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おっさんの食卓

GW後半の四連休。相方が神戸に弾丸帰省している間、僕は〆切間近の長文の原稿を抱え、東京の自宅で一人プチ合宿の日々を送っていた。

日々の食事は家で作って食べていたのだが、おっさん一人だし、時間も予算もかけられないので、メニューもさもありなんというものばかりになった。スーパーで買ってきたカツオのたたきと日本酒。宝舞の生餃子を焼いたのとビール。もぐもぐのちょい飲みセットとジントニック。毎日の原稿の苦行の憂さ晴らしも兼ねてはいたが、それにしても、メニューのチョイスがめちゃめちゃおっさんっぽい。この一杯のために生きてるな感が半端ない。

いいんだ、うまかったし、それなりに楽しかったし、原稿もちゃんと納期に間に合わせたんだから……。

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ジャック・ロンドン『火を熾す』読了。ずっと前に相方が貸してくれたのを、本棚に挿したまま、読み終えたような気分になってしまっていた本。ジャック・ロンドンが短い生涯の間に遺した膨大な数の短編小説の中から、柴田元幸さんが選んだ九編が収録されている。冒頭の表題作は、極寒のユーコン準州でなすすべもなく凍え死んでいく男の一挙手一投足を描いた話で、他人事とはまったく思えず(苦笑)、相方が貸してくれた理由がわかる気がした。多作だった故か、作品によって出来にむらはあるが、総じてド直球でフルスイングの文体で、昔のアメリカのベースボールの試合を眺めているような気分になった。

マキネッタ世代交代

五年ほど前、相方の友人の方から結婚祝いにいただいた、ペゼッティのマキネッタ。手軽にエスプレッソをいれられるのですっかり気に入って、毎日のように愛用していた。ただ最近になって、おそらく耐熱シリコンのパッキンの劣化などによって、うまくコーヒーをいれられなくなってきていた。あまりメジャーな品番でもないようで、Webで検索して探しても、交換パーツを扱っている店が見当たらない。残念だが、棚の奥に引退してもらって、新しいマキネッタを手に入れることにした。

新たに選んだのは、ビアレッティのヴィーナスというマキネッタ。耐久性の高いステンレス製で、構造や仕組み、使い方は前のペゼッティのとまったく同じ。割とメジャーな品番のようで、スペアパーツの調達にも困らなさそうだ。今回はカッパーとシルバーのツートンカラーのものにしてみたのだが、届いた実物はなかなか良い佇まい。またしても、すっかり気に入ってしまった。

豆を挽いてペーパードリップで美味しくいれるコーヒーも好きだけど、マキネッタで気軽にさくっとエスプレッソをいれるのも楽しい。僕の仕事日は、コーヒーとエスプレッソに支えられている(笑)。

土曜と日曜

先週の土曜と日曜は、ひさしぶりに二日続けての完全な休日。最近、よみうりカルチャーでの講師の仕事があったりして、なかなか休めなかったのだ。

土曜は昼に代々木上原のhako galleryに出かけて、鮫島亜希子さんと谷口百代さんのインドのおべんとうイベントへ。ダッバーワーラーの仕事ぶりを追った写真展もよかったし、現地のレシピで作ったというターリーもおいしかった。夜はコノコネコノコでこれまたおいしいごはんをいただいて、すっかりはらぱんの一日。

日曜は、食材の買い出しに近所に出かけた以外は、ずっと家にいた。ラジオを聴いたり、本を読んだり、コーヒーをいれてフルーツケーキを食べたり、夕飯にベンガル風の魚と野菜のジョルを作ったり。ただそれだけだったのだけれど、何だかとても豊かな時間を過ごせたような気もする。

人生には、余裕が、休みが、必要だ。しかしまあ、今日からはまた働かねばである。

今年の進歩


今日の晩飯は、チキンビリヤニを炊いた。ふわ、ぱら、しみ、と、ちょうど良い具合に香り高く炊き上がったのを、はふはふと無我夢中で頬張って、きれいさっぱり、たいらげた。

自分でビリヤニを作るようになったのは、今年に入ってから。最初のうちは分量や各工程の火加減がいまいちわからなくて、失敗したこともあったのだが、五月頃にコツみたいなのを自分なりにつかんでからは、ほとんど失敗せず、安定した炊き上がりで作れるようになった。まあ、これも作る分量やメインの具材が変わると、またゼロから調整し直さなければいけないとは思うが。来年は、フィッシュビリヤニにも挑戦してみたいなあ。

冷静に考えてみると、自分の家で、食べたいと思った時に、炊きたてのビリヤニが好きなだけ食べられるのって、結構すごいことなのかもしれない。だって、普通、そんなに家で作る料理じゃないし(笑)。僕自身に関して、今年一番進歩したのは、「ビリヤニを作れるようになったこと」なのかも、と思う。

じゃあ、本業に関しては何も進歩してないのかと言われると……ある意味、その通りかも(苦笑)。来年は、仕事でも精進します。

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スタニスワフ・レム『ソラリス』読了。今までなぜか未読だった、SF小説の不朽の名作。初めのうちは、とんでもなく怖い展開だな、と思っていたのだが、読み進めるうちに、恐怖とか愛情とかでなく、人間の知識や理性、あらゆる概念を超越する理解不能な存在と対峙する物語なのだとわかってきた。今の時代に読んでも、まったく古びていないどころか、さらなる未来を指し示してさえいる。凄い小説だった。

ふわ、ぱら、しみ


ビリヤニは、うまく作ろうとすると、本当に難しい。

パッキ式と呼ばれる一般的な作り方の場合、まずグレービーを作り、バスマティ米を半炊きして、それから両方を合わせて炊き上げる。バスマティ米は銘柄によって炊き上がる時間にかなりばらつきがある。グレービーの水分量も、少なすぎればパサついたり焦げ付いたり、多すぎればベチャベチャになったりする。ちょっとした塩梅の違いで、出来上がりに大きな差が出てしまう。現に、この間作った時は、ものの見事に失敗して、ひどい出来になってしまい、めちゃめちゃ凹んだ。

今日は、うまくいった。自分でもびっくりするくらい、本当においしかった。米を頬張ると、ふわ、ぱら、しみ……と、夢のようなハーモニーを奏でる。自分にとっては、理想的なビリヤニだった。

今回の分量と調理時間はしっかり記録してあるので、次もまた、この、ふわ、ぱら、しみ、のビリヤニが味わえる。楽しみだなあ。いつ作ろうかな。