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靴の新旧交代

昼、板橋で取材。一件だけで早めに終わったので、帰る途中で新宿に寄り、新しいトレッキングシューズを買う。キーンのタージーIIローカット。買うのはなんとこれで三代目。オーソドックスな造りの履きやすい靴で、僕のような使い方、つまり、ラダックのような土地でロングトレイルを踏破するのには適している。

今まで使っていたこの靴の二代目も、履けるのは履ける状態なのだが、底の突起はごっそりすり減り、クッションもへたってしまって、ソールがいつ割れはじめてもおかしくない状態。特に長旅の途中で割れてしまうと、どうにもならない。先週の山歩きでその限界を実感したので、意を決して買い替えて、二代目は普段の近所歩き用に退役してもらうことにした。

昔、陸上をやっていた頃、コーチに「靴を大切にして長く履き続けるのは美徳だと思う。だが、それで脚を壊したら元も子もない」と言われたことがある。あの頃履いていたランニングシューズは、練習での酷使で半年も保たなかった。だからといって、ぽいぽい捨てるのもどうかと思うけど。古びた靴は、それでも役立つ場面で使ってあげるようにしたいなと思う。

ただいま、おかえり

昨日の夜は、吉祥寺のアムリタ食堂で行われた、羊毛とおはなのライブに行った。

店内はぎっしり満席。漂うエスニックな香りに、おはなさんは「うまそうな匂いだなあ」と笑いつつ、新譜「LIVE IN LIVING’13」からの曲を中心にたくさん歌ってくれた。羊毛さんの指がギターの弦を弾く動きまでよーく見えるほどの至近距離。こういう小さなハコで聴く彼らの歌は本当に心地よい。

アンコールでは、お客さんからのリクエスト、というか、おはなさんが「今歌える曲」の楽譜を何枚か抜き出して、伏せた状態でお客さんにひいてもらった曲を歌うことになった。選ばれたのは、「ただいま、おかえり」。

ただいま、おかえり。ごらん街は君の帰りをいつも待ってる
さよなら、またね。と旅立つ君の背中押してくれる
帰る場所はあるからね、と。

僕がこの曲を好きなのは、日本という故郷だけでなく、ラダックという「帰る場所」も思い起こさせてくれるからなのかもしれない。それは本当に個人的な思い入れなのだけれど、あの空の向こうに、自分を待ってくれている場所があると感じられるのは、たぶん、とても幸せなことなのだろう。

がんばらなきゃな、と思った。

歌うなら、自分の歌を

今日と明日は、自宅で執筆作業に充てる。明日の夕方に某大学で行われる公開講座の取材依頼が来たのだが、時間的にもキャパ的にも無理なので、やむなく断る。まあ仕方ない。

臨戦態勢を整えて、夜半過ぎまで、一心不乱に書き続ける。どうにか形にはなった‥‥かな。先週末に取材したインタビューの原稿。元々の話自体が面白かったので、指定文字数に合わせて、テープ起こしした分から削っていくのがもったいないくらいだった。

この仕事に携わるようになってから、インタビューの原稿は、文字通り数えきれないほど書いてきた。二十代初めの頃は、雑誌に載るような読み応えのあるロング・インタビューを書けるライターになるのが夢でもあった。やがて幸運なことに、実際にそういうインタビュー記事をいろんな雑誌で毎月のように書かせてもらえる立場になったのだが、僕はいつも、心のどこかで、小さな違和感を感じていたように思う。

燦然と輝きを放つ人にインタビューして、その輝きを余すことなく読者に伝える。でもそれは、人が放つ輝きのおすそわけに預かっているということでもあった。インタビューという仕事自体には価値があると思う。けど、それだけでいいのか? 他人のヒット曲を歌っていればいいのか? 歌うなら、自分の歌を歌うべきなんじゃないのか?

だから僕は、六年前、すべてを放擲して、ラダックに向かったのかもしれない。

これからも僕は、いろんな種類の取材を請け負うだろうし、インタビュー記事もいくつか書いていくだろう。でも、一番追求していくべき仕事は「自分の歌」なのだと思うし、それが一番周囲から求められているものだとも思っている。

自分が読みたいことを書く

昼、国立で取材。自分自身で人選した取材を日本国内でするのは、ひさしぶりな気がする。

今日の取材で聞いた話の中で、印象に残ったこと。ターゲットや何やらを気にして、「こういうことを書けば好きになってもらえるだろう」と思って書いても、たいてい、思ったような結果は出せない。それよりも、自分が好きなこと、自分が読みたいと思えることを素直に書けば、それに共感してくれる人は必ずどこかいる。すべての人に好感を持ってもらうのは無理なんだから、限られた数の共感を持ってくれる人をまず大切にすべき、と。

ほんと、そうだな。僕のラダック絡みのプロジェクトとか、ある意味、その最たるものだ。あまりにマニアックすぎて、結果が伴ってるかどうかも未だによくわからないけど(苦笑)。

煙霧

昨日の午後は、友人の宮坂清さんが登壇する、ラダックのシャーマンについての講演へ。話自体も、初心者にもわかりやすく噛み砕いた内容で面白かったし、ひさしぶりに会って、お互いの近況を話せてよかった。ただ、打ち上げの席では、別の参加者の絡み酒に邪魔されて(苦笑)、あまりゆっくり話し込めなかったのは残念だった。

で、今日は午後から、チベット・ピースマーチへ。電車に乗って向かう途中、中野駅のあたりで、急に空が灰黄色にどろんと濁ってきた。渋谷駅から外に出ると、強い風に煽られた砂埃で、目も開けていられないほど。黄砂にしては異様だなと思ったら、煙霧という現象らしい。ピースマーチが始まる頃には、ある程度収まってくれてほっとしたが。

夕方になっても風は吹き止まず、昼頃の陽気が嘘のように冷え込んできた。