三鷹で暮らすようになって、かれこれ八年くらいになる。このブログの文中にも、近所の行きつけの店の名前が時々出てくるが、最近の読者の中には「それ、どんな店?」と思う方もいるかもしれない。そこで、三鷹にある僕の行きつけの店を、ここでまとめて紹介しようと思う。
Category: Review
旅音「インドホリック」
ラダックから日本に帰ってきた時、旅音の新刊「インドホリック」が、僕のいない間に発売されていたことを知った。しかも、「ラダックの風息」と同じ出版社から。そこから不思議な縁がつながって、11月3日に開催するトークイベントのゲストとしてお招きすることになったのだが、それはまた別の話。
旅音とは鎌倉在住のご夫婦で、ご主人の林澄里さんが写真とWebを、奥さんの加奈子さんが文章を担当されている。中南米を一年かけて旅した日々を描いた前作「中南米スイッチ」もそうだったが、この「インドホリック」も、瀟酒でとても美しい本だ。鮮やかな色彩のインドの情景を、みずみずしい感性で切り取った写真の数々。インド各地を約半年かけて旅した日々を綴る文章は、感動した出来事があった時も、困ったトラブルに遭遇した時も、きちんと抑制が効いていて、ニュートラルな視線に好感が持てる。
旅行記というと、自分の行為に陶酔してしまったり、妙にカッコつけてしまったり、あるいは面白おかしくウケを狙ったりしてしまいがちだが、旅音による二冊の本は、本当に自然体で、いい案配のバランス感覚でまとめられている。それはたぶん、彼ら自身が、旅というものに対する自分たちなりのスタンスを確立しているからだろう。
長い旅を経験した人の中には、疲弊して擦り切れてしまったり、何かが変質してしまう人も少なからずいる。でも、旅音の二人は、異国に対するフレッシュな好奇心と敬意を抱きながら、実にのびのびと旅を楽しんでいる。それでいて、自分たちらしさも忘れていない。「旅の達人」といった類の人たちとは違う。「旅を楽しむことがうまい人たち」なのだと思う。そして、そういう人たちが作った本というのは、読んでいても気分がいい。
できれば、せめてあと1折(16ページ)はページ数に余裕を持たせて、その分、見開きや1ページ断ち落としでズバッとレイアウトされた写真をもっと見たかった‥‥というのは、贅沢すぎる注文か。フルカラーの本でこれ以上ページ数を増やすのは、採算面でかなり厳しくなるのはわかっているけれど。
BRIEFING DAY TRIPPER/S
休みの日に出歩く時のショルダーバッグを、ずっと前から探していた。
これまで使っていたポーターのフリースタイルの小型ショルダーは、財布とiPhoneとキーホルダーを入れるには十分なものの、それ以外のものはほとんど入らない。かといって、仕事の時に使っているForca Shoulder Packは、身軽に出歩くにはちょっと大きい。財布などの他にGR DIGITALや文庫本を放り込めるような、手頃なサイズのショルダーバッグはないものか‥‥。そうして探し続けているうちに、最近になって見つけたのが、ブリーフィングのDAY TRIPPER/Sだった。
ブリーフィングは、ミルスペック(米国の軍用物資の規格)に準拠した、ミリタリーテイストのゴツいデザインのバッグを作っているブランドだが、このDAY TRIPPER/Sは、ころっとした形の微笑ましいデザイン。大きすぎず小さすぎずの絶妙なサイジングで、底にかけてマチが広く取ってあり、意外とたくさんモノが入る。財布とiPhoneと文庫本の他に、カメラならオリンパスのPENくらいは楽々入るだろうし、ついでにトーツの折り畳み傘も突っ込める。欲を言えば、バッグの内側に明るい色の内張がされていたら、中のモノを探しやすくて、もっと便利だったと思うが。
僕にとっては、願ったり叶ったりのバッグ。長く愛用していければと思う。
奥華子「うたかた」
僕が日本を留守にしている間に、奥華子の新しいアルバム「うたかた」が発売されていた。インディーズ時代の作品を除くと、彼女の五枚目のフルアルバムということになる。
帰国した翌日に新宿のタワレコで買ってきて、最初に聴いた時の正直な印象は、「あれっ? こんなもん?」という感じ。今年の春にスマッシュヒットを記録した「初恋」も収録されているものの、キャッチーでインパクトのある曲はあまり多くなく、どちらかというと控えめで、後ろ向きな印象の曲が中心になっている。アレンジもそれに合わせて抑制を効かせている感じで、それがちょっと拍子抜けするような第一印象に繋がったのだろう。
でも、二度目を聴き、三度目を聴き、iPhoneに曲を入れて電車での移動中に聴き‥‥と、くりかえし聴いているうちに、次第にこの「うたかた」の魅力がじんわりと伝わってくるようになった。何度くりかえしても聴き飽きることのないメロディ。それまで何気なく聴き流していたのに、ふいに心にするっと入り込んでくる歌詞。たとえは悪いかもしれないが、噛めば噛むほど旨味が出てくる、スルメのようなアルバム。特に、終盤に収録されている「元気でいてね」は、自身のライブに足を運んでくれるお客さんのことを思って作った曲だと思うのだが、作り手の素直な気持がこもっていて、いい曲だなと思う。