Category: Diary

もぬけの殻

午前中のうちに近所のスーパーで買い物をすませ、昼少し前から、都心に出かける。散歩をしながら考えごと(原稿の次のパートのプロットの整理)をしたかったので。

新宿まで電車で出て、紀伊國屋書店に寄った後、そこからてくてく歩いて、代々木、原宿、渋谷、代官山、恵比寿まで。今日はとても天気がよくて、日なたは少し暑いくらいだったけど、初秋らしい爽やかな風が吹いていて、歩いていても気持ちよかった。最後にひさしぶりに寄った恵比寿のヴェルデで飲んだ深煎りブレンドのうまかったこと。

それにしても今日、都心を歩いていてひしひしと感じたのは、閉店してもぬけの殻になったままの店の、異様な多さ。ほんと、唖然とするくらい。いつも何十人も行列ができていたタピオカミルクティーの店とか、十年以上前から営業していた人気ラーメン店とか、角の一等地にあった大きなショーウインドーのアパレルショップとか。どこもかしこもつぶれてるような印象だった。

渋谷界隈では今もあちこちで大規模な再開発工事が続けられているけど、既存のテナントがこの惨状なのに、今から新しいハコモノを作ったところで、どれくらいの企業が出店できる余力を残しているだろうか。直近のコロナ禍の状況を考え合わせると、あと半年ほど経って年度末にさしかかる頃には、もっとひどいことになっているかもしれない。

今の与党の政治家たちに、世間のこの状況は、どのくらい見えているのだろう。たぶん、何も見えてないのだろうな。

それは果たして趣味なのか

僕には、いわゆる趣味というものがない。もし今、何かの必要にかられて、昔ながらの履歴書用紙で自分の履歴書を作れと言われたら、「趣味・特技」の欄で、はたと行き詰まってしまうだろう。

でも、よくよく考えてみると、世の中年男性が趣味としてハマりそうなことは、かなりの数、僕もやってしまっていることに気づく。たとえば、ハンドドリップでいれるコーヒーとか。自分で作るスパイスカレーとか。自重トレーニングとか。カメラとか。あと、旅行とか。

ただ、それらが自分にとっての趣味なのか、と言われると、明らかに違う気がする。コーヒーやカレーは日常の家事の一部と化していて、特に趣味的にお金や時間を投じているわけではないし。自重トレーニングは、重い撮影機材を担ぐ海外取材に耐えられる身体を維持するためだし。カメラと旅行は言うまでもなく、僕の仕事の一部だし。

なので、ほかの人にとっては趣味になりそうなことでも、僕の場合は日常の家事や習慣、あるいは仕事という属性になってしまっている。それでもまあ、コーヒーもカレーも自重トレもカメラも旅も、やってる時はどれもそれなりに面白いし、楽しい。なので、趣味というわけではないけれど、日常と人生の一部分としては、僕にとって大切で、必要な存在なのだと思う。

オチも何もないけれど、まあ、そんなことをつらつらと考えた次第。

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小林真樹著『食べ歩くインド 北・東編/南・西編』読了。インド全土及びその周辺国の食文化を、現地を旅して食べ歩いて得た膨大な経験をもとに2冊にまとめた労作。読み進めていくと、各地域の風習や宗教にもとづく食の特徴と、ほかの地域の食との相関関係がしぜんと見えてくる。各地の有名レストランや知る人ぞ知る穴場などを紹介するガイドブックとしての側面もあるが、僕は文化人類学的な食文化考察の本としての面白さを感じた。同じく小林さんの書かれた『日本の中のインド亜大陸食紀行』と併せて読めば、意外と身近にある日本とインド亜大陸各国の食文化を通じた関わりについても理解が深まると思う。

食パンと男の子

少し前の週末、近所のパン屋さんへ、食パンを買いに行った時のこと。

そこは週末の3日間だけ営業するスタイルのお店で、開店時間の正午から、店の外には7、8人の行列ができていた。僕の前には、お父さんとお母さんと男の子と女の子の4人家族が並んでいた。たぶん、家でのおひるごはんに、惣菜パンや菓子パンを何個か買って帰るつもりだったのだろう。

「ねえ、何のパンにするの?」と、お母さんが男の子に訊く。

「えーっとね、食パン」
「……食パン?」
「ぼく、食パンがいい。食パンが食べたい」

見るからに困惑してるお母さんを残し、お父さんは男の子と女の子を連れて、近所のコンビニにジュースを買いに行った。で、そのうちそのお母さんの番が来て、いくつか惣菜パンと菓子パンを注文して、エコバッグに受け取っている時、コンビニから3人が戻ってきた。

「ねえママ、食パンは? 食パン買ってくれた? 食パン入ってる? ぼく、食パン食べたいんだー!」

生返事をしながら、店の前を離れるお母さん。まあ、そりゃそうだ。その子一人のためだけに、食パン1斤買い足すわけにはいかないだろうし。

しかしまあ、何であんなに食パンが好きになったんだろう。きっと将来、オトコマエになるね(笑)。

航路を決める

来年出すことになった新しい本の制作に、本格的に取りかかっている。とはいえ、原稿はまだ1文字も書いていない。

今取り組んでいるのは、本の各部分のプロット作り。全体のおおよその構成を決めてから、各部分で書こうとしている内容やアイデア、キーワードを、箇条書きのメモのような形で書き出していく。細部を詰めていきつつ、全体的なバランスも都度見直して、より良い形になるように調整していく。地味だけど、妥協の許されない、とても大事な作業だ。

一冊の本を書くのは、小さな船で大海原に漕ぎ出すようなものだ。何も考えずに漕ぎ続けても、目的地には辿り着けない。思わぬ潮に流されて、そのうち力尽きてしまう。漕ぎ出す前に必要なのは、海図を広げて、航路を決めること。何を目印に進むか。期間内に辿り着けるか。そのために何が必要になるか。今取り組んでいるのは、その段階だ。

本というものは、企画と内容を固めた段階で4割、プロットを固めた段階で6割、出来上がっていると思う。実際に書く作業は(それはそれでしんどいが)残り4割のうち2割で、最後の2割が編集と校正。なので、はやる気持ちを抑えつつ、まずはプロットという航路をしっかり見定めようと思う。

パンクな理髪店

1カ月半ぶりくらいに、三鷹にある行きつけの理髪店で、散髪。まだ暑いので、短めに刈り上げてもらう。

店内には、僕の前に一人、後に一人、それぞれ若いお兄さんがいた。店の人が「今日はどうします?」と僕の前の番のお兄さんに聞くと、「モヒカンで!」と歯切れよく答えた。そのお兄さんの髪は、オーダー通り、立ち上がり加減が短めのモヒカンに仕上げられた。

で、僕の後にいたお兄さんが席について、「今日はどうします?」と聞かれると、これまた歯切れよく「スキンヘッドで!」。店の人は、そのお兄さんの頭をウイーンときれいに剃り上げはじめた。

リーゼントやパンチパーマにする人が多めの店だとは思っていたが、最近はパンクな路線に変わったのだろうか。僕も、イナズマ模様の刈り上げにしてもらえばよかったかな。