Category: Essay

仕事のスピード

自分のような職業に限ったことではないけれど、仕事において、スピードというのはすごく大切な要素だと思う。

僕の場合、原稿を書く速度が人より格段に速いわけではないし、編集や校正の作業速度にしても人並みかそれ以下だ。そういう作業をむやみにスピードアップすれば、肝心の精度が落ちてしまう。僕は作業そのもののスピードではなく、それをどのタイミングで開始し、どういう段取りで進めれば集中して取り組めて、その上で余裕を持ってフィニッシュできるかを考えている。

電話やメールなどの連絡業務も、スピードが大切だと思う。メールはなるべく即レスするように心がけているし、メールだけのやりとりだと余計な時間がかかりそうな時はすぐ電話を入れる。あと、日々の雑務‥‥請求書を作成したり、スケジュールを整理したりといった作業は、手を付けられる時にかたっぱしからやっつけておく。そうすれば、大事な作業に使える時間が増える。

ただ、自分一人がそれなりにテキパキ動いても、取引先の事情で作業が遅れることはよくある。やむを得ない事情があるなら仕方ないが、単に相手のルーズな対応が原因だった時には、正直いらっとくる時もある(苦笑)。大事なのだ、スピードは。よりよい本を作るためには。

編集者がつける道筋

一口に編集者といっても、いろんなタイプの人がいる。たとえば書籍の編集者なら、著者の企画や原稿をそのまま活かす形で仕上げる人もいれば、著者と侃々諤々やりあって書き直しを重ねながら仕上げていく人もいる。

僕の場合、自分が著者の立場の時に、書き上げた原稿の内容自体に編集者からダメ出しされたことはほとんどない。何でかなと思い返してみると、それはたぶん、「ダメ出しされての書き直し」という無駄な手戻りが起きないように、編集者が各段階に至るまでの道筋をわかりやすく示してくれていたからだと思う。

「どういう本にするか」という完成形のイメージを決め、全体の構成案を丁寧に詰めていって、試し書きをして文体やトーンを調整しながら、少しずつ書き上げていく。その各段階で編集者に細かく確認をしてもらって、イメージを共有するのが、無駄な手戻りを防ぐためには大切だと思う。もちろん、草稿が書き上がってからも、第二稿、第三稿と書き直しをしていく場合もあるが、それは「ダメ出しされての書き直し」ではなく、明らかに目的があって、さらに精度を上げていくための書き直しだ(込み入った表現をわかりやすくする、など)。無駄な手戻りをくりかえしていては、そういう精度の向上を検討する余裕もなくしてしまう。

著者と侃々諤々やりあうタイプの編集者を否定するつもりはないが、個人的には、そういう風になってしまうのは、著者と編集者の間で完成形のイメージをうまく共有できていないからではないか、と思う。著者が完成形のイメージに近づくための作業をスムーズに進められる道筋をつけてあげるのが、僕が理想とする編集者の役割。自分自身が編集者の立場の場合も、そうありたいと思う。‥‥まあ、それでもいろんな事情が絡んでくるので、なかなか一筋縄ではいかないのだけれど(苦笑)。

28mmの初心

去年から時々行く山歩きの写真は、リコーのGR DIGITAL IVで撮っている。このカメラで写真を撮ることは、僕にいろんなことを思い出させてくれる。

二十代の頃、初めて自分で買ったカメラらしいカメラは、リコーのGR1というフィルムカメラ。長い旅に出る時、ショルダーバッグにはいつもGR1が入っていた。このカメラが搭載していたレンズは、今のデジタルのGRと同様、28mmの広角単焦点レンズ。他のコンパクトカメラと同じような撮り方では、全然思い通りに撮れない。でも、28mmというレンズの距離感に慣れてコツを覚えてくると、僕はその面白さにどんどん惹かれていった。

被写体が遠ければ、足で近づく。「いいな」と感じた場所から、さらに近づく。視線の高さにも気を配る‥‥一度カメラを構えたら、そのまま即座にシャッターが切れるように。GR DIGITAL IVで撮っていると、GR1で覚えた28mmの距離感とコツを、あらためておさらいできる気がする。

一眼レフとズームレンズの方が便利で高性能だとしても、身体の中に基準となる距離感を感じておくことは、写真ではとても大切だと思う。28mmは、僕にとっての初心だ。

独りよがりの境界線

読み手のことを何も考えずに、独りよがりに書きたいことを書き連ねた文章というのは、往々にして鼻持ちならないものになる、といったことは世間でよく言われる。読み手の目線をイメージして、みんなが読みたいと思うことを書きましょう、みたいに。

まあ、それが明らかに間違ってるとは思わないのだが、例外は多々あるというか。というのも、世の中で名作と賞賛されている本は、独りよがりに書かれたものがとてつもない形で昇華された結果だったりするから。

文章を書きたい、本を作りたいという最初の動機は、往々にして、マグマのようにドロドロと熱い、独りよがりがこじれにこじれた思いだったりする。要は、そのこじれにこじれた独りよがりを、全員とは言わないまでも、ある程度の人に受け入れてもらえるだけのクオリティの作品にまで高められるかどうか、なのだろう。

独りよがりが、単なる独りよがりでなくなるかどうかの境界線。うまく言えないけど、自分もそれを越える術を身につける努力はしなければならないなと思う。

フリーライターを目指す人への8つのアドバイス

今の時代に、文章を書くことを生業にして生きていきたいという人がどのくらいいるのかわからないけれど、それでもフリーライターを目指すという人に向けて、いくつかアドバイスめいたことを書いてみたいと思う。ちなみに、小説家や作家を目指す人にはあまり参考にならないかもしれないので、あしからず。

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