カンヌ国際映画祭にパキスタン映画として初めて出品され、「ある視点」審査員賞とクィア・パルム賞を獲得した、サーイム・サーディク監督の映画「ジョイランド わたしの願い」。その衝撃的な内容から、パキスタン国内ではいったん上映禁止措置が取られたが、多くの人々の支援によりその措置は解除。ただ、映画の舞台となった大都市ラホールのあるパンジャーブ州(パキスタン側)では、いまだに上映が禁止されているという。
パキスタンの、ある一家についての物語。失業中の身ながら、家事全般や姪っ子たちの世話をかいがいしくこなす一家の次男、ハイダル。妻のムムターズは、メイクアップアーティストの仕事に日々充実感を感じている。車椅子での生活を強いられながらも家父長制特有の厳格さを保ち続ける父と、その厳格さをそっくり受け継いだ長男のサリーム。サリームの妻のヌチは、4人も子供を生みながらも男児に恵まれない。ハイダルが成人向けの劇場で、ヒジュラのダンサー、ビバのバックダンサーとして密かに働くようになったことから、それぞれの望む居場所に、次第にひずみが生じはじめる……。
つらい映画だった。優しくて、鋭くて、繊細で、美しくて……でも、どうしようもなく悲しい。本当の意味では誰も悪くないのに、家父長制や偏見や差別といった社会の呪いにがんじがらめに囚われて、居場所を奪い取られていく。こうしたことが起こりうるのは、パキスタンのようなイスラームの国に限らない。日本でも、どこの国の社会にも、同じような呪いは存在する。
これは、覚悟を決めて、きちんと見届けておくべき映画だと思う。