浮き沈み

昼、電車に乗って、ゲートシティ大崎で開催された奥華子のフリーライブに行く。彼女のライブを観るのはひさしぶりだったが、やっぱり生歌はいい。「届く」ものが全然違う気がする。特に、去年からずっと続いている全国ツアーで歌い込まれている「初恋」という曲の演奏は素晴らしかった。ラストの曲で、観客たちに歌と手拍子を預けたまま、会場中をターッと走り回っていたのにも笑ったけど。

いい気分のまま三鷹まで戻ってきたものの、夕方からは歯医者。今日は治療ではなく、歯石除去とクリーニング。ちゅいーん、と甲高い音を立てる機械で歯を擦られ続け、別に痛くはないものの、すっかり意気消沈(苦笑)。来週、もう一回これをやらなければならない‥‥。

夜は気分を取り直してリトスタへ。通常のディナータイムに来たのはひさびさ。はま子さん入魂のいわしの梅しそ巻き揚げなどなど、ビールと一緒においしくいただく。下がっていたテンションが、だいぶ持ち直した。今日は浮き沈みの多い日だ(笑)。

見えないゴール

午後、赤坂で打ち合わせ。先月下旬に僕がプレゼンした本の企画について、担当になっていただいた編集者さんと話し合う。彼が社内の新刊会議でこの本の企画を提案して、トップの承認が得られれば、正式に取材と執筆に取りかかることができる。

「‥‥この本を、僕たちが作りたい形で承認してもらうにはどうすればいいのかを考えましょう!」

編集者さんにそう言ってもらえると、本当にありがたい。いい意味での共犯関係が結べたような気がする(笑)。

これから一生懸命努力しても、この本を必ず作れるようになるとはかぎらない。もしかすると、ボツになるかもしれない。見えないゴールに向かって全力で突っ走るのは、かなりの覚悟がいる。それが、この仕事の一番きついところであり、一番面白いところでもある。

どっちにしろ、何もしなければ、何も始まらない。やるしかないか。

自分の原点

夕方、渋谷へ。映画美学校で開催される「マイキー&ニッキー」という映画の試写会イベントに行く。まさか、2011年になって、ジョン・カサヴェテスの姿を日本の映画館のスクリーンでまた観ることができるとは‥‥。今日は彼の命日でもある。

上映前には、映画プロデューサーの松田広子さんによるトークショーが行われた。松田さんは当時、雑誌「Switch」の編集者として、当時日本ではほとんど知られていなかったカサヴェテス(59歳の若さでこの世を去ったばかりだった)を丸々一冊取り上げた特集号を編纂した方だ。トーク中は、松田さんが米国でピーター・フォークやサム・ショウ、ベン・ギャザラ、そしてジーナ・ローランズを取材で訪ねた時に撮影されていたビデオが上映された。それを観ていると、懐かしさとともに、いつのまにか忘れかけていた熱い気持がこみ上げてきた。

今から二十年近く前、僕は松田さんたちが在籍していた「Switch」の編集部で、使い走りのアルバイトをしていたことがある。まだ右も左もわからない青二才だった僕が、初めて本気で本作りの仕事を目指そうと決意したのは、このカサヴェテス特集号をはじめとする数々の素晴らしい記事を作り出した、松田さんたちの仕事ぶりを目の当たりにしたからだった。真のプロフェッショナルの仕事とは、ありったけの情熱と愛情を注ぎ込むものなのだということを、僕はそこで学んだ。今も手元にあるこの一冊は、僕にとっての原点であり、目標であり、ある意味で未だ越えられない壁なのだと思う。我ながら、最初からずいぶん高いハードルを設定してしまったものだ(笑)。

イベントが終わった後、たぶん十数年ぶりに松田さんにお会いして、ご挨拶をした。‥‥めっちゃ緊張した(苦笑)。松田さんは二年前に僕が勝手にお送りしたラダックの本のことを憶えてくださっていて、素直に嬉しかった。会場から外に出ても、熱い気持はまだ引かなくて、身体がカッカと火照っていた。渋谷駅まで、ダーッと一気に走っていきたいくらいだった。

今まで自分がやってきたことは、間違っていなかった。でも、やるべきこと、目指すべきものは、まだ遥か先にある。

消臭スプレー

昼、近所のフレッシュネスバーガーで、豆腐バーガーとコーヒーをおひるに食べていた時のこと。

隣の席に、昼休み中らしい二人組の女性が坐っていた。二人は煙草をふかしながらしばらく話を続けていたが、職場に戻る時間になったのか、席を立つ支度をしはじめた。で、びっくりしたのは、煙草の臭いを消すための消臭スプレーのようなものを取り出して、その場で、プシューッ! とそれぞれの髪に噴射したこと。周囲に広がる、人工的なお花畑の臭い。迷惑千万なデオドラント効果で、僕が飲んでいたコーヒーの香りはだいなしにされてしまった。まさか、飲食店の中でスプレーを噴射するなんて‥‥。常識以前の問題だと思うけど。

もし、それをしたら、周囲の人はどう感じるか。自分がしたいことをする前に人の気持を思いやる想像力が欠落した人が、最近とみに多いような気がする。

Aside

一カ月前に登録していたAmazon.co.jpの著者ページが、ようやく正式に承認された。僕の簡単なプロフィールと主な著作の一覧が表示されるページだ。

この著者ページは、情報の登録後、Amazon側が出版社に問い合わせて本物の著者かどうかを確認してから、正式に承認される。通常は一週間くらいで承認されるらしいが、今回やたらと時間がかかったのは、Amazon側からの問い合わせが出版社にちゃんと届いていなかったためらしい。双方に確認して、ようやく承認に漕ぎ着けた次第。

まあ、あればあったで、もしかすると役に立つかもしれないページなので、とりあえず。