まだ春じゃない

仕事に追われてあくせくしてるうちに、いつのまにか、ずいぶん暖かくなってきたような気がする。寝床に湯たんぽを仕込まなくても眠れるようになったし、台所で洗い物をする時にお湯を使わなくても平気になった。仕事机の下に置いているオイルヒーターも、つけている時間がだいぶ短くなった。

今日は渋谷にウォン・カーウァイの「欲望の翼」を観に行ったのだが、気の早いことにもう半袖で歩いている人も見かけた。映画を観た後にオープン・エアのビアバーで一杯ひっかけたりもしたが、このくらいの気温だと、外で飲むビールもずいぶんうまく感じる。

でも、まだ春じゃない。少なくとも僕にとっては。火曜日からの1泊2日の長野出張、予想最高気温は、1日目が5℃、2日目が7℃。普通に厳寒期装備が必要だ。まだ春じゃない。

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タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる」「詩集 小さなユリと」読了。どちらも、本をつくる仕事を選んだ自分の人生に、勇気を与えてくれる本だった。

本を読む時間

今年は、毎日少しずつでも本を読む時間を作るという目標を掲げていて、ラオス取材などで飛び飛びになりつつもまだ続けている。それであらためて思うのは、本の価値というのは、人がそれを読んでいる時間そのものにあるのだなあ、ということ。

たとえば、これからテクノロジーが妙な方向に発展して、人間の頭に端子をくっつけてデータを送信すれば、どんな分厚い本の内容も一瞬で理解できるようになったとする。プルーストの「失われた時を求めて」だろうが、トルストイの「戦争と平和」だろうが、一瞬に。そうなったとしたら……ものすごくつまらないだろうな、と思う。一枚ずつページをめくり、行と行の間を行きつ戻りつしながら、一文々々、味わっていく。その時間こそが、本ならではの価値なのだから。

さて。今夜もずいぶん遅い時間だけど、ちょっとだけでも、ページをめくることにしよう。

写真展「Thailand 6 P.M.」


3月20日(火)から5月27日(日)まで、東京・三鷹のリトルスターレストランで、夕刻のタイをテーマにした写真展を開催します。僕個人としては初めての、ラダック以外の場所をテーマにした写真展です。2年前の写真展の時と違って、会場でのティタイム営業がなくなり、ランチタイムとディナータイムのみの営業となっているので、ご来場の際はご注意ください。

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山本高樹 写真展「Thailand 6 P.M.」

太陽が西に傾き、昼間のうだるような暑さが消えて、暮れ色の空に夜のとばりが下りてくる頃。タイの街は、その素顔を僕たちに見せてくれる。ささやかな電球の灯りの下で交わされる笑顔と、にぎわいと、ちょっぴりの寂しさと。写真家・山本高樹が5度にわたる取材で撮影した作品を展示する写真展。

会期 2018年3月20日(火)〜5月27日(日)
会場 リトルスターレストラン
東京都三鷹市下連雀3-33-6 三京ユニオンビル3F
TEL 0422-45-3331 http://www.little-star.ws/
時間 12:00〜14:30、18:00〜23:00
定休 月曜日(臨時休業や貸切の日もあるため、同店のサイトをご確認ください)
料金 無料(会場が飲食店なので、オーダーをお願い致します)

※写真展会場では「ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]」(未収録エピソード小冊子&ポストカード2種付き)と「ラダック ザンスカール スピティ 北インドのリトル・チベット[増補改訂版]」(3月22日(木)以降、レー未収録情報小冊子&ポストカード付き)の販売も行います。

忙殺の季節

新しい本の編集作業はほぼ終わったけれど、それと入れ替わるようにして、大学案件の繁忙期が始まりつつある。

二月も取材がちょこちょこ入ってはいたのだが、三月は、来週の一泊二日の長野出張(汗)を皮切りに、再来週は栃木へ日帰り。都内での取材もみっしり入ってきそうだ。毎年恒例のこととはいえ、しんどい季節である。

今年は本の発売に合わせて複数のイベントや展示が立て続けにあるし(まあそれは自分で決めたことだけど)、Web連載の記事の書き溜め作業もあるし、ラオス取材の成果もまとめなければならない。去年よりは確実に、体力的に厳しくなりそう。何とか乗り切らなければ……。

……とりあえず、来週、長野に行ったら、何かうまいもの食べて、憂さ晴らししてこよう(笑)。

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イザベラ・バードの「日本奥地紀行」読了。初めのうちは「ずいぶんあけすけな物言いのおばさんだなあ」みたいな印象だったのだが、読み進めるうちにだんだん面白くなってきて、特に北海道に上陸してアイヌの村を訪れた時の描写にはぐいぐい引き込まれた。今から140年前に日本でこういう旅をした外国人女性がいたというのは、すごいことだと思う。同時に、ほんの140年前まで、日本はこんなありさまだったのか……と、理屈ではわかっていても結構衝撃的だった。おすすめの一冊。

近づく幕切れ

週末から今日にかけては、ほぼずっと、今作っている本の色校をチェックしていた。印刷会社さんが頑張ってくれたおかげで、現時点でも色の出方は、かなりいい。本紙で刷る時もこの調子で出せれば、初版よりずっとレベルアップした仕上がりになると思う。見本誌を手に取るのが今から楽しみだ。

……と同時に、ちょっと寂しくもある(苦笑)。本を作っている間は、やっぱり、とても楽しいから。自分の頭の中で思い描いているもの、伝えたいこと、それらをあらんかぎりの工夫を凝らして、紙の束の中に封じ込めていく作業。作っている間、自分の手の内には、無限に思えるほどの可能性の選択肢があるような気さえしてくる。

でも、まあ、幕切れは必ずやってくる。本ができあがった時、自分の選択が正しかったか、それとも単なる独りよがりだったか、答えはおのずとわかるはず。これだけ何冊も作ってきていても、いまだに自信は持てないけれど。

まあいいや。幕切れの時間まで、本づくりを精一杯、楽しもう。