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WORLDWIDE SESSION 2016

wws2016
明け方の嵐が過ぎ去った後、嘘のように晴れ上がった空。昼、電車を乗り継いで、新木場へ。今日は前から楽しみにしていたWORLDWIDE SESSION 2016の日。松浦俊夫さんとジャイルス・ピーターソンがキュレーターとなって、選りすぐりのアーティストを集めた新しいスタイルのフェスだ。

開場と同時に人がわっと集まる中、コロッケパンとビールで腹ごしらえし、臨戦態勢。松浦さんのDJの後、最初のアクトはミゲル・アトウッド・ファーガソン・アンサンブル。まるでペルシャ絨毯のように緻密で繊細で、隅々まで感覚の行き届いたジャズ。その次に来たのは、大本命、サン・ラ・アーケストラ! ジャイルスによるコンピは前から聴いていたのだけれど、彼らの本当の凄さはライブでなければ体感できないということを思い知らされた。まもなく92歳になるという御大マーシャル・アレンがお茶目で、でもカッコよすぎて、最高だった。音楽って、こんなにも自由なのか。

ジャイルスによる約1時間のDJ(これもカッコよかった……)で場内はさらに盛り上がり、僕はその間にもう一本ビールを補充。トリはSOIL & “PIMP” SESSIONSと日野皓正さんのコラボ。日野さん作曲の「くまモンブルース」最高(笑)。ラストの曲が「Loud Minority」だったのも粋なはからいだった。最後の松浦さんの挨拶、なかなかうまく言葉にできないでいたけれど、このイベントに注いでいた気持が伝わってきた。

「希望的観測」とかでは全然ないと思うので(笑)、来年、またぜひ。

トレーニング中

最近、ずっと忙しい状態が続いていて、朝早くから取材に出かけなければならない日も多い。そういう時は前日のうちにコンビニで翌朝の朝ごはんを買っておく。サンドイッチとか、おにぎりとか。だから近頃は、ほぼ毎日のように近所のコンビニに立ち寄っている。

そのコンビニ、しばらく前から急に、店内にいる店員さんがほぼ全員、外国人の若者たちに切り替わった。誰も彼もみな、胸に「トレーニング中(名前)」という名札をつけている。二つあるレジを両方ともトレーニング中の彼らが担当してるのだが、彼らを指導する立場の日本人のスタッフはどこにも見当たらない。思い切ったことをするというか、極端な切り替えだなあ、何か裏であったのだろうか、と僕は一人訝っていた。とはいえ、彼らトレーニング中の若者たちは、みんな丁寧な言葉遣いで、すごくがんばっているように見えた。

で、今日の夕方、そのコンビニに立ち寄ってみると、ひさしぶりにレジ打ちの店員さんがみんな日本人だった。しかし……何だろう。変な感じに場慣れしちゃってるというか、いろいろいい加減というか。妙にカッコつけた巻き舌っぽい口調、商品を扱ってるのに荒っぽい手つき、おつりの雑な渡し方。

この間のトレーニング中の外国人の子たちの方が、よっぽど丁寧だった。君ら、再トレーニングした方がいいよ。

知らない町へ

午後、中央線に乗って、西へ。八王子で横浜線に乗り換え、十日市場という駅で降りる。今まで聞いたことのない場所。今日はここにある大学で取材。

駅から取材先まで、バスに乗っていこうかと思ったが、グーグルマップを見ると歩けなくもなさそうだったので、てくてく歩く。学校帰りの子供や学生さんが多い。明るくて感じのいい雰囲気の住宅街や集合住宅。自然も割と残っていて、ゆるやかな空気が漂っている。こんな町があったのか、と歩いていて何だか楽しくなる。

取材はどうにかつつがなく終え、帰りはバスで駅へ。八王子までの電車は混んでて席に座れず、腹が減ったので、八王子で駅を出てラーメンを食べた。片道2時間近くの道程はさすがに遠い。今日の行き帰りで、来月の取材資料に買った新書を一冊、最初から最後まで読み終えてしまうほどだった。

来週明けにももう一回、まったく同じ道程の旅をすることになっている。

五年、そして今思うこと

午前中、市ヶ谷で取材。終わった後、午後は荻窪の雷鳥社へ。新刊「ラダックの風息[新装版]」の見本誌をチェックして、自分用に数冊受け取る。ようやくこの瞬間が来た。本を作る時、この瞬間は毎回感無量だけど、この本は、準備段階から費やした時間も労力も、注ぎ込んだ思いも桁違いだから、その分、喜びもひとしおだ。いい本に仕上がったと思う。

五年前の3月11日、あの震災が起こって、あまりにも非現実的で理不尽にも思える惨事が報じられ続けた日々。お金を寄付してみたりもしたけれど、本当の意味で何をすべきなのかと考えた僕は、「自分が世の中に対してできることを精一杯やる」という選択に行き着いた。僕の場合、それは本を作ることだった。その年の夏、僕は取材費用を自腹で立て替えてラダックに飛び、「ラダック ザンスカール トラベルガイド」を作るための取材に取り組んだ。

それから五年の間に、僕は「撮り・旅!」を含めて、自分の企画の本を3冊作ったことになる。編集者としては多いとは言えない。まして、その3冊が世の中で何かの役に立つともあまり思えない。存在しなければしないで、誰も何も気にしない程度の本でしかないのかもしれない。

でも、今の世の中で、みんながそれぞれの場所で自分にできることに精一杯取り組めば、たとえ一つひとつはささやかなものでしかなくても、何かが少しずつ良い方向に向くのでは、とも思うのだ。そうして精一杯生きることが、五年前に理不尽な形で立ち去っていかざるを得なかった人々に対しての敬意のようなものなのかもしれない、と僕は思う。

忘れないこと。ささやかでも、精一杯生きること。これからも続けていければと思う。

そして春が来た

今朝は早起きして、家から徒歩20分の場所にある税務署へ。確定申告を今日こそ終わらせねばならない。

開場してすぐの時間だったのに、申告会場にはすでに長蛇の列。幸い、すぐに列を離れて青色申告コーナーに誘導してもらえたので、そこまで待たされることはなかった。あの列でまともに待ち続けるのは本当に大変だろうな……。

一年前の申告の時の経験と、自宅でかなり周到に数字をチェックして整理しておいた甲斐あって、決算書などの書類はかなりスムーズに準備できた。よしよし、と思っていると、国民健康保険の支払証明書を持ってくるのをうっかり忘れていたのに気付く。ガッデム。係員さんに頭を下げ、家まで早足で往復して取ってくるはめに。

あたふたあたふた、どうにかこうにか、書類を全部提出し終えて、まだ長蛇の列が連なる税務署を出たのは、ほとんど正午前だった。近くのフレッシュネスでバーガーとコーヒーのおひるを食べ、半ば放心状態で、歩いて家に戻る。近所の家の庭では、木蓮の花がほころびはじめていた。