Category: Diary

本は旅を

冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』の読者の方々や、周囲の友人・知人たちから、読後の感想を寄せていただけるようになった。

ちょっと意外だったのは、かなり多くの人が異口同音に「少しずつゆっくり読もうと思ってたけど、読みはじめたら、一気に読んでしまった」と言ってくれていること。そんな風に読者を引き込む種類の本だとは全然思ってなかったので、びっくりしたし、でも嬉しかった。自分が子供の頃、読みはじめた冒険小説が面白くて、止まらなくなって、寝床でこっそり、ほとんど徹夜して読んでしまった時のことを思い出した。

自分が書いた本を読んでいた時間を、「楽しい時間だった」「幸せな時間だった」と言ってもらえることほど、書き手にとって嬉しい感想はない。僕の方こそ、読んでくださって、ありがとうございました、と、一人ひとりに伝えたい。

本は旅を、連れてきてくれるのだなあ、と思う。

次への助走

緊急事態宣言の下、特定警戒都道府県に指定されている東京で過ごす、ゴールデンウイーク。そんな状況下で僕は何をしているかと言うと、ほぼ毎日、原稿を書いていたりする。

先月初めに、とある企画をとある出版社に提案したのだが、その企画が、具体的に社内で検討していただけることになった。企画を検討の俎上に載せる際、サンプルとなる原稿がいくつかあればという話になったので、連休中はそのサンプル用の原稿を書いている、というわけだ。

ほんの1週間ほど前に新刊を出したばかりで、世の中は国内も国外も何だかよくわからない無茶苦茶な状況なのに、すぐにまたこうして新しいプロジェクトに取り組めるというのは、ありがたいことだなと思う。企画が正式に通れば、しばらくの間は、また自宅でひたすら原稿を書き続けることになる。書くための素材はすべて手元にあるから、あらためて取材に出かける必要はない。今は、ライターも写真家もどこにも取材に行けない状況だから、そういう意味でもこの企画がうまくいくといいな、と思っている。

次の本への助走は、もう始まっている。今度も、うまく跳べますように。

疑心暗鬼

三日ほど前、銀行から一通のメールが届いた。デビットカード関係のキャンペーンで、5000円分のアマゾンギフト券プレゼントに、僕が当選したのだという。

そのメールを目にしてから、たっぷり5分間ほど、僕は訝しんだ。いやいや、今のこのご時世に、そんなうまい話、あるわけないだろ。スパムメールだろこれ。怪しいリンクをうっかりクリックしたら、個人情報根こそぎ持っていかれるやつじゃないか。

でも、そのメールには、怪しげなリンクが張られているわけでもなく、コピペして使うギフト券番号が書かれていただけだった。それでも「いや、怪しいんちゃうか」とさんざん訝しんで、ようやくアマゾンのアカウントにコピペして入力してみたら、本当に5000円分、チャージされた。本物だった。疑って、すまんかった。

まあでも、逆に言えば、プレゼント当選のメールだけで、これだけ疑心暗鬼にならなきゃならないほど、今の世の中が、どこかしらボタンを掛け違えてしまってるということなのかもしれない。やれやれである。

いただいた5000円分のギフト券は、そのうち、ちょっといいウイスキーでも買う時の足しにさせてもらおうと思う。

息を潜めて

自分が作った本の発売日は、いつもなら都心に繰り出して、書店の店頭で自分の本が平積みにされている様子を柱の影から眺めて、ハンカチでそっと嬉し涙を拭う(笑)、というのがルーティンになっている。

ただ、今回の『冬の旅』に関しては、時節柄、都心では休業している書店が多いし、自分としても、その程度の用事で電車に乗って都心に出かけるのは憚られる。なので、恒例の書店巡りは、世の中がもう一段階落ち着いてからで、という心づもりでいる。

書店も取次も出版社も、売りたい本はあるのに、店を開けられない、というのは、今まで想定もしていなかった状況だと思う。まあでも、今は息を潜めて、目に見えない嵐が過ぎ去るのを、じっと待つしかない。大丈夫。本は変わらず、読者を待っていてくれる。

そして本になった


先週末、『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』の見本誌が届いた。

自分の作った本の見本誌を初めて手にする時は、毎回、感無量の気分になるのだが、今回の本を受け取った時は、いつにも増して、何とも言いようのないほど、いろんな感情が渦巻いた。何年も前から練りに練っていた取材計画。一年前の、あの旅の日々。それをどうにかして言葉に刻み、写真とともに形にして、そして……本になった。

本というものは、文字や図版をインクで印刷して形を整えた、単なる紙の束でしかないのかもしれない。引っ張れば破れるし、水に濡れたらふやけるし、火をつけたら燃えてしまうし。でも、少なくとも僕にとって、この本は、本当に、大切な本だ。これから長い時間をかけて、一人でも多くの人のもとに、この本が届くように願っている。