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「才能」がなくても

最近、「才能」とか「素質」などと呼ばれる能力について考えることがある。生まれながらに持ち合わせた、他の人より秀でた能力。確かに、そういう力があるに越したことはないなと思うし、ある人はうらやましいなと思う。

ただ‥‥あまり範囲を広げすぎると収拾がつかなくなるけど、少なくとも僕が属している「本づくり」の世界では、「才能」がなくても、その差を埋め合わせて、ちゃんとした本を作ることはできると思う。それは執筆や編集、写真、イラスト、デザインなど、各職種にも通じる。

世の中でどんな本が読まれているのか、その中で自分が好きなのはどんな本なのかを「観察」すること。なぜそれがいいと思うのか「分析」すること。その上で、自分はどんな本を作りたいのか、その本で何を伝えたいのかを「突き詰める」こと。その本を実現するために必要な人に「協力」してもらうこと。細部まで手を抜かず、丁寧に、徹底的に「作り込む」こと。

忘れてはならないのは、本は、単に売り上げや人気だけを争うために作るものではないということだ。きちんと作られた本には、それぞれ果たすべき役割があって、届けられるべき人がいる。作り手の「才能」を見せつけるために本はあるのではない。作り手が伝えたいと思っている大切なことを伝えるために、本はある。

編集者とデザイナー

本を作る時の編集者とデザイナーとのやりとりというのは、人それぞれ、いろんなやり方があると思う。僕自身は、デザイナーさんとやりとりする時、一応心がけていることがいくつかある。

一つ目は、あらかじめ、原稿素材の整理をきっちりやること。とても入りそうもない量の材料を狭い部分に押し込もうとしたり、逆にスッカスカな部分をほっぽらかしたりするのは問題だ。そもそもの発注段階で設定ミスがあると、そういう困ったことになる。

二つ目は、レイアウトラフをちゃんと描くこと。イラレでも手描きでも、そのページの役割と注意すべき点を把握してもらいやすいように。ただ、あまりにも細かく決め込みすぎてしまうと、実際に組んでみた時に困ることもあるので、多少の余裕というか、デザイン時に自由に調整してもらえる部分を残しておく。

三つ目は、できるだけちゃんと会って打ち合わせすること。メールや電話だけだと、伝わっていると思っていたことが微妙に行き違ってしまったりする。話し合いをするうちに、思いがけないアイデアが降ってくることもあるし。

制作全体を通しての心がけとしては、こちらの意向をわかりやすく伝えつつ、それをちょこっと超えてくるようなデザインのアイデアを出してもらえることを期待するというか、アイデアを出してもらいやすいような状況を用意するというか。そのためには、時には関係各所に対していろんな交渉をしなければならない場合もあるけれど、それもまた編集者の仕事だ。

すべては、いい本を作るために。