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一冊去って、また一冊

去年から作り続けていた『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』が、今週、無事に校了。『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』と同じ制作チームだったこともあって、編集作業自体はかつてないほどスムーズだったが、想定外のミスを見落としてしまいそうになった場面もあるにはあったので、うまく切り抜けられて、ほっとした。また一冊、愉しい本づくりの時間が終わってしまったのは、少し寂しくもあるけれど。

そんな余韻に浸る間もなく、秋頃に出す次の本の作業が、すでに始まっている。時間の猶予は、あまりない。来週明けには、ある程度の素材を揃えて提出せねば……。一冊去って、また一冊。

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ニコラス・シェイクスピア『ブルース・チャトウィン』読了。今年に入って、『4321』の次に就寝前の読書時間に少しずつ読んでいた、888ページの鈍器本。早逝によって半ば伝説と化している紀行作家チャトウィンの生涯が、膨大な量の証言と資料を基に克明に綴られている。美化もせず、貶めもせず、徹底して客観的な視点でチャトウィンの実像を詳らかにしていく、その一切の妥協のなさは、チャトウィン本人が少々気の毒に思えるほどだ。僕が死んだ後、伝記だけは勘弁してほしいと思った(苦笑)。とはいえ、この伝記を読んだ後に、あらためて『パタゴニア』『ソングライン』を読むと、また違った発見や面白さを感じられそうな気がする。

『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』

『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』
文・写真:山本高樹
価格:本体2200円+税
発行:雷鳥社
A5変形判 256ページ(カラー84ページ)
ISBN 978-4-8441-3813-6
配本:2025年4月23日

書き下ろしの長編紀行としては、『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』以来、5年ぶりとなる作品を、まもなく上梓します。タイトルは『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』。インド北部の辺境の地、スピティで、野生の雪豹の撮影に取り組んだ日々の記録です。

全世界でも8000頭に満たない数しかおらず、険しい山岳地帯に生息しているため目撃することすら困難なことから「幻の動物」とも呼ばれている、野生の大型肉食獣、雪豹。ふとしたきっかけと成り行きから、彼らの撮影に取り組むことになった僕は、厳寒期のスピティで生きる雪豹をはじめとする野生の動物たちや、彼らの傍で暮らすスピティの人々と、ひと冬をともに過ごしました。その日々の中で僕が目にしたのは、写真だけでは到底伝え切ることができないほど、稀有で生々しく、そしてかけがえのない光景でした。

標高4200メートルの極寒の高地で、巡り巡る命を、見つめ続けた日々の物語。一人でも多くの方のもとに届くことを願っています。

時間差同時進行

なんだかんだで、せわしない日々が続いている。

今春に刊行される予定の新刊その1は、初校を戻し終え、来週からは外部の校正者さんを交えての再校のチェック作業が始まる。印刷所に入稿するまでに、印刷で使う写真のデータや色見本も準備しなければならない。発売に合わせてのイベントや展示、フェア、ノベルティなどの準備もある。

新刊その1の作業が小康状態の隙間時間は、今秋に刊行される予定の新刊その2の作業。原稿はほぼ仕上がっていて、全体を通してのリライト作業に移っているが、推敲にはもう少し時間をかけたい。こちらも台割の策定や写真の準備(データだけでなく紙焼きも印刷原稿に使う)など、いろいろやらねばならないことがある。でも、残された時間はそれほどない……。

その他にも、今夏のラダックツアーの準備や、企業案件や大学案件の書き仕事などが入ってきていて、いろんなものが時間差で同時進行している状態。スケジュールやTO DOをうまく管理しないと、うっかり何かを忘れてしまいそうな気がする。用心せねば……。

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ポール・オースター『4321』読了。毎晩、寝る前に少しずつ読み進めて、途中二度ほどフヅクエでも集中して読んだけれど、800ページ、88万字もあるこの大作、じっくり読んでいくと、やはり時間がかかった……。

ささやかな偶然の連鎖によって枝分かれしていく、アーチボルト・ファーガソンの四つの人生。どれもありえたかもしれないそれらの人生は、濃密な筆致で描き出される1960年代のアメリカ社会を舞台に、滔々と語られてゆく。この本の主人公は、四つのバージョンのファーガソンであると同時に、今も数多くの宿痾を抱えるアメリカという国の現実そのものでもあったのかなと思う。

寝る前に本を読む

今年に入ってから、毎晩、寝る前に30分から1時間ほど、本を読む時間を作ることにした。

きっかけは、去年の暮れに相方から、ポール・オースターの『4321』をもらったこと。晩年のオースター渾身の大長編なので楽しみにしていたのだが、この本、異様にでかくて重い。A5判ハードカバー、800ページ、重さ約1.1キロ(キッチンスケールだと計りきれなくて、体重計で計った)。僕は普段、本は鞄に入れて持ち歩いて、電車の中や喫茶店で読むことが多いのだが、この鈍器本を持ち歩くのはさすがにしんどい。それで、持ち歩き用の本は別に用意して、『4321』を家で読み進める時間を日課として設けてみよう、と考えた次第。

実際に毎晩、決まった時間に本を読む習慣を作ってみると、思いのほか、いい感じ。デスクライトの下で分厚い本を開く時間が来るのが、待ち遠しくなる。今読んでいるのが、圧倒的な物語力を持つ『4321』だからというのもあるが、別の大作系の本でも愉しくなりそうだ。岩波文庫版のメルヴィルの『白鯨』とか、ブルース・チャトウィンの伝記とか、家にある未読の本を手に取る時間にしていこうかな、と思う。

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ハン・ガン『すべての、白いものたちの』読了。ポーランドの首都ワルシャワに滞在しはじめた「私」と、もしかしたら「私」の代わりに生きていたかもしれない「彼女」のまなざしで、「白いもの」にまつわる断章が、選び抜かれた一語々々で綴られていく。清冽で、穏やかで、哀しく、美しい本。昨年のノーベル文学賞の受賞以来、日本の書店にもハン・ガン作品のコーナーが作られていて、売れ行きも好調のようなのだが、この『すべての、白いものたちの』を読めば、誰もが納得すると思う。

書き納め

年末年始は、やはりというか、予告通りというか、原稿を書き続けていた。

大晦日の前日に書いたのは、連載の最終回に掲載する予定の、3000字少々の短いエッセイだった。連載を開始した当初から、この内容の文章を最終回に用意することは、自分の中で決めていた。良い出来かどうかは、読者の方々に委ねるしかないが、ある意味、とても僕らしい……僕にしか書けない文章になったとは思う。

一年の最後に、自分で納得できる文章を書き上げることができて、少しほっとした。

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シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』読了。2024年に自分が読んだ本の中で、どれがよかったかな……と考えていた頃、年の瀬にふと読みはじめたこの本が、大外から一気にまくっていった感がある。少しずつ読むつもりが、ぐいぐい惹き込まれて、大晦日の夜に読み切ってしまった。サリンジャーの作品群と比較して語る人が多いようで、それはもちろんわかるのだが、個人的には同じ米国人女性作家のカーソン・マッカラーズを思い起こさせる読後感だった。みずみずしく、奔放で、時に可笑しく、時に哀しく……。本当に美しい、珠玉のような文章で、日本語訳の丁寧さ、誠実さも素晴らしかった。