以前から気になっていたものの、映画館で観る機会を逸してしまった「アーティスト」を、Apple TVでようやく観ることができた。第84回アカデミー賞で作品賞をはじめ五部門を制したこの映画、3D映像やCG処理が当たり前のこの時代に、なんとモノクロームの(ほぼ)サイレント映画である。だが、それがいい。そのスタイルでしか描けない、それでこそ描けるテーマを持った映画だから。
20世紀初頭、サイレント映画のスターだったジョージは、アーティストとしての自分の流儀にこだわるあまり、トーキー映画の台頭に乗り遅れ、若く溌剌とした女優のペピーと入れ替わるように落ちぶれていく。はたして彼らは‥‥というストーリー。物語としては、悪人は誰も出てこないシンプルなおとぎ話そのものだが、本当に細かいところまで、作り手のサイレント映画に対する愛情と畏敬の念が込められているのが、観てるだけで伝わってくる。きっと僕が観たことのない古典映画へのオマージュが、そこらじゅうに散りばめられているに違いない。それを見分けられないのが、ちょっと悔しくもある。
うまいなあ。本当にうまい。ぐうの音も出ないくらい、いい映画だ。