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エプロンを買う

ほぼ毎日、台所に立っているのに、今の今まで、エプロンを使ったことがなかった。だから、思い切って、買ってみた。自分専用のエプロン。

きっかけは、以前、西荻窪の広島風お好み焼きの名店、カンランに行った時のこと。店員さんたちが身につけていたオタフクソースのデニム製エプロンがとても良い感じで、ああいうのがあったらほしいなあ、と思っていたら、オタフクソースの公式オンラインショップで販売していたので、ぽちっと。

届いたものを身につけて使ってみると、なかなかいい。まず、デニムの風合いがとてもいいし、おなかのあたりにある左右のポケットにミトン(鍋つかみ)とかを突っ込んでおけるのも便利。胸にステンシルで入ってる「There is a smile around okonomiyaki, Borderless Happiness.」というコピーも、何だか笑える。

さて、食事の支度を始めるか、とこのエプロンを身につけると、それだけで何かのスイッチが入るような感じがする。家で原稿を書き始める前に、ペーパードリップでコーヒーをいれて、一口飲んだ時のような。インタビュー取材を始める前、筆記道具とICレコーダーを点検して、机上に並べた時のような。撮影の前に、カメラを首にかけ、指の腹でシャッターボタンやダイヤルの感触を確かめた時のような。

良い買い物だった。このエプロンとも、長い付き合いになるといいな、と思う。

イッツ・ア・スモール・ワールド

僕が台所で使っているキッチンタイマーは、かれこれ10年以上前に買ったものだ。電卓のような形をしていて、調理中でも指一本で時間を入力できるし、正確に時間を測れるので、ずっと気に入って使っていた。

タイマー音は何種類かの中から選べたようなのだが、僕は特に理由のないまま、ずっとデフォルトの「イッツ・ア・スモール・ワールド」にセットしていた。別に何の思い入れもなかったけれど、いつのまにかあの曲は、僕が自炊する時の一種のテーマソングみたいになっていた。

そのキッチンタイマーが、数日前から少しずつ変調をきたしはじめた。「イッツ・ア・スモール・ワールド」のメロディが微妙にピロリッと調子はずれになったり。で、今日の夜の調理中、カレーを煮る時間をセットしておいたら、「イッツ・ア・スモール・ワールド」が上に下にめちゃめちゃ調子はずれな感じで鳴りはじめ、しかも、いくらボタンを押しても音が止まらない。強烈にマッドネスなメロディがヒステリックに鳴り響き続ける。だめだ。完全に壊れた。ホラーだ。

あわてて裏蓋をこじ開け、電池を外すと、キッチンタイマーはようやく沈黙した。長い間、おつかれさん。新しいの、買ってこなくては……。

MacBook Proを買い替える

一昨日、新しいMacBook Proが届いた。16インチモニタを搭載した最新型で、10日ほど前に発売されたばかりのものだ。

アップルの製品を買う時、僕はたいてい様子見の期間を少し置くのだが、今回は発売後すぐにオンラインストアで注文した。というのも、これまで約6年間使ってきた2013年後期モデルのMacBook Proが、性能的にはまだいけるものの、今年の夏頃から内蔵バッテリーが劣化して膨張してしまい、筐体に歪みも出てきて、いつ故障してもおかしくないきわどい状態に陥っていたのだ。本の原稿を書いている真っ最中なので、毎日ヒヤヒヤしていたのだった。

新しいMacBook Proへのデータの移行作業や作業環境の整備には、何だかんだで結構手こずった。macOS Catalinaはリリース当初からバグだらけであまり評判がよくないのだが、僕の環境でもあれこれ困った現象を引き起こしてくれて(苦笑)、そのたびに検索して対処法を調べたりして、大変だった。でもまあ、ようやく、どうにか。

16インチMacBook Proの製品自体の出来は、すごくいい。サイズアップされたモニタはものすごく綺麗で見やすいし、スピーカーの音質もびっくりするほど向上している。ここ数年評判の悪かったバタフライ式キーボードは再びシザー式に戻されていて、タイプ時も快適。自分の仕事的には申し分のない改良だと思う。

……とはいえ、これを買うために思いがけない散財を強いられたので(泣)、その分を取り戻すべく、これからきりきり働きます。

「使いやすさ」の理由

最近あらためて気が付いたのだが、家の台所で使っている道具の中で、柳宗理さんがデザインした製品の割合が、かなり多い。やかん、片手鍋、包丁、レードル、ボウル、パンチングストレーナーなどなど。カトラリーを含めると、もっとある。

柳宗理さんデザインの台所道具は、見た目の不思議な美しさだけでなく、実際に使ってみた時に感じる「使いやすさ」が、他と比べても群を抜いているように思う(もちろん、プロの料理人の方から見れば、日々の現場での酷使に耐えるプロ仕様の調理器具の方が良いのだろうとは思うが)。調理の場面々々での扱いやすさ、頑丈さ、洗いやすさ、などなど……。たぶん、デザイナーのアイデアや持って生まれたセンスだけでは、そうした「使いやすさ」を実現することはできない。膨大な量の試行錯誤に裏打ちされた経験と知識がなければ、辿り着けない境地なのだろうと思う。

本や文章の「読みやすさ」にも、ある意味、似たようなところがあるかもしれない。パッと見で読みやすそうに思える文章は、ともすると、読み飛ばされてしまいやすい文章でもある。内容がぎゅっと詰まっていながらも、圧迫感を与えず、すっと読めて、伝えるべきことを伝えた上で、心に何かを残す。それが本当の意味での「読みやすさ」なのだと思うし、その境地に達するには、やはり、膨大な試行錯誤の末の経験が必要なのだろうとも思う。

そういう、本当の意味での良い文章を、書けたらいいなあ、と思うのだけれど……。難しいなあ(苦笑)

マキネッタで試行錯誤

相方の友人の方から、ペゼッティのマキネッタをいただいた。

マキネッタは、直火式のエスプレッソメーカー。イタリアではどこの家庭にもたいていあるものらしい。僕自身は自分でコーヒーをいれるようになってたぶん20年くらいになるが、もっぱらペーパードリップだったので、マキネッタではいったいどんなコーヒーをいれられるのか、興味津々だった。

マキネッタの構造はとても単純で、下のタンクに水を入れ、粉受けに細挽きのコーヒーを詰め、上半分をセットして直火にかける。すると、下で沸騰した水がコーヒーの粉を通過し、上半分にコーヒーが抽出されて溜まる。ペーパードリップやネルドリップに比べると、テクニックの類は何も必要ない。

とりあえず使ってみるかー、とほとんど下調べもせずに最初に試した時は、水が多すぎたのと、火加減が強すぎたのとで、ものの見事にコーヒーが噴きこぼれてしまった(苦笑)。調べてみると、水はタンクの横のバルブより下、火加減は弱火で、というのがマキネッタのセオリーらしい。それに従っていれてみると、2回目以降はおおむね良い感じのエスプレッソがいれられるようになった。水の量と粉の量、あとはコーヒー自体のチョイス(深煎りで細挽きがよさそう)で、ある程度の味の調整はできそうだ。

もちろん、高圧の蒸気でいれるエスプレッソマシンとは、クレマの有無など埋められない差があるのだが、マキネッタにはマキネッタの、手軽で素朴な味わいがある気がする。これからも仕事の合間に、楽しみながら使っていこうと思う。