「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」


イギリス南部の街、キングスブリッジで暮らす、ハロルドとモーリーンの老夫婦。ある日、ハロルドのもとに、かつて地元のビール工場でともに働いていた女性、クイーニーからの手紙が届く。彼女はスコットランドとの境界に近い街ベリックにあるホスピスで、まもなく訪れるであろう最期の時を待っていた。返事の手紙をしたため、郵便ポストに投函しに出かけたハロルド。しかしなぜか、彼はそのまま歩き出していた。キングスブリッジからベリックまで、500マイルもの道程を。

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」は、こうして出発した一人の老人の徒歩旅を描いた映画だ。原作小説の著者、レイチェル・ジョイスが、この映画の脚本も手掛けている。冒頭のあらすじや予告編の動画だけを見ると、友人を想いながら途方もない距離の徒歩旅に挑む主人公が、大勢の人々の感動を呼び起こすようなゴールを迎える作品なのかな……とうっすら思っていたのだが、その予想は良い意味で裏切られた。途中で道連れになった若者たちも犬も、やがては離れていき、ハロルドはたった一人でベリックを目指す。最愛の息子であったデイヴィッドに対する悔恨。かけがえのない友人であったはずのクイーニーに対する悔恨。取り返しのつかない過去に対する苦い思いを抱え、身も心もぼろぼろになりながら、ハロルドはベリックに辿り着く。そこで待っていたのは……。

レイチェル・ジョイスの著作には、この映画の原作になった作品のほかに、クイーニーの側から描いた物語と、モーリーンの側から描いた物語もあるという。二つのアザーストーリーと併せ読むことで、彼ら三人の想いが絡み合った物語は、はじめて完結することになるのだろう。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *