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似合うかどうかを決めるのは

二十代から三十代にかけての頃、着る服といえば、黒、紺、グレーがほとんどだった気がする。何が自分に似合うかわからなくて、誰が着てもほぼ間違いのない、無難な色の服ばかり選んでいた。

今も、その三色の服の割合はかなり多いけれど、それ以外の色の服も、それなりに着るようになった。同じくらい無難なカーキやオリーブグリーンはもちろん、差し色に使いやすいTシャツでは、黄やオレンジ、赤、紫などもよく着る。そうした色が自分に似合うかどうか、人からどう見られているか、今ではまったく気にしない。気が向いた時にそれを着ると、少し気分が上がるから着ている。それ以上の理由はない。

周囲の人も、ほんの少し見慣れてくれば、その服がその人らしさなのだと、しぜんと感じるようになる。似合うかどうかを決めるのは、自分自身なのだと思う。

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パオロ・コニェッティ『狼の幸せ』読了。著者の出世作となった『帰れない山』が面白かったので、この本も楽しみにしていたのだが、二つの点で期待を裏切られた。一つは、タイトルや内容紹介から受ける印象に比べると、狼が物語に関わってくる割合がかなり物足りなかったこと。確かに、人の数ある生き方の一つのメタファーとして狼が描かれているのはわかるのだが、ほとんどが人間関係にまつわる物語で、狼自体は出てこなくても構わないほどのレベルだったので、ちょっと拍子抜けした。

もう一つは、都会での生活に疲れてモンテ・ローザの麓の村に逃れてきた作家の中年男性が、同じレストランで働くようになった十歳以上年下の女性と恋に落ちる……という展開が、どうにもしんどいなあ、と感じられてしまったこと。作家である主人公は、明らかに著者自身をモデルにして描いているとわかるので、なおさら。私小説の趣の濃い作品だし、実際にそういう経緯で恋仲になった女性がいたのかもしれないが、正直、あいたたた……と感じてしまった。まあ、自分も同じ物書きで中年のおっさんであるがゆえの、同属嫌悪なのかもしれないが。

もひとつ、眼鏡


前回に引き続き、また眼鏡の話。

先日、第6回斎藤茂太賞の授賞式で賞金をいただいたので、せっかくなので記念に何か買おうと思い、眼鏡を一つ、新調することにした。金子眼鏡店だと、今月は誕生月割引が適用されるというので、ちょうどいいかと思って。

去年の夏に金子眼鏡店で作ったセルロイド製フレームの眼鏡がとても気に入ったので、今回はそれと同じシリーズの型違い&色違いで。写真の上が去年作ったもので、下が今回のものになる。

できあがった眼鏡をかけてみると、太いフレームなのに顔にすんなりなじんで、全然無理なところがない。相方には「えっ、それ、新しいの? わからない。違和感なさすぎ」と言われたが、まあ、それはそれでいいか(笑)。

この二つはいわゆる「お出かけ用」で、日常生活ではレンズ込みで5000円くらいのを複数使い分けているのだが、いつの日か、また何かの機会に賞か何かをいただく機会があったら、記念にまた別の眼鏡を作ろうかな……いや、もうないか、そんな機会(苦笑)。

とりあえず、残りの賞金は、今後に備えて、貯金しておこう……。

サンダルの天寿

長年愛用してきたビルケンシュトックのサンダルが、ついに天寿を全うした。

昨日の昼、いつものようにサンダルをつっかけて、近所のパン屋さんに買い物に行ったところ、家に帰り着く直前に、サンダルのソールがパカパカしているのに気がついた。見ると、左右とも、ソールがはがれかけている。7年ほど前にソールをすべて貼り替えたのだが、その接着面からだろうか。最近の酷暑で、劣化に拍車がかかったのかもしれない。

接着し直せばまだ履けるかも、と思って吉祥寺のショップに持ち込んでみると、サンダル本体のコルク部分に亀裂が入っていて、再接着すること自体が難しい、と診断されてしまった。さすがに寿命でしょう、と。

ふりかえってみると、かれこれ15、6年(もしかするともっと)前から、年の半分以上、毎日履き続けてきたサンダル。残念だけど、天寿を全うしたと言えるくらいには愛用してあげられた、と思う。

ビルケンシュトックのサンダルは、数年前に買った街歩き用のスエード使いのものがもう一足あるので、そちらを引き続き愛用しつつ、ご近所散歩用には、気楽につっかけらる安めのものを何か探してみようと思う。

新しい眼鏡


1週間前に注文しておいた新しい眼鏡を、さっき受け取ってきた。

ここ何年かの間、眼鏡はいくつか作っていたのだが、家にいる時にかける用のとか、海外に行く時にかける用のとかを、5000円くらいで作ったものばかりだった。レンズ込みで数万円する眼鏡を作ったのは、たぶん10年ぶりくらいになる。

冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』を作っていた頃から「この本が完成したら眼鏡を新調しよう」と決めていた。その後、昨今の社会情勢もあって少し迷ったのだが、どのみちいつかは買うものだし、いろいろ合わせた割引もあるし、と思い直した次第。

今回は初めて、金子眼鏡店で作ってみることにした。選んだのは、金子眼鏡店で昔からの定番だという、太めのセルロイド製フレーム。ウェリントンと呼ばれるタイプに近いが、やや縦幅が狭めで、古風と言ってもいいくらいオーソドックスなデザイン。今回はずれ落ち防止に、鼻当ての部分を少し高く加工してもらった。

レンズを入れて完成した眼鏡を受け取り、鏡の前でかけてみると、自分でもびっくりするくらい、違和感がない。20年前から持ってた眼鏡みたいに馴染んでいる。以前は、もっとシャープなデザインのものとか、洒落っ気のあるデザインのものを選びがちだったのだが、今みたいにおっさんになると、こういう古風な眼鏡の方が馴染むようだ。

ともあれ、すっかり、気に入った。新しい眼鏡、大事に使っていこう。

MからLへ

近頃、服のサイズが、だんだん大きくなりつつある。

たとえば、ジーンズ。二十歳前後の頃のウエスト28インチとかは、もちろんとうの昔に無理なのだが、それでも十年くらい前までは余裕を持って穿けていた30インチのジーンズが、今ではぴったりというか、あまり余裕のないサイズ感になってしまった。最近は32インチくらいのを選んでいる。

下半身よりもやばいのが上半身で、昔は普通に着られていたシャツも、胸まわりが微妙にきつい。TシャツはMサイズだとピチピチになってしまうので、最近はLサイズを買うようになった。冠婚葬祭用に買って、しばらく着ていなかったワイシャツに至っては、ボタンを閉じてからフンッと胸を張ると、ボタンが全部ちぎれ飛びそうなくらいの小ささになってしまっていた。ひさしぶりに着てみた時、何の冗談かと思った。やれやれ。

日頃の自体重エクササイズのおかげか、腹回りがだぶついたりしてるわけではないのだが、それでも、歳を取るにつれて身体がおっさん的にサイズアップしていくのは、避けようがないのかもしれない。少なくとも、ぴったりサイズを着こなす若さと勇気は、もうとっくにない(笑)。