Category: Diary

ほんのつかの間

今週は、ほんのつかの間ではあるけれど、ちょっとひと息つけそうな状況になった。

八月下旬にインドから帰国して以来、九月は新刊『旅は旨くて、時々苦い』の発売に合わせてのトークイベントやラジオ出演が立て続けにあった。加えて、よみうりカルチャーでのラダック講座も担当していたし、BE-PALのサイトでの短期連載の準備や、まだ表に出せない仕事も色々入っていて……本当に休む暇がなかった。特に、人前に出る類の仕事がいつになくたくさんあったので、絶対にコロナに罹患できない、罹ってしまったらその後の予定が全部吹っ飛んで、関係者の方々に大迷惑をかけてしまう……というプレッシャーがきつかった。

そんなこんなのあれこれもどうにか切り抜け、先週の原稿執筆ぼっち合宿が功を奏して、一番大変だった原稿もどうにか提出できるメドがついた。来週半ばの打ち合わせの後からは、また次の本の作業に着手せねばだけど。とりあえず、ひと息つける時はしっかり休んでおこうと思う。それが、ほんのつかの間だとしても。

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牟田都子『文にあたる』読了。穏やかな言葉で綴られているけれど、「気骨」のある本だなと感じた。牟田さんの(そして世の校正者の方々の)仕事に対する真摯さに接して、本づくりに携わる者の一人として、あらためて身の引き締まる思いがした。僕自身、執筆だけでなく、雑誌や書籍の編集もしていたので、この本を読み進めるうち、過去に自分がやらかしたあれやこれやがフラッシュバックしてきて、時々胃のあたりが重くなった(苦笑)。同じような思いをした同業の方々、きっと多いはず……。

原稿執筆ぼっち合宿 in 安曇野


三泊四日で、一人で安曇野に行ってきた。滞在の目的は、割と重要でまとまった量の原稿を書くため。レジャー要素完全排除の、原稿執筆ぼっち合宿。

二年前に『インドの奥のヒマラヤへ ラダックを旅した十年間』を書いていた時は、湯河原の温泉旅館の原稿執筆パックを利用したが、今回は安曇野にある両親が建てた小さな家での滞在。車の免許を持ってない僕でも何日か過ごせるように、今年の春、ネット通販で買った自転車を安曇野の家に届けてもらっておいたので、それを活用する形にした。

食糧は、西荻の自宅からレトルトのカレーとパックのごはんを二食分持参したほかは、現地のコンビニ(地味に遠い)まで自転車で行って調達。ほとんどインスタント食品になってしまったが、それはそれで普段とは違う非日常な感じで、ちょっと愉しかった。とはいえ、主目的は原稿の執筆。普段の生活で衣食住に割いている時間やリソースを、執筆に全振りして、朝から晩まで机に向かって、うーんうーんと唸りながら原稿に取り組んだ。集中したおかげで、どうにか当初設定していたノルマは達成できたと思う。

とりあえず、今回である程度やれることはわかったので、執筆作業の規模や内容、タイミングによっては、また安曇野でぼっち合宿を張るかもしれない。まあ、真冬とかには無理かもしれないけど。

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カーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』読了。アメリカ南部の小さな町で暮らす12歳の少女の、ゆらゆらと揺れ動く心の裡が、繊細な筆致で丹念に綴られていく。時に奇天烈で、時に理不尽で、時には触れただけで崩れそうなほど脆くて。それは、思春期特有の心理として安易に一般化できるようなものではなく、もっと根源的な自己と他者の関わりあるいは断絶を探ろうとしていた、マッカラーズ自身の苦悩だったのかもしれない。

平松謙三『黒猫ノロと世界を旅した20年』読了。去年、20歳という天寿を全うして虹の橋を渡ったノロ。彼を子猫の頃から知っていた身としては、何とも言葉にしようのない感慨を覚えた。もし20年前、ノロが拾われていなければ、平松さんの人生は今とは相当違ったものになっていただろうし、僕自身の人生にも、何かしらの影響はあったかもしれない、と。あらためて、ノロ、おつかれさま。

大船での一日

先週の土曜は、ポルベニールブックストアでの『旅は旨くて、時々苦い』刊行記念トークイベントに出演するため、大船へ。午前中のうちに家を出て、湘南新宿ラインで移動し、昼過ぎに大船に着いた。長丁場に備えての腹ごしらえは、サバの一味焼き定食。脂の乗ったサバで、美味しかった。

午後から夕方まで、ポルベニールブックストアに在店して、写真展示や新刊の内容をお客さんに説明したり、本を購入された方へのサイン対応などをしていた。人数はそこまで多くなかったが、一人ひとりの本の平均購入冊数がすごくて、びっくりした。持ち切れるの?と心配になったくらい。お店の売上に少しは貢献できたのかもしれない。

夜からのトークイベントは、旅音の林澄里さんとのひさびさの掛け合いで、とても愉しかった。ノープランでフリーダムな感じでしゃべり倒してしまったが、林さんにうまく受け止めていただけて、つつがなく終えることができたと思う。本当に感謝しかない。

これで、九月の大きなイベントで残っているのは、今週末土曜のよみうりカルチャーの公開講座の二回目だけになった。本業の書き仕事の方もそろそろペースアップせねばだし、いろいろ整えながら進んでいこうと思う。

ラジオの生放送

一昨日は、J-WAVEの番組「GOOD NEIGHBORS」への生出演のため、昼頃に六本木へ。スタッフの人に案内されながら、エレベーターで、六本木ヒルズのはるか階上にあるスタジオへ。5分前に控え室からブースに移動し、大きなマイクの前に座ると、やがて出番が始まった。

今まで何度かラジオに出演させてもらってきたが、生放送は初めての経験(だったことに、後になって気付いた)。特にテンパったりもせず、大きなへまもやらかさずに済んだのは、ナビゲーターのクリス智子さんが自然で気さくなトークでリードしてくださったからだと思う。本当に、大船に乗せていただいてる感がハンパなかった……。

どうにか無事に出番を終えた後、六本木のブルーボトルコーヒーでニューオリンズを飲みつつ、本を読んで休憩。夜は、六本木で一人で飲んできていいよという許可をもらったので、ひさしぶりにブリュードッグ六本木に行って、フィッシュアンドチップスを肴にIPAを2パイント飲み干した。なんだかんだで、ほっとした。

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李娟『アルタイの片隅で』読了。中国、アルタイの辺境で、李娟が母や妹と一緒に営んでいた雑貨店。厳しい自然の中で流れていく日々のさまざまな出来事が、軽やかでみずみずしい筆致で綴られていく。遊牧民の冬の暮らしに密着した『冬牧場』も素晴らしかったが、この本もしみじみ良い……。この本には収録しきれなかった短篇が原書にはまだ数多く含まれているそうなので、続刊が出ることに期待。

人前に出る

昨日は、よみうりカルチャー大手町スクールで、ラダックとザンスカールについての公開講座の第一回目。会場とオンラインの両方で、大勢の方々が参加してくださった。会場で販売した本も、ちょっとびっくりするくらいたくさん売れた(仕入見込みが甘かった……)。

こうしたイベントで、人前に直接出たのは本当にひさしぶり。去年の春に、下北沢で竹沢うるまさんと登壇したトークイベント以来だろうか。かといって、特にテンパったりはしなかったのだが、言葉選びがちょっと雑だったというか、一文の終わりまでちゃんと整理しきれてなかったというか、口がうまく回ってなかったところもちょいちょい自分で感じたので、そこは反省すべきかなと思う。

この間の月曜はラジオの収録だったし、明日はラジオの生放送だし、週末はトークイベント、来週末は公開講座の第二回目。慣れない仕事がえんえんと続く。自分は人前に出てカッコつけてしゃべるより、一人きりで机に向かって原稿を書いたり、誰もいない原野で写真を撮ったりする方が、性に合ってるのかな、とあらためて思う。

がんばろ。それしかない。