日帰りで徳島へ

今日は徳島での取材。朝、吉祥寺から直行バスで羽田空港へ。このバス、何気に便利。取材道具やカメラを担いだままラッシュアワーでもみくちゃにされずにすんだので、助かった。

チェックインから搭乗までの手続きは、バーコード読み取りでサクサク処理されるので楽だった。日本航空を使うのは初めてだったのだが、キャビンアテンダントさんたちが軒並み超美人だったのにびっくりした。やさしいし、感じがいいし‥‥日本ではあれが当たり前なのか? まあ、僕の中での比較対象はエアインディアだから(笑)、余計にそう思うのかもしれない。

徳島の第一印象は‥‥ひさびさに、僕の故郷の岡山と肩を並べる田舎に来たな、という感じ(笑)。何にもないなあ、人も少ないなあ、と思う間もなく、一両編成の電車で取材場所まで移動。取材は滞りなく進み‥‥というわけにはいかなくて、先方の都合で想定外の事態が続発。だが、トータルで三時間以上粘って、どうにかこうにか材料を揃えた。しかし、これをまとめるのは、まじで力業だな‥‥。

そんなこんなで、ろくに観光する時間もないまま、最終のフライトで羽田にとんぼ返り。さすがに、つ、疲れた‥‥。明日はラダック写真展会場でのトークイベント。早くスイッチを切り替えねば。

文学賞

俳優の水嶋ヒロが書いた小説が、ポプラ社小説大賞を受賞したという。このニュースでちょっと驚いたのは、賞金が二千万円という浮世離れした文学賞が、日本に存在していたということだ。

二千万円といえば、単行本を十万部かそこら売らないと回収できない金額だと思うが、それを新人作家育成のためにポンと払ってしまうとは、太っ腹な出版社だな‥‥と思っていたら、大賞を受賞したのは、第一回と今回だけ。水嶋ヒロは今回の賞金を辞退したそうだし、来年から賞金は十分の一の二百万円になるという(それでも芥川賞や直木賞の倍の金額だが)。あれこれ憶測が飛び交うのも無理はないけど、まあ、ポプラ社はポプラ社でいろいろ大変なのだろう。

個人的には、文学賞でハクをつけてデビューなんてことはせずに、普通に幻冬舎あたりに持ち込んで本を出してしまった方がよかったんじゃないかと思う。誰が書いた作品であろうと、結局、それに対する本当の評価を下すのは読者なのだし、たとえそこそこの部数しか売れなかったとしても、読んだ人の心にしっかりと残る作品であれば、それはそれで価値のあることだから。

そういう自分も、遠い昔、ノンフィクションの文学賞に応募したことがあったなあ。あの頃は‥‥本っっ当にヘタクソだった(苦笑)。どうにかしていっぱしの物書きになりたくて、でも何のチャンスも見つけられなくて、藁をもすがる思いで、あがいていたっけ。

普通の人の声

来週から、ひさびさにインタビューの仕事が立て続けに入っている。「ラダックの風息」とかを書いてはいるけれど、僕のライターとしての主戦場はインタビューだったので、ある意味、一番慣れ親しんだ作業だ。

同業者の中には、有名なタレントやアーティスト、文化人などにインタビューすることに仕事のやりがいを感じている人もいるが、僕はどちらかというと、普通の人にインタビューすることに面白味を感じる。今はまだ有名ではないけれど、興味深いことに取り組んでいる人。そういう人に出会うと、まるで金脈を掘り当てたような、ほくほくした気分になる。等身大の目線から語られた言葉には揺るぎのない実感がこもっていて、本当に魅力的だ。

これからライターになろうと考えている奇特な方は、有名人にインタビューすることを目指すより、普通の人の声に耳を傾けることから始めた方がいいのではないか、と個人的には思う。まあ、逆に僕の場合、「AKB48にインタビューしてくれ」と発注されても、うろたえて右往左往するだけだが(笑)。

募金の使い道

昨日の夜にリトスタに行った時、ラダック写真展の開催期間中に置かせてもらっている、洪水被害復興支援の義援金の募金箱をチェックすると、予想以上にたくさんのお金が入っていて、びっくりした。募金してくださった方々、本当にありがとうございます。

NGOジュレーラダックが実施しているこの義援金に関しては、先日、その具体的な使途についての計画が発表された。親を亡くした孤児たちの支援をはじめ、ツァンパを作るためのランタック(水車)や、壊れた家屋、橋などを修復するための支援が予定されている。義援金集めを呼びかけている側としても、しっかりと先を見越した使い道が決まったので、よかったなあと思う。

ラダックでは、一部の支援団体が被災者に現金を直接渡したりしていると聞く。神戸の震災を経験した知人に聞くと、被災者の方々の心理としても、やっぱり現金はノドから手が出るほど欲しいのだという。だが、しかし‥‥。見舞金と割り切るのならいいのかもしれないが、それが本当に復興に繋がるのかというと、疑問に思わざるを得ない。特に、ラダックのように苛酷な自然環境の場所では、現金だけではどうにもならないことも多いから、なおさらだ。互いの団体が連絡を取り合って、最適な使い道を見つける努力をすべきだと思うのだが‥‥。何にせよ、難しい問題ではある。

新しいパダワン

夜、ひさびさに晩酌をしにリトスタへ行く。お店には、昨日から新しいパダワン、つまり見習いスタッフの女の子が加わっていた。緊張した面持ちながらも、一つひとつの仕事——コップをそっと机に置いたり、おしぼりが入っていた袋を回収したり、といったことを慎重にこなしていた。

ミヤザキ店長によると、彼女は「リトルスターレストランのつくりかた。」を読んで、このお店で働こうと思い立って上京してきたのだという。まだリトスタ以外の仕事も決まっていなければ、住む場所すら探している最中というくらいだから、相当な肝の据わりようというか、覚悟というか。そもそも、本を読んで興味を持ったからといって、それでスタッフとして採用されるとは限らないわけだし。

もちろん、彼女が上京してリトスタで働こうと決めたのには、ほかにいくつもの理由があるのだろう。でも、自分が書いた本が他の人の人生に入り込んで、その人の背中をポンと押しているのかと思うと、何だか不思議な気分だ。と同時に、身の引き締まる思いもする。本作りの仕事では、けっして手を抜いたりできないな、と。

新しいパダワンリトスタになじんでいけるかどうかはまだわからないけれど、あのお店で働く日々は、きっと彼女にとってかけがえのない経験になると思う。少なくとも、時給250万円でドミノ・ピザで働くよりは。