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「スタンリーのお弁当箱」

「スタンリーのお弁当箱」

昨日は、シネスイッチ銀座で公開中の「スタンリーのお弁当箱」を観に行った。今年に入って、すでに何度目かのインド映画鑑賞。まさかこんな日々が来るとは(笑)。

芝居っ気と茶目っ気で学校でも人気者のスタンリーは、なぜか学校にお弁当を持ってこない。昼休みになっても、みんなに嘘を言って外に出ては、水道の水を飲んでごまかしたりしている。見かねたクラスの友達は、スタンリーにお弁当を分けてあげるのだが、異様なまでに食いしん坊のヴァルマー先生が、それを見つけてひと悶着‥‥。

この作品は、毎週土曜日に学校で開催する映画のワークショップとして、デジタル一眼レフで撮影された映像を基に作られた。登場する子供たちは、最後の最後まで映画撮影だとは知らなかったそうで、キアロスタミの作品を思わせる自然で柔和な表情も、それで納得がいく。アモール・グプテ監督は、類まれな芸術の才能を持つディスクレシア(発達障害)の少年を主人公にしたアーミル・カーン監督・主演作「Taare Zameen Par」において、脚本などで深く関わった人だそうだ。その時の経験から、子供たちに負担をかけずに自然な表情を捉えるために、こういう撮影方法を選んだのだろう。

この作品の宣伝コピーや予告編などを見ると、子供たちがとにかくかわいくて、うまそうなインドのお弁当がたくさん出てくる、ほっこり系映画なのかというイメージを持つ人も多いと思う。そういう側面もあるにはあるが、それでは正当な評価にはならない。この作品には芯にぴしっと一本通った形で、確かなメッセージが込められている。杓子定規な学校教育、理不尽な貧富の差、子供に対する虐待や労働の強制。それはまぎれもなく、今のインドの社会に対する痛烈な批判だ。ハッピーとは言い切れないエンディングまで観終わると、グプテ監督の意図は最初からそこにあったのだとわかる。

スタンリーのような、あるいはもっと苛酷な環境に置かれている子供は、インドには数えきれないほどいる。この映画を観たら、映画には出てこないそんな子供たちのことにも思いを馳せてもらえたらと思う。

ばっさり断ち切る

昼、南大沢で取材。今週は三日で五人に取材するが、一人につき原稿を二本作らなければならないので、十本分の取材ということになる。なかなかきつい。

実はというか何というか、再来週明けには飛行機でデリーに飛ぶことになっているのだが、少なくとも今のところ、そうした実感というか高まりみたいなものは、まったくない。完全に今までの日々の生活のリズムにはまったまま、あくせくといろんなことに追われている。

そういう惰性みたいなものにのっかっている日々も、普段はそんなに悪くないと思うのだが、それをばっさり断ち切って旅に出てしまう時間もまた、僕にとってはすごく大切なものだと感じている。あの、ひとりぼっちの、心細い時間。そこから始まる何か。そういうインプットがなければ生み出せないものもあるから。

まあでも、とりあえず、目の前の取材、そして原稿だ。

過信という油断

午後、相模原で取材二件。どちらも先方が取材対応の準備をしてくださっていたので、やりやすかった。片道二時間近くかかる道程は疲れるけど、どうにかやり遂げる。

先日、タイ取材に加えてミャンマー取材の可能性を打診してきてくれた方から、具体的なスケジュール案が届く。これは‥‥かなりきつい。9月頭からほぼ一カ月半、行きっぱなし。最初からそれだけなら何とかなるが、今年はその前にインドくんだりに行っているので、全部引き受けると、体力的にかなり厳しくなる。あと、八月下旬には雑誌絡みの仕事が発生する可能性があるのだが、その作業に充てる時間もほとんどない。しばらく悩んだのだけれど、電話で先方とも相談した結果、今回はミャンマー取材はお断りして、タイ取材のみ引き受けることにした。

今回の仕事は、今までに引き受けたことのない調査取材だから、取材先と帰国後にどのくらいの労力と時間がかかるのか、読み切れない部分が多い。たぶん大丈夫だろう、と自分の力を過信して引き受けてしまうのは油断ではないかという思いも、どうしようかと迷っている時に頭をよぎった。まずは、確実に捌けるであろう範囲で請け負うのが、結局はお互いのためにもなる。守備範囲を広げるのは、要領をきっちりつかめてからでいい。

まあでも、行けるものなら、全部行きたかったけど(笑)。

下半期の展望

終日、部屋で仕事。今週は、打ち合わせや取材が割とたくさん入っているので、それらの準備など。

夕方、某社からメール。以前から今秋にタイ北部の調査取材を打診されていたのだが、それに加えて、ミャンマーでの調査取材も可能かという問い合わせ。これも入ると、七月中旬から八月中旬までインド、八月末から九月中旬までミャンマー、九月末から十月下旬までタイという、秋までほぼ出ずっぱりという状況になる。仕事をぬかりなくやり遂げるのはもちろんだが、体調を大きく崩したりしないように注意する必要もある。

まあ、まだどうなるかわからないが、気を引き締めて臨もう、今年の下半期。

マタルの味

実家から送られてきた野菜の中にグリーンピースが入っていたので、それを使って豆ごはんを作ることにした。

米をいつもより若干少なめにして、いつもの量の水を入れ、酒と塩を少し。ごはん鍋を火にかけて、沸騰してきたらグリーンピースを投入し、蓋をして弱火で炊き、蒸らせばできあがり。

グリーンピースはインドでは「マタル」と呼ばれていて、ジャガイモとグリーンピースのカレー(アルー・マタル)など、インド料理ではよく使われる野菜だ。インドの中でも一番上等なマタルは、スピティ産のものだと言われている。標高四千メートルに達する高地の村々で栽培されるマタルは、畑でもいでさやから取り出し、生のまま頬張っても、まるで果物のように甘い。去年の夏、スピティの村から村へと歩いて旅していた時、収穫に精を出す村人たちが、もぎたてのマタルをよく手づかみで分けてくれたっけ。

僕にとっては懐かしい、マタルの味。もうすぐ、またあそこで味わえるかな。