7月29日に閉館することが決まった、東京・神保町の岩波ホール。54年間に及ぶというその歴史に幕を下ろす最後の作品に選ばれたのは、ヴェルナー・ヘルツォーク監督のドキュメンタリー「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」。これは見届けねば、と思い、昨日観に行ってきた。
生前からの友人の一人だった監督の語りによって、チャトウィンの人となり、旅の軌跡と思索の遍歴が、南米やオーストラリアで撮影された映像とともに、淡々と、しかしリリカルに紡がれていく。『パタゴニア』や『ソングライン』を読んでいない人には、理解が追いつかない部分がもしかしたらあるかもしれない。ところどころでチャトウィン自身による自著の朗読の音声が挿入されていたのが、しみじみと良かった。
生来の人たらしで、おしゃべりで、作り話が大好きで、誰よりも優れた審美眼と飽くことを知らない好奇心を持っていて、死ぬ間際までずっと、旅に焦がれていた……。
彼には遠く及ばないけれど、僕も、心の赴くままに旅をして、文章を書き続けて、生涯を終えられたら、と思う。