「落下の王国」


二十年近く前から、ラダックのパンゴン・ツォをはじめ、世界各地にある鮮烈な風景の数々を舞台に撮影された「落下の王国」という映画がある、という話は聞いていた。当時は日本にいなかったし、その後も目にする機会はなかったのだが、最近になって、公開当時はカットされていたシーンを追加された4Kデジタルリマスター完全版が上映されはじめた。動員は予想以上に好調で、早々と興収1億円を突破したという。僕も、池袋の映画館でBESTIA上映される回を観に行ったのだが、平日の午後だったのに、ほぼ満席だった。

舞台は二十世紀初頭、米国のとある病院。オレンジの収穫中に木から落ちて腕を骨折した移民の少女、アレクサンドリアは、映画の撮影でスタントに失敗し、橋から川に落ちて下半身不随の大怪我を負ったロイと、ふとしたきっかけから話をするようになる。ロイはアレクサンドリアに、六人の勇者たちが悪者たちに立ち向かう冒険の物語を、思いつくままに語り聞かせはじめる。それは、彼女をうまく懐柔して、自分が命を絶つための薬を彼女に持って来させるためのものだったのだが、やがてその物語は壮大な叙事詩となり、アレクサンドリアだけでなく、人生に絶望した語り手のロイ自身にも影響を与えはじめる……。

ロイがアレクサンドリアに語り聞かせる物語は、彼が適当に思いつくままにしゃべる作り話で、時にはアレクサンドリアのリクエストも加わったりするので、辻褄もあっていない、奔放で、何でもありの空想世界になる。何でもありだからこそ、風景も衣装も演出も、すべてにおいて極限まで美を追求することが可能になる。秀逸なアイデアだ。最近の映画のように安易にCGなどに頼らない、実在する風景と俳優と衣装による圧倒的な美の表現が、観る人の心に刺さっているのだろう。

後にも先にも、こういう映画は、なかなかない。映画史に残る作品だと思う。

「ひとつの机、ふたつの制服」


三越前にある誠品生活に行った時、壁面の展示でこの「ひとつの机、ふたつの制服」の存在を偶然知り、台湾への旅に出発する前日に、映画館に観に行った。スクリーンで観れてよかった、としみじみ思えた。

舞台は、1990年代後半の台北。熾烈な受験に敗れ、名門女子高の夜間部に進学させられることになった小愛(シャオアイ)は、昼間部の優等生である敏敏(ミンミン)と、同じ机を使う桌友(机友、デスクメイト)として仲良くなる。互いの制服を交換したりして敏敏と学校をサボるなどしはじめた小愛は、バイト先の卓球クラブで知り合って気になっていた青年、路克(ルー・クー)に、敏敏が想いを寄せていることを知る……。

成績や容姿、貧富の差など、90年代の台湾で生きる女子高生ならではのコンプレックスをわんさか抱えている小愛は、咄嗟に嘘をついたり、隠してごまかしたりしながら、その時々の幸せをどうにか守ろうとする。やがてそれらがどうにもごまかしきれなくなった時、ある出来事をきっかけに、彼女は剥き出しの自分自身と向き合い、母親や敏敏との関係を繋ぎ直し、次への一歩を踏み出していく。小愛と敏敏と路克がその後どうなったのか、あえて明確に描かれないままだったのもよかった。

台湾という国に興味のある人には、迷うことなくおすすめできる映画。配信などで観られる機会があれば、ぜひ。

竹沢うるま × 山本高樹「境界と中心 旅の波間で揺れ動くもの」


2026年1月25日(日)夜、下北沢の本屋B&Bで、写真家の竹沢うるまさんとのトークイベント「境界と中心 旅の波間で揺れ動くもの」に登壇します。竹沢さんの新作写真集『Boundary | 中心』と、僕の『流離人のノート』とのW刊行記念トークイベントです。本屋B&Bへの来店参加のほか、配信視聴(アーカイブ配信付き)の形でも参加できます。詳細とお申し込みは下記にて。

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台湾での日々

昨日の朝、台湾から帰国した。マイルで取った特典航空券の枠の関係で、台北からいったん香港に飛び、そこから羽田に飛ぶという、意味のわからないルートでの帰国となった(苦笑)。

約一カ月間の台湾での日々は、気楽ではあったが、いろいろ得たものの多い日々でもあった。シンプルに旅を楽しむ中で、あらためて気づいたこともたくさんあったし、じっくり考えごとをする時間がたっぷりあったのもよかった。おかげで、あれこれ悩んでいたこともすっきり整理できで、気分的にもリフレッシュできた気がする。

行きたい場所に行き、見たいものを見て、食べたいものを食べ、やりたいことをやる。現地の人に負担や迷惑をかけないかぎり、旅はそういうものでいいのだと、あらためて思った。

一カ月ほど、台湾へ

あさってから一カ月ほど、一人旅に出る。行き先は、台湾。首都の台北から、主に台鉄を使って移動し、街ごとに数泊ずつしながら、反時計回りに一周してこようと思っている。

今週に入ってからは、その旅の最終的な準備で、まあまあ右往左往していた。予約するのが難しい阿里山森林鉄路の切符を、一部の区間だけだがどうにかゲットし、それぞれの街で泊まれそうな安宿もおおよその目星をつけ、キャンセル無料のところにはWeb経由で予約を入れた。旅程は今日の時点でもまだ調整しているが、だいたい固まった。最後の三日間は、有休を取った相方と台北で合流して、二人で観光をする予定。

台湾のような国だと、今はWebで検索するだけで、ありとあらゆる情報が手に入る。Googleマップはもちろん、乗換案内のアプリやeSIMのアプリなど、便利なツールも揃っている。そうした情報やツールは、もちろんある程度は準備しているけれど、あまり当てにしすぎないようにしようとも思っている。その日その場所でしか感じ取れないこと、体験できないことを大事にしたい。

とりあえず、標高四千メートルの高地でユキヒョウを撮るよりはラクだと思うので(笑)、ゆるりと行ってきます。