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「君の名は。」

予想以上の大ヒットで映画館がずっと混雑していたのと、ここしばらくのせわしなさで、なかなか見られないでいた新海誠監督の「君の名は。」を、ようやく観に行くことができた。

千年ぶりに現れた彗星が近づきつつある日本。とある山奥の田舎町に住む高校生、三葉は、不思議な夢を見るようになった。東京にいる見知らぬ少年となって、彼の生活をまるで現実のことのように体験する夢。一方、東京で暮らしている高校生、瀧も、山奥の町にいる見知らぬ少女になってしまう夢を見るようになった。やがて二人は、実際に互いが入れ替わる現象がくりかえされていると気付く。まだ出会ったことのない、出会うはずもなかった二人が、不思議な形で結びつけられた意味は……。

新海監督はもともと独自の世界観と個性的な作風を持っていた方で、これまでの作品は必ずしも万人受けするものとは言い切れないところがあった。SF寄りの作品でも、現実世界寄りの作品でも、大切にしていたのに失ってしまったものを取り戻せない切なさ、やりきれなさのような後味を残す作品が多かった。でも、この「君の名は。」は、そこから立ち上がって、運命に抗ってさえ、大切なものを取り戻すためになりふり構わず駆け出していくような、そんな作品になっていたと思う。

作中には、これまでの新海監督の作品(CMも含めて)のセルフオマージュとも言える要素が数多く盛り込まれている。逆に言えば、過去のそうした蓄積がリブートされてエンターテインメント作品として最適なバランスで昇華されたのが「君の名は。」と言えるのかもしれない。

とりあえず、このピュアで王道なストーリーを素直に楽しめるくらいには、自分に人並みにノーマルな感情が残っていることにほっとしている(笑)。観客は圧倒的に10代、20代が多いのだそうだ。ティーンエイジャーのうちにこういう映画を観ることのできる人は、幸せだと思う。まだの人は、ぜひ映画館へ。

「Tamasha」

tamasha今年の夏のラダック滞在、成田からデリーまで往復したエア・インディアの機内では、例によってインド映画三昧だった。機内でラインナップされていた中で一番観たかったのは、「Tamasha」。監督はイムティアーズ・アリー、主演は「若さは向こう見ず」に続いての共演となるランビールとディーピカ。東京で密かにロケが行われた作品という点でも気になっていた。

コルシカ島を旅していてパスポートとお金をなくして困っていたターラーは、芝居がかった嘘ばかり話す、ドンと名乗る男と出会う。二人は「コルシカにいる間は、お互いのことは嘘しか言わない。コルシカで起こった出来事はコルシカに置いていこう」と誓い合い、ターラーのパスポートとお金が届くまでの短い時間を二人で過ごす。別れの日が来た時、ターラーは本当の名前も知らない彼に惹かれていることに気づく。

数年後、二人はデリーで再会する。ドンことヴェードは、コルシカを旅していた時の彼とは別人のように実直なエンジニアとなっていた。やがて二人はつきあい始めるが、コルシカでの彼の記憶が忘れられないターラーは……。そして、本当の自分自身とは何なのか、子供の頃から引きずる苦悩と向き合うヴェードは……。

シンプルに若さはじけるボーイ・ミーツ・ガールのラブストーリーなのかと思いきや、それだけではなく、自分自身の弱さと向き合いながら道を探すヴェードの成長物語でもあり、冒頭から織り込まれている謎めいた劇中劇もきっちり伏線となって最後に収斂されているあたり、予想よりも凝った作りで、観ていて楽しかった。ただ、前半のコルシカ島での二人の物語がとても鮮やかで魅力的だった分、二人のすれ違いとヴェードの葛藤を描く後半はややパワーダウンした印象になったのは否めない。ターラーには後半ももっと物語に絡んでほしかった。

ラスト直前には東京で撮影された場面。重要なシーンに東京を選んでもらえたのは、ちょっとうれしい。そんな縁もあるのだから、この映画、日本で、日本語字幕付きで公開されるといいなあ……と希望的観測を書いてみたり。面白い作品だったので、ぜひに。

暗い時代への道程

朝起きて、ベッドシーツと最後の洗濯物を洗濯し、近所のコインランドリーで乾燥機にかける。乾燥が終わるまでの間に、近くの小学校に行って、参院選の投票。人の集まりは……鈍かったように思う。選挙なんて所詮は他人事と勘違いしている人も多いのだろうか。

世界は今、暗い時代への道程をまっしぐらに進んでいるように思える。世界の至る場所でテロが発生し、この調子だと日本国内で起こるのもたぶん時間の問題だ。テロよりももっと大きな、内戦や、国同士の戦争も、いつどこで起こっても不思議でないきな臭さが漂っている。日本では、政府に脅されたマスメディアが口を閉ざし、教育の現場すら萎縮している。知るべきことは伝えられず、言うべきことも自由に言えなくなっていく。何て窮屈な世の中になってしまったのだろう。

家に戻って、カメラザックに撮影機材を詰め、荷物をまとめる。明日から約4週間のラダック滞在。帰国する頃までに日本がどんな国になってしまっているのか、ある意味怖い。まあでも、とりあえず、いってきます。

バングラデシュの記憶

バングラデシュの首都ダッカのレストランで、日本人を含む外国人20人が殺害されるテロ事件が起こった。バングラデシュでは去年から日本人や外国人が殺害される事件が時々起こっていたが、これほど大規模なテロは今までになかった。巻き込まれた方々のことを考えるとやりきれない思いがある。

僕がバングラデシュを訪れたのは、2年前の2月。ほんの10日ちょっとの旅で、自由時間もろくにないプレストリップだったが、それでもあの国の魅力は直に肌で感じることができた。膨大な数の人々がうごめくように暮らす巨大都市ダッカ、みずみずしい水田が広がる農村、霧に閉ざされたマングローブの密林、そして、穏やかでシャイで、人なつこい人々。彼らのはにかむような笑顔を思い出すと、なおさら胸が苦しくなる。

テロはもちろん絶対に許されない行為だし、今のような状況下でバングラデシュを旅したりするのは無謀だ。でも、「テロで日本人が殺された怖い人たちの国」という変なレッテルがバングラデシュに貼られてしまうのは、それはそれでよくないとも思う。いつかまた、いろんな物事が良い方向に動くようになるといいのだが……。

亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

ところ変われば

午後、横浜中華街へ。今日からスタートする写真展の設営をしに行く。脇にはA2サイズのパネルを収めた袋を抱え、背中のバックパックには売り物の本やら何やら。先週の打ち合わせの時にA3のパネルだけ先に搬入しておいて、ほんとよかった。

パネルの設営は、一人で淡々と、3時間くらいかけて慎重に進めた。リトスタに比べると壁の凸凹が多いので、脱落しにくいようにパネルを固定するためにあれこれ検討しながら、壁にマスキングテープを貼り、その上から粗面用の両面テープでパネルを貼っていく。今回は2週間だし、何とかもってくれればいいのだが。

パネルをすべて貼り終えて会場を見回すと、三鷹の時とはまたひと味もふた味も違う、旅の情感がぐるりと渦巻いているような、とても濃密な雰囲気の展示になったように感じた。ところ変われば、写真の見え方も受け止められ方もずいぶん変わるものなのだなと思う。

横浜中華街での展示は、6月29日(水)まで。未見の方は、ぜひに。