国分寺で武蔵野線に乗り換え、さらに東武東上線に乗り換えて、川越へ。あたりに広がる、田んぼと畑。えらいところまで来たもんだ。

今日は二件の取材が入っていたのだが、間の空き時間が中途半端だったせいで、おひるを食べ損ねてしまった。二つめの取材を終えて電車に乗る頃には、もうふらふら。完全にエネルギー切れ。腹が減っては‥‥というやつだな。

都心に戻り、八重洲にある和風ダイニングの店へ向かう。以前、デリーでさんざんお世話になったご夫妻と、その友人の方との会食。いやー、おいしかった。びっくりした。エネルギーが枯渇してたから、余計においしく感じたのかも。

ひさしぶりに会った方々と、ラダックやらパキスタンやらアフガニスタンやら、濃〜い話ができて愉しかった。それぞれ夏には計画があるので、帰国したら報告会をやりましょう、という話に(笑)。心地よい時間だった。

嵐の記憶

昼頃までは日も射して暑いくらいだったが、急に空が暗くなったと思ったら、風、雨、雷。激しい嵐になった。

こういう嵐に出くわすと、いつも、あの夜のことを思い出す。2010年の夏、トレッキングで分け入っていたラダックの標高五千メートルの山の中で、真夜中に激しい嵐に見舞われた時。テントが吹き飛ばされそうになるほどの風と、叩きつける雹混じりの雨と、空を覆う凄まじい稲妻。あの嵐の数時間の間に感じた恐怖は、たぶん一生忘れられないだろう。同じ時、ラダック各地で起こった土石流災害の死者・行方不明者は、600人以上に達した。

あの時の僕は、神様の気まぐれで、たまたま生き残っただけなのだ。いつ、どんな形になるかわからないけど、いつかは必ず、自分の番が来る。だからこそ、その順番が来るまで、自分にできること、やるべきことを、精一杯やっていかなければならない。嵐の記憶は、僕にそんなことを思い起こさせる。

夏の計画

昨日の夜もよく寝た。昼頃にもそもそと起き出し、ラーメンを作って食べ、取材原稿の執筆にとりかかる。いたって順調。明後日にガイドブックの色校が届くまでには、ほぼカタがついてるだろう。

いろいろ片付いてきて、気持に余裕が出てきたからか、そろそろ今年の夏の計画を考えはじめている。ぼんやりとおぼろげだったものが、ここにきて、割と実現可能な形で見えてきた。そんなに無理がある計画でもないし、たぶん、このまま実行に移すと思う。

やっぱり僕は、戻りたいんだな。カメラを携えて、一人、あの荒野の中に。

「ラダック ザンスカール トラベルガイド インドの中の小さなチベット」

ラダック ザンスカール トラベルガイド インドの中の小さなチベット
文・写真:山本高樹
価格:本体1700円+税
発行:ダイヤモンド・ビッグ社
A5変型判144ページ(オールカラー、折込地図付)
ISBN978-4478042670

一年半前から準備を続けてきた書籍が、まもなく発売になります。ラダック全域とザンスカールなどを網羅したガイドブックです。豊富な写真と詳細な地図で各地の見どころを紹介するとともに、歴史やチベット仏教、人々の暮らしにまつわるコラムも。ありのままの姿のラダックを知り、かの地を旅する時の手がかりとなる一冊です。