三陸産の新わかめ

昼、市ヶ谷へ。今作っている本のデザインの打ち合わせ。確かな腕を持つプロフェッショナルの方々と組んで仕事ができるというのは、本当に愉しい。仕事を通じて、何だか元気をもらえる気がする。

打ち合わせが終わった後、市ヶ谷から新宿までぶらぶら歩いてみることにした。市ヶ谷の自衛隊駐屯地の前を通りがかると、何台ものジープが出たり入ったりしていて、ものものしい雰囲気だった。がんばって、と遠くから念を送る。

震災後に初めて来た新宿は、思っていたよりも人が多かったが、それでもちょっとおとなしい雰囲気。日が暮れてきても、ネオンやショーウインドウは明るくならない。これはこれで、いいんじゃないかな。外国の街なんて、もっと真っ暗だし。

夜はリトスタで飲み。たけのこと塩昆布のチャーハンやいちごのババロアなどをいただく。どれもおいしかったけど、一番感動したのは、新たけのこと新わかめのあっさり煮。この煮物に使われている新わかめは、先日震災に見舞われた三陸産のもの。今あるストックが尽きたら、しばらくは入荷のメドが立たないという。柔らかくて、優しくて、心にしみる味。この新わかめを届けてくれた方々のことを思いながら、ありがたくいただいた。ごちそうさまでした。

不公平

何だか最近、停電のことばかり話題にしている気がするが、今日になって東京電力からこんな通知が来た。

「国などの要請を受け、国民の基本的生活レベルの維持に大きな影響を与える鉄道用変電所と周辺地域を計画停電の対象外とする。これに伴い、今後、武蔵野市および周辺エリアの第2、第3グループも、当面、対象外とする」

要するに、僕が住んでいる武蔵野市は全域が計画停電区域の対象外となったらしい。‥‥もやもやする。何か、もやもやする。まさか、今の総理大臣の選挙区だから、とかいう理由じゃあるまいな(苦笑)。

そもそも、先週から計画停電が始まって以来、僕の家のある地域で実際に停電したのは、一、二回程度。あとはほとんど、直前になって中止されていた。停電しないならそれでいい、とは安易に言えない。だって、友人が住んでいる地域では、ほとんど毎日のように停電しているところもあるのだから。

ちょっとの停電くらい、喜んで受け入れるから、不公平はなくそうよ、ほんとに。

開き直り

昼、国立へ。同じ停電グループの友人たちと、夏の家という和食屋さんのお座敷で会食。停電で仕事ができない時間に会おうと集まったのだ。結局、今日は停電にはならなかったのだが。

ひさびさに友人たちと話をしていて感じたのは、今回の一連の災害で、みんな少なからず不安と焦燥を抱えているのだな、ということ。ストレスで体調を崩して、一時帰省していた人もいた(それはそれで、全然ありだとは思うけど)。それに比べて、自分ときたら‥‥開き直りすぎてやしないか? と思わないでもない(苦笑)。

自己分析すると、僕自身は別に度胸があるわけではなく、間違いなくヘタレの部類に属する人間なのだが、ここ数年、インドの山奥で突拍子もない経験を重ねてきたせいで、いつのまにか、自分の中で危険信号が発動する基準がえらく高いところに設定されてしまったらしい。「去年の夏は洪水で死にかけたけど、今の東京は別に‥‥」という感じで、東京で自分が置かれている状況が危険だとは、あんまり思えないのだ。

逃げたくても逃げられない人が被災地には大勢いるのに、東京でおたおたしても始まらない。開き直っていこう。

自分にできる仕事

計画停電が始まってからというもの、「今日は何時から停電になるんだろ?」と調べてから一日の行動計画を練っている。時間が制限されているせいか、普段より集中力が増して、妙に仕事がはかどる(苦笑)。今、自分が担当している分の執筆は、あらかたメドがついた感じ。このまま編集作業もうまく進んで、予定通りのスケジュールで校了できればいいのだが。

‥‥わかっている。今、自分がこうして本を作ったところで、被災地にいる人々の飢えや寒さを癒すどころか、不安を紛らすことさえしてあげられない。本当にくやしい。それでもいつか、何かの形で、ほんの幾許かでも支えにしてもらえたら、と思わずにいられない。今は、目の前にある仕事を、一つひとつ、やっていくしかない。

震災の後遺症で、日本中が内向き後ろ向きになって、出版業界もしばらくは厳しくなるだろう。でも、いつか、みんなが再び立ち上がって前を向こうとした時、手に取って読んでもらえる本があるように、今から新しい本を作る準備をしていく。それが、今の自分にできる仕事。

疎開について思うこと

近頃、巷では「疎開」という言葉がよく使われている。依然予断を許さない状況が続く福島第一原発や、未だに時折発生する余震、計画停電や物資の不足などに不安を感じて、東京から西日本に疎開する人が増えているのだという。

個人的には、今の東京の状況は、あわてて逃げ出さなければならないほどの非常事態とはどうしても思えないのだが、疎開をすること自体は、別に周囲に引け目を感じる行為でも何でもないと思う。実際に危険かどうかは別として、東京から離れることで精神的な安定を得られるのであれば、そうした方がいい。特に、幼い子供を家族に持つ方は、子供の心のケアのためにも、考慮していい選択肢だと思う。

でも、そうして疎開をする人には、絶対に忘れてほしくないことがある。こうしている今も、地震に見舞われた被災地の避難所には、逃げたくても逃げられない状況で、飢えや寒さに耐えながら、それでも必死に生きようとしている人たちがいるということを。

僕は東京で暮らしながら、今の自分にできることをやっていく。